• インタビュー
  • キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。

釣り歴35年の達人とワカサギ釣り体験。豊かな自然と外遊びの魅力を伝える『木崎湖POW WOW』

皆さんは、ワカサギの穴釣りをしたことがありますか?
やってみたいと思いながらも、寒そうだし、装備が大変そう…という人も多いのではないでしょうか。わたしもその一人。今回、取材班は初心者向けの“穴釣り”を取材予定でしたが、暖冬の影響で断念。そんな折、大町に釣り歴35年のワカサギ釣り名人がいる、という噂を聞きつけて、木崎湖を訪れることにしました。

繊細さと集中力が要のワカサギ釣り

「僕が生まれる前までは、ここでも穴釣りができたんです」
木崎の北西岸にあるアウトドアクラブPOWWOW(以下、パウワウ)の伊藤さんは言いました。

長野県大町市、日本でもトップレベルといわれる水の美しさを誇る木崎湖(きざきこ)では、11月〜4月上旬まで船に乗ってワカサギ釣りができます。

木崎湖の北西岸にあるキャンプ場とアウトドアクラブパウワウ
木崎湖の北西岸にあるキャンプ場とアウトドアクラブパウワウ

「この時期のワカサギ釣りは、正直難しいんですよ。“繊細さ”と“集中力”、そして瞬発力も重要です」

釣り歴35年の伊藤さん曰く、“水温が下がる厳冬期は、魚の運動量が減り、秋や春に比べると釣りも難しい時期”。初心者の取材班に成果は出せるでしょうか?

木崎湖パウワウ代表の伊藤洋平さん
木崎湖パウワウ代表の伊藤洋平さん

「ここは水がきれいなので、ワカサギの味もめちゃめちゃうまいんですよ。しっかりコツを覚えて、おいしい天ぷらを食べられるようにがんばりましょう!」
朗らかな伊藤さんに先導され、桟橋からボートに乗り込み、既に沖に出ていたドーム船へと向かいました。

ワカサギ釣りドーム船。仮設トイレも付いていて1日楽しめる
ワカサギ釣りドーム船。仮設トイレも付いていて1日楽しめる

ドーム船の船内はストーブが焚かれ、上着を脱ぎたくなるほどの温かさ。朝から乗船している常連客が和やかに釣りを楽しんでいました。指定の席につき、まずは道具の確認です。

左から時計回りに釣竿、仕掛け、バケツ、座布団、ハサミ、重り、餌
左から時計回りに釣竿、仕掛け、バケツ、座布団、ハサミ、重り、餌

体験では、1本の糸に針が5個付いている仕掛けを使います。座布団に座ると、竿に仕掛けをつけるところからスタートです。仕掛けには非常に鋭いカエシ(針)が付いているので、服や手に刺さらないよう要注意。

道具の使い方、餌の付け方もわかりやすく丁寧に教えてくれる伊藤さん
道具の使い方、餌の付け方もわかりやすく丁寧に教えてくれる伊藤さん

次は、餌(釣り用語で「サシ」)付け。季節によっては餌がなくても釣り糸を垂らすだけで釣れるそうですが、今回はサシを餌に使います。
少々残酷ですが、針を刺した後、まだピンピン動いている虫をハサミで半分に切ります。これがなかなか難しい!

サシを半分に切る。それによってワカサギが食べやすくなり、エキスが出て寄せにもなる
サシを半分に切る。それによってワカサギが食べやすくなり、エキスが出て寄せにもなる

仕掛けの準備ができたら、いよいよ、釣り糸を湖に投入します。
「ワカサギ釣りは、水深20mの底釣りです。重りが底に着いたら自然に竿先が垂れるので、少し巻き戻して固定してください」
伊藤さんに言われるがままに、そろそろと糸を垂らしました。

針金を起こして糸を垂らす。重りが底に着いたところで少し巻いて浮かせるのがコツ
針金を起こして糸を垂らす。重りが底に着いたところで少し巻いて浮かせるのがコツ

「糸を垂らしたら、ずっと竿先を見ててくださいね。大きいアタリで1cm、小さいあたりで2mmの変化を手と目で感じ取るんです。ワカサギが食いついた瞬間に竿を持ち上げるんですよ」

半信半疑で待っていると、何やら手応えが!
即座に伊藤さんから声が掛かります。
「竿を上げたら、もう一度竿先を見てください!アタリがあったら揺れるはずだから」

竿がふれたら、思い切って引き上げ、竿先に注目
竿がふれたら、思い切って引き上げ、竿先に注目

「揺れてる!」
予想以上の早いアタリに浮かれて顔がにやけます。慎重にリールを巻いて…
ビギナーズラック!かわいいワカサギが釣れました。

釣って食べる体験が教えてくれること。

開始早々2匹釣れたものの、この後はチャンスを逃し続け、伊藤さんに言われた“繊細さと集中力と瞬発力”の意味を痛感しました。

「秋は仕掛けを落としただけで釣れるけど、この時期はこっちがやることをやって、正解じゃないと釣れない。今食い損ねたやつでも、またちょっと動かしてやると食いつく場合もあります。よく観察していると、風が出てくると魚も動いたり、水温が低い日にはほとんど動かなかったり、生き物も自然の何らかの変化を感じとって行動していることがわかって面白いですよ」

