06 早春の山 〜野川かさね エッセイ〜

真っ青に澄んだ空の下、
肩をちぢこませて歩く。
この寒さがずっと続くのかと
少しうんざりしはじめた頃。

朝、カーテンを開けると
ぼんやりと煙ったような
春の陽が差し込んできた。

いてもたってもいられずに
家から一番近い山へと出かける。
最寄り駅から頂上までは
1時間半ほどの小さな山。

登山口から見上げた山は
まだ全体に茶色っぽく、
暖かい陽気のせいなのか
その輪郭も滲んでいる。

毎春、私はこの山で見る
スミレの花を楽しみにしている。
時期はまだ早いというのは分かっていたが、
紫色の小さな花との出会いを
期待をしている自分がいる。

登山道をゆっくりと進む。
林の中を歩き、吊り橋を越える。

ある分岐についた時に
ふと顔を上げると、
いつしか視線はスミレを求め、
地面ばかりを追っていたことに気づいた。

一度その気持ちをリセットするように
首と肩をぐるぐると回してみると、
視覚の隅に黄色いものがよぎった。
あ、と思い、それに近づき、
じっと観察し、シャッターを切る。

下ばかりを見ていた自分が
少し恥ずかしくなった。
見たいものだけを
探し歩くことは
自分の感覚を閉じているのと
一緒なのかもしれない。

黄色いミツマタの丸い姿が
山を下りたあとも
目に焼き付いたままだ。

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