
13 ヒツジグサ 〜野川かさね エッセイ〜
池塘に浮んで咲く。ヒツジグサ。
図鑑を見て、思い描いていたよりも
その花は、ずっと小さく、白い。
もっと近くで見たい。
木道にしゃがみこみ、
池塘に顔をできるだけ近づける。
カメラを構えず、じっと見つめる。
1点を見つめていた視線がふとぶれる。
木道が揺れている。
人が近づいてきた合図だ。
邪魔にならないように立ち上がり、横によける。
通りすぎるの待ち、またもう一度木道にしゃがみ、
ヒツジグサを見つめる。
その小さく白い花の姿の感触を
しっかりと自分のなかへとたぐりよせる。
触れることはできないけれど、
そのかわりにシャッターを切った。


写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。