• インタビュー
  • キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。

山の恵みが紡いだビール コーヒーロースターが醸す『北アルプスブルワリー』

今登ってきた山、滑ってきた山、その山々の地中を通って育まれた水で醸造されたクラフトビールがある、ときいたら、ビール好きのアウトドアラバーズにとっては飲まずにはいられませんよね?
皆さんを代表して、飲んできました!

水がおいしいから、ビールがおいしい。

JR大糸線信濃大町駅。北アルプスの登山や黒部ダム観光の玄関口となる駅から徒歩15分ほどの場所に、そのブルワリーはありました。

奥の醸造所とバーの間にカウンターがあるシンプルな作りの店内

奥の醸造所とバーの間にカウンターがあるシンプルな作りの店内

「お客さんの顔を見ながら会話ができるように、カウンター席をメインにしています」

と出迎えてくれたのは、ブルワーの松浦周平さん。スノーボーダーからコーヒーのロースター、そしてブルワーになったという異色の経歴の持ち主です。

初めての人にはまず“3種飲み比べ”をお勧めしているとのことで、早速、松浦さんおすすめのタップを注いでもらいました。

ライトラガーからIPAまでスタイルの異なる8種類のビールがラインナップ

ライトラガーからIPAまでスタイルの異なる8種類のビールがラインナップ

左からコーヒーパンチ、氷河クリアスタウト、氷河ライトラガー

左からコーヒーパンチ、氷河クリアスタウト、氷河ライトラガー

“コーヒーパンチ”というネーミングにひかれて、まず一口。豆の芳ばしさがしっかりと鼻を抜けました。まさに、コーヒー味のビールです。その意外なマッチングに興奮していると、松浦さんが言いました。

「見た目を裏切れるぐらいコーヒーの味にしたくて、500リットルの水に対し、25kgの豆を使っています。普通に飲むコーヒーとほとんど同じ濃度です」

残りの2つのビールも非常に口当たりがよく、取材開始早々、飲んだくれてしまいそうでした。

北アルプスブルワリーの松浦周平さん。トレードマークのパンチパーマはメンテナンスが欠かせない

北アルプスブルワリーの松浦周平さん。トレードマークのパンチパーマはメンテナンスが欠かせない

「お客さんには、“水がおいしいから飲みやすいんです”と伝えています」と、松浦さん。

大町の水道水は、山の水源地から取水された硬度12度前後の超軟水。窒素含有物などが極めて少なく、水質の美しさも県内ではトップクラス。浄水場もありません。その水の魅力を発信するために北アルプスブルワリーが作られたと言います。

ブルワリーで使用している水道水は「男清水」と呼ばれ、黒部ダム近くにある水源地から取水している

ブルワリーで使用している水道水は「男清水」と呼ばれ、黒部ダム近くにある水源地から取水している

「ここの水で仕込むと、どのビールも角がなくてまぁるい、すっきりとした味に仕上がるんです。硬水で仕込んだ特有の苦味が好きな人には物足りないかもしれないけれど、ここでしかできないビールを作りたかったので、あえて“水を磨く”(硬度を上げる)といわれる水質調整をせずに、そのまま使っています」

珈琲屋からビール屋へ

松浦さんは兵庫県出身。現在の風貌からは想像しにくいですが、小学校から大学時代までは陸上400メートルハードルの選手として活躍した体育会系男子です。競技生活を終えた後はスノーボードにはまり、白馬へ。26歳の時、奥さんとの出会いをきっかけに定職に就こうと、大町に移り住みました。

白馬でのスノーボード時代(提供写真)

白馬でのスノーボード時代(提供写真)

移住の決め手となったのは、日常的に北アルプスの山並みが見える自然環境はもちろん、買い物の便もよく、野菜と水がおいしいという生活環境のよさでした。さらに、同世代の移住者が多く、子育てなどを助け合えるコミュニティがあったことも松浦さん夫婦の大町暮らしを豊かにしてくれました。

大町市内からの北アルプスの展望(提供写真)

大町市内からの北アルプスの展望(提供写真)

その後、職業を模索する中でコーヒーと出会い、焙煎の知識を身につけようと、東京の珈琲専門店で学んだ松浦さん。初めて自分が焙煎した豆を自宅に持って帰って大町の水で淹れた時、熟練の焙煎師が焙煎し、東京の水で淹れた珈琲よりも、格段においしいと気がつき、“これはいける!”と思ったと言います。

ブルワリーからも至近距離にある松浦さんの