アウトドアにのめりこんでいくと、本当は誰にも教えたくない“とっておきの場所”というものにめぐり合うことがある。気軽に訪ねたいようで、でも軽率には訪ねたくない場所。自分の心がそこを求めたときに、自然と体が動いている。訪ねると、「ありがとう」と言いたくなる期待通りの景色や空気、そんな場所。


また来るね。
だから、どうか、このままで。


その想いは、訪問者であるわたしたちはもちろん、その場所を支える人も同じだった。

山梨県の山奥にある秘境、四尾連湖。その稀有な自然を大切に守る水明荘キャンプ場の主人・北島慎介さんも、まさにその人だ。

編集長であるわたしと北島さんとの出会いは、決して褒められるようなものではなかった。

どこかで耳にした、四尾連湖の存在。撮影のロケ地として使用しようと予約はしたものの、特別なアポは取らずに当日撮影班で訪ねた際に、「撮影の場合は事前に申請をお願いしているんです」と北島さん。それが北島さんとの出会いだった。

そんなこと、常識的に考えれば当たり前のことだ。当時はまだそこまで頭が回らなかった新米編集者のわたしに、北島さんはそれでも突き放すことなく穏やかな口調で説明してくれた。

それ以降、四尾連湖に魅せられ、北島さんに魅せられ、.HYAKKEIの周年キャンプや撮影、プライベートのキャンプと何かあれば訪ねさせてもらっている。

ここにあるのは自然そのものだ。何度訪ねても季節の変化をダイレクトに感じる。それでも脈々と流れる変わらぬ心地良さに、ホッとする。

その心地良さだけで満足していたわけだけど、そういえば北島さんとゆっくりお話する時間は後にも先にもその最初の出会いのとき以外なかった。しかも当時はただの大失態だ。あの日から約3年間の刻が流れている。

いろいろな事情が重なった。水明荘のfacebookページでは連日のように「いっぱいにつき、予約受付終了」の投稿が続く。四尾連湖のこと、水明荘のこと、キャンプのこと。今だからこそ、じっくりお話が聞いてみたくなった。

自然が生み出し、自然によって維持される四尾連湖

四尾連湖(しびれこ)は、山梨県西八代郡市川三郷町にある湖。ダム湖ではない、湧き水と雨水だけ形成される自然湖だ。山をぐんぐん上がっていき、蛾ヶ岳(ひるがたけ)の登山口を横目に少し下ると突如現れる神秘の湖である。

自然が生み出し、自然によって維持される四尾連湖|「“とっておきの場所”であり続けるために。関東屈指の秘境キャンプ場、山梨県・四尾連湖水明荘キャンプ場」の2枚目の画像

“富士五湖”という言葉は、聞き覚えがあるかもしれない。山梨県側の富士山麓に広がる湖の総称なのだが、それに3つの湖を加えて“富士八海”と呼ばれる信仰の湖がある。四尾連湖は、その富士八海のひとつだ。今でこそ多くのアウトドアフリークが足を運ぶようになったが、もとは地元の人すらあまり訪ねてこない静かな湖だ。

北島さんはこの四尾連湖畔で営まれる山荘、水明荘の4代目ご主人。そもそも水明荘は、昭和15年に教師だった先代のご主人が隠居の地として建てた家だったそうだ。つまり宿ではなく住居だったのが、その後の主人が宿として経営をはじめ、戦後に裏にそびえる蛾ヶ岳の登山者たちが山荘として利用していたそう。

時代の流れとともに生き、オートキャンプブームとは全く違う歴史をたどる水明荘。北島さんは2005年からこの地を任されている。

自然が生み出し、自然によって維持される四尾連湖|「“とっておきの場所”であり続けるために。関東屈指の秘境キャンプ場、山梨県・四尾連湖水明荘キャンプ場」の4枚目の画像

「最近、ようやく私たちのビジョンというか、こうしていきたい、という想いが確かなものになったんです」


愛媛県出身で前職は潜水士。この辺りのことは何も分からず15年前にやってきた北島さんは、そう話す。

何も分からない、からこそ受け入れられる

キャンプ場は、いろいろな想いで運営されている。親から継いだ2代目として、キャンプ愛から、子供が自然に触れる場として、ビジネスとして、地域から任されて……。

北島さんも当初は「任されたのだから、盛り上げていかなければ」と試行錯誤をしていったのだという。

「わたしはキャンプのこともよくわからないんです。こだわりとか、こうでなくてはいけない、みたいなものもない。だからこそ、周りの方やキャンプ好きのお客さんからの意見を幅広く受け入れられたところがあります」

