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6歳で山梨百名山を踏破!わずか9か月で実現した、“小さな登山女子”の挑戦

新生の登山女子が誕生だ。

通称”レイチェル”こと、伴野嶺ちゃん6歳。山梨百名山を踏破しよう!と思い立ってからわずか9か月で残りの97座を登り切ったというパワフルな女の子だ。

おとなになってから登ることが多い山に、こうも若いうちから魅了されているのはなぜなのか。山梨百名山踏破までのプロセスと、そもそもレイチェルちゃんがどんな人物なのかを知りに、母親の直美さんとレイチェルちゃんのもとを訪ねた。

きっかけは地元の登山イベントへの軽い気持ちでの参加だった

登山のきっかけは、一般的な人と大差はなかった。1座目の小楢山、2座目の瑞牆山は、百名山は意識せずに、直美さんが地元の登山イベントにレイチェルちゃんをただ連れていっただけだったという。続いて3座目の日向山に登ったときに「百名山を3つ登ったね。山梨百名山っていうのがあるからママと挑戦してみる?」と話したところ、「やるやる!」と答えて踏破に向けて目指すように。そこからわずか9か月で山梨百名山を踏破した。初代の登山靴はセールは200円で購入したもの。新しい靴を8月に買ったものの、頻度が多すぎて3か月でボロボロになったという。

左が初代の登山靴。右が今も(取材当時)履いている2代目だ

左が初代の登山靴。右が今も(取材当時)履いている2代目だ

短期踏破の秘訣は、計画性とレイチェルちゃんのパワフルさ

9か月という短い期間で踏破をしたレイチェルちゃん。踏破に向けた計画もしっかり行っていた。雪山はさすがにまだまだ過酷なため、甲斐駒ヶ岳や北岳のような標高の高い山は、夏と秋のうちに登ってしまって、寒くなってからは低い山を狙ったそう。つまりは登りはじめのときに高い山を制したことになるため、そのエネルギーに驚きだ。

登りはじめた当初は、レイチェルちゃんも「疲れた~」などちょっとした文句を言いながら登っていたが、途中からは自分からガンガン登っていくように。踏破も途中で嫌になったらやめていい、登ってるときも辛くなったら下りていいと直美さんは話しているが、レイチェルちゃんはあきらめずに登りきる。途中で引き返したことがないというから驚きだ。むしろ、下山後まだ時間があったのでそのままもう1座目指してしまうほどパワフルなのだ。とはいえ、雷雨に遭ったり大荒れな天候になったことがないのも運がよかった、と直美さんは話す。

果敢な挑戦は、リスク対策とセットで

いくらパワフルだと言ってもまだ6歳の女の子だ。危険な山や場所でのリスク対策は忘れない。基本的には甘えは許さないという考えで渡渉以外は抱っこしないものの、山梨百名山の中でも危険な四天王(鋸岳・鶏冠山・笹山・笊ケ岳)はガイドを連れてケアをしてもらいながら登った。また、山行中に直美さん自身に何かがあったときもレイチェルちゃんを頼るわけにはいかないので、セルフレスキューやロープワークの講座も受けるなど、安心安全に踏破に挑めるような取り組みをしたそうだ。レイチェルちゃんの無邪気な笑顔とは対称的に、直美さんは実現可能性を高める努力を惜しまない。

ガイドさんと登った鳳凰三山(直美さん提供)

ガイドさんと登った鳳凰三山(直美さん提供)

「山は公園」「急坂は滑り台」がレイチェル流

山はレイチェルちゃんにとって最高の遊び場だ。

実は、景色についてはあまり興味がないという。それよりも岩場や鎖、吊り橋などアドベンチャー要素があるところが好きなようで、北岳の下りの最後の吊り橋を駐車場まで走り抜け、駐車場で待つバスの運転手を驚かせたというエピソードも。休憩もほとんどせず、百名山の標柱を見つけたときはそれ向けて走るなど子供らしく無邪気な楽しみ方なのだ。

この日登った湯村山の岩場も楽しそうに登る姿が印象的

この日登った湯村山の岩場も楽しそうに登る姿が印象的

「山は公園、急坂は滑り台!っていつも言っているんですよ」と直美さんは話す。確かに子供にとっては信じられないくらい大きな公園であり、自分の脚で進むにつれて見たことのない遊び場スポットが広がっているのだろう。好きなシーズンはと聞くと意外にも「冬」だと答えてくれたレイチェルちゃん。寒い季節だけど歩けば暑くなるからどっちも楽しめるから、というのがその理由。どの山のどこがいいといった理屈ではなく、全身で山や自然を楽しんでいる。

