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07 山の音 〜野川かさね エッセイ〜

山を歩くときの機材。
カメラ2台、フィルムを10本、露出計。
三脚はそのときに応じて。

35ミリの一眼レフのカメラ2台には
それぞれ35ミリと50ミリのレンズがついている。

あるときからその機材とともに
ICレコーダーを持つようになった。
手のひらに収まるほど小さく、
ボタン一つで録音できる簡単なものだ。

写真に夢中になると
ICレコーダーの存在はすっかり忘れて
カバンの奥にしまわれたまま山登りを終えることもしばしば。

それでも、ふと思い出したように山の音を録音する。
森の中での休憩のとき、山頂でのひとときに。
そして、一番多く音を集めるのが日の出の時間だ。

もちろん写真も撮影しているが、
太陽が昇るすこし前の時間帯にシャッターを切ることが多く、
あらかた撮影すると、
レコーダーを自分の胸の前あたりで固定して、
息も潜めてじっと音を録るのに集中する。

写真を撮ることで視覚ばかりに使われる全神経が
「聞く」ことへとシフトしていく。

録音を続けて1分ほど経つと
はじめは耳だけで聞いていた音が
自分の体全体にまとわりつくような感覚になり、
徐々に体のあらゆる所から
皮膚を通りぬけ、体のなかへと侵入してくる。

侵入してきた山の音たちは
体の中で共鳴しはじめ、
自分の体はもはや自分だけのものでは
なくなったようにすら思えた。
その間、ながくても2、3分ほどだろうか。

録音をやめて、またファインダー越しに風景を眺める。

山の音が自分の中で響きつづけている。

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