何も分からない、からこそ受け入れられる|「“とっておきの場所”であり続けるために。関東屈指の秘境キャンプ場、山梨県・四尾連湖水明荘キャンプ場」の4枚目の画像

北島さんを一言で表すとすれば、“柔らかい”に尽きると思う。笑顔でお客さんを招き、最低限のルールやマナーを伝えた後は信頼する。

「きっとここでキャンプをする人たちは、リフレッシュ、リラックスしたくて訪ねているにちがいない。だったら自分ができるのは、受け入れて、見守ることなんですよね」

何も分からない、からこそ受け入れられる|「“とっておきの場所”であり続けるために。関東屈指の秘境キャンプ場、山梨県・四尾連湖水明荘キャンプ場」の6枚目の画像

環境もお客さんも“持続していく” それが目指すところ

15年間の運営と昨今のキャンプブームから導き出した北島さんの目指すところは、”持続していく”ということ。


・この美しい環境を持続させていく

・一回きりではなく、お客さんに何回も持続して来てもらう

・キャンプ場として山荘として水明荘を持続させていく


そのためのひとつのキーワードが”変わらない”ということだ。


「生意気なんですけど、キャンプ場は人数制限をしているんですよね。本来のキャパシティより少し余白を持たせて、来てくれたお客さんが伸び伸びとキャンプができるようにしています。それはお客さんのためでもあるし、この環境を守るためでもあるんです」

「任せてもらった以上、山荘を盛り上げないと!もっと有名にしなきゃ!って思っていた時期もあったんです。けど、ふと気づいたんですよね。この環境は、人間がどうこうしてできているのではなく、人間がいないからこそできた環境なんだって。だからここみたいな場所は、操作してはいけないんです」

今年に入ってからは、某アニメに四尾連湖が登場したこともあって以前よりキャンプのお客さんが増えた。それも自分たちが目指すところを考える良いきっかけだったという。

「わたしの役割は、環境やお客さんのバランスを取ることなんです。もともと何もできない自分だからこそ、それをやるべきなんだと」

環境もお客さんも“持続していく” それが目指すところ|「“とっておきの場所”であり続けるために。関東屈指の秘境キャンプ場、山梨県・四尾連湖水明荘キャンプ場」の4枚目の画像

キャンプ場オーナーとしてはもちろん、この貴重な四尾連湖自体を守りながら、その魅力を伝えていくオーナー。北島さんはそんな仕事をしているのだ。

また来たい、とっておきの場所であり続けるために

「四尾蓮湖は、15年前とまったく変わってないんですよ」

今までを振り返って北島さんはこう話す。

「ここは本当に不思議な湖で、みんなそれぞれ思い出がある。特定のサイトが好きでいつもそこを確保する、とか、亡き人が好きだったから毎年訪ねている、とか。そういう場だからこそ、なおさら変わらないようにしないといけないんです」

また来たい、とっておきの場所であり続けるために|「“とっておきの場所”であり続けるために。関東屈指の秘境キャンプ場、山梨県・四尾連湖水明荘キャンプ場」の2枚目の画像

ここはお世辞にも快適なキャンプ場とは言えない。むしろ不便なキャンプ場と言った方が正しいだろう。初めて訪ねた時は極寒の1月で、水も止まっていた。それでもこうして多くのお客さんの特別な場所として、昔から今まであり続けている。

「ビジョンが見えてきた今、僕たちにとっては第2期を迎えています。あくまでここは自然によって生まれた環境。今は僕がバトンを持っているという認識で、そのバトンをしっかりと握って、次へとつなげていけるようにしたいと思っています」

今回の取材でも、北島さんはいつもと同じく優しく話してくれた。こうしてたったひとつのかけがえのない環境を守り続けてくれる存在というのは、アウトドアマンとしては本当にありがたいものだと思う。わたしたちが心地いいと思える環境は、自然が作り、そして人が守っている。

「キャンプがブームで終わってほしくないし、キャンプという縛りではなく、自然の中で過ごすということ自体が文化として根付くといいですね」

最後にそう話してくれた北島さん。

この地が変わらぬようバランスを保っていることで、自然とそんな文化づくりに貢献しているのだと思う。

また来たい、とっておきの場所であり続けるために|「“とっておきの場所”であり続けるために。関東屈指の秘境キャンプ場、山梨県・四尾連湖水明荘キャンプ場」の6枚目の画像

何度も足を運んできたが、今回の取材を通して改めて感じた。この四尾連湖という唯一無二な自然環境、そして、それをいつも優しく見守る北島さんと水明荘があるからこそ、一層”とっておきのキャンプ場”になるのかもしれない。

焦らず、変わらぬ四尾連湖を、また訪ねてみたいと思う。

また来たい、とっておきの場所であり続けるために|「“とっておきの場所”であり続けるために。関東屈指の秘境キャンプ場、山梨県・四尾連湖水明荘キャンプ場」の8枚目の画像
四尾連湖 水明荘キャンプ場

<住所>
〒409-3602
山梨県西八代郡市川三郷町山保3378

<連絡先>
055-272-1040

<ウェブサイト>
http://www17.plala.or.jp/suimeisoushibire/


(写真:大林 直行

.HYAKKEI編集長 羽田裕明

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