視界のいい平坦な登山道を見つけては駆け抜けるレイチェルちゃん

視界のいい平坦な登山道を見つけては駆け抜けるレイチェルちゃん

そして2人とも山には神さまがいると信じている。レイチェルちゃんは「天狗さんがお山で守ってくれている」と話し、暑いときは「天狗さん、風をちょうだーい」、強風のときは「風を止めて―」と言うそうだ。あくまで自分たちが自然の中に入らせてもらっている、という考えは登山をするみんなが学ぶべきものだろう。

山で育む、親子の絆

“嶺”という名前は、文字通り山のことを考えて名付けたという。「名前の通り、彼女が山を好きになってくれてうれしいですね。2人で一緒に色々なところに行けて、下山後お風呂で話したりするのが楽しいんですよ」と直美さん。山梨百名山のうち、2人で登ったのは半分くらいということで、実に長い時間を2人で過ごしている。待ってとかどっちでもいいとかは山では許さないと厳しい面も見せる直美さんだが、「お母さんと一緒にいられる時間が長いのが嬉しい」「ちゃんと登ればやさしいし、褒めてくれる」とレイチェルちゃんが山が好きな理由のひとつとして話してくれた。

直美さんはこう話す。

「山は逃げないんだからレイチェルがもっと大きくなってから登ればいいじゃない、っていう話もあるかもしれないけれど、本人が登りたいって言っているし今やりたいなら今やるべきだと思っているんです。将来なにがあるかなんて分からないじゃないですか。山を登ってても悔いが残らないわけではないけれど、目の前にあるやりたいことは2人でチャレンジしていきたいなって思うんです」

色々な理由をつけて後回しにしたり、まだいいかなと先延ばしにしがちなことも多くある。そんな中、いまレイチェルちゃんと挑戦する姿に、自分はどうしたいんだろうかと感じる人も多いのではないだろうか。

踏破の記録はこうして思い出の写真とともに直美さんが冊子に残している

踏破の記録はこうして思い出の写真とともに直美さんが冊子に残している

山で鍛えた精神力と体力はきっと人生の糧になる

直美さんが「どっちでもいい」を禁止するのにはワケがある。相手を思いやる以外では自分で決める癖をつけることで、山での判断力・決断力・実行力を身に付ける。そうして素早く行動することがレイチェルちゃんの登山力を上げ、安全にもつながると考えているからだという。

直美さんは幼い頃に母親を失い、母親はまだ小さい直美さんを残して死にたくないと言っていたそう。直美さん自身が当時の母親の年齢に近くなり、同じことを考えるそうだ。

「私がいなくなったらレイチェルはひとりぼっち。人間何があるかわからないので、もし彼女が一人になったとしても、しっかりと自立して”わたしには山がある”と芯を持って逞しく育ってほしいなという気持ちもあるんです」

山梨百名山の登頂証明書。こういった積み重ねが自信と自立につながる

山梨百名山の登頂証明書。こういった積み重ねが自信と自立につながる

2人の挑戦は、仲間も動かす

踏破した百名山のうちその半分くらいは、2人だけではなく同伴してくれる方がいるという。山で知り合って一緒に登るようになったり、facebookの山梨百名山グループのメンバーと連絡とり合って登ったりと、その輪は次第に広がっていった。

記念すべき山梨百名山踏破に駆けつけてくれた仲間たち(直美さん提供)

記念すべき山梨百名山踏破に駆けつけてくれた仲間たち(直美さん提供)

直美さんの旧来からの友達の中には、「レイチェルが百名山登ってるから自分もはじめてみる!」と一緒に山をはじめてついてきてくれる人もいるんだそう。2人の挑戦は山ファンはもちろん、これから山をはじめてみようと思う人の背中をも押しているのだ。

次の挑戦は日本百名山を含めた全国へ

次の目標は日本百名山+二百名山+三百名山で、現在は関東近県から挑戦中。モンベルのチャレンジ支援制度を通して、登山装備を提供してもらうことも決まったそう。踏破に向けて、激しい岩場などの対策のためにもボルダリングをはじめたり、山に限らず自然をフィールドに活躍できるようにカヌーもはじめたりとその活動の幅は無限大。

共感者からサポートも得ながら活躍するレイチェルちゃん。また近い将来、この小さな登山女子がニュースで我々の前に登場することになりそうだ。

*レイチェルちゃんはYAMAPでも活動を記録中。ぜひ応援を!
https://yamap.co.jp/mypage/515814

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