途中から風が出て水面が揺れ始め、“今日はアタリが少ない”と言いながらも小刻みに仕掛けを動かし、次々とワカサギを釣り上げていた伊藤さん。一方、圧倒的に繊細さと集中力が足りなかった取材班のバケツの中身は2匹だけ…。天ぷら撮影用には伊藤さんのお情けをいただくことにして、船を引き上げました。

岸へ戻ると、いよいよワカサギの天ぷら作り。キャンプ場の古いバンガローをリメイクしたキッチン&ダイニングルームで、採れたてのワカサギを揚げます。

ワカサギの水をよく切ってから天ぷら粉をまぶす
ワカサギの水をよく切ってから天ぷら粉をまぶす

ワカサギを生きたまま油に揚げるので、水切りをしていても、油が跳ねます。ナイロンのウェアなどは穴が空いてしまう可能性もあるので、できれば脱いで安全に行いましょう。

採れたての命を、揚げたてで。まずは何もかけずに頂きます。
臭みがなく、身が凝縮されていて、おいしい!おやつ感覚で何個でも食べられそうです。

「このおいしさを知ってもらいたいと思って、やっているんです。過剰なサービスはしたくないけど、釣れなかったお客さんにも喜んで帰ってもらえるように、天ぷら用のワカサギはいつもストックしてあります」と、伊藤さん。

そもそも、伊藤さんはどうしてこのサービスを始めたのでしょうか?ワカサギを食べながら、お話を伺いました。

木崎湖の自然の豊かさを知ってもらいたい

「実家が木崎湖で貸しボート屋をやっていて、最初はそれを手伝っていたんだけど、単に物のやり取りではなく、お客さんにこの環境の素晴らしさとか、楽しみ方を伝えられればいいなという気持ちがずっとありました」

子どもの頃から外遊びが大好きで、サーフィンやスノーボードをしに海外に行ったりもしたけれど、やっぱり地元大町が一番のフィールドだと気がついたという伊藤さん。

「山があって、きれいな水と田園風景があって、自然だけでなく人との近さもあって、全てが揃っているんです。釣りができて、おいしい魚が食べられるということこそ豊かさの象徴だと思うんです。便利さとか快適さではなくて、自然の素晴らしさを伝えていきたいと思っています」

そして、2016年に老朽化し、寂れてしまっていた海ノ口キャンプ場を借り、通年営業のキャンプ場と、夏はSUP、冬はワカサギ釣りなど季節ごとのアクティビティを体験できるアウトドアクラブPOWWOWを開業。4年を経て伊藤さんの努力はじわじわと実を結び、県外や海外からもお客さんが訪れるようになりました。

夏はSUPやキャンプのお客さんで賑やかに。右は伊藤さんが作ったティピのグランピングサイト(提供写真)
夏はSUPやキャンプのお客さんで賑やかに。右は伊藤さんが作ったティピのグランピングサイト(提供写真)

とはいえ、伊藤さんにはまだまだやりたいことがあるようです。

「自然の中で、魚とか虫とかに触ったことのない人が多いと思います。これだけ素晴らしい環境に恵まれていても、地元の子どもたちでさえ外で遊ばなくなっています。だから、まず地元の人に知ってもらいたいと思って、小学生向けに外遊びのイベントをやっています。魚を釣って、焼いて食べたら、自然の価値がわかると思うんです。まずはそこに気づいてもらって、ここを地域の拠点にしていけたらいいなと思います。」

最後に、“POWWOW”とはネイティブインディアンの言葉で、“人々が集まる場”という意味だと教えてもらいました。伊藤さんが開いた広場は、木崎湖の自然の豊かさを守り継ぐ拠点として、これからも多くの人が集うことでしょう。

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取材を通し、ワカサギを「釣って食べる」というシンプルな体験は、単なる冬のアクティビティではないと気がつきました。それは、日常生活では得られない時間。自然界の小さな生き物たちの営みに思いを馳せ、食うもの食われるものの関係性や、人間のおごりに思いを馳せるきっかけとなる貴重な体験でした。

ワカサギ釣りが大漁だった方は、持ち帰ってぜひ自分なりのワカサギ料理を楽しんでください。こちらの記事を参考に!
釣って食う!釣れたてワカサギで4種のお料理

木崎湖POW WOW キャンプ場&アウトドア

長野県大町市平19004-1
TEL:0261-85-2494
電話受付: 6:30〜18:00
参考料金:
ワカサギ釣り体験 3時間(乗船+道具一式+天ぷらセット)大人5,300円(遊魚券1,000円別途)
http://kizakiko-powwow.com/

(写真:and craft 臼井 亮哉)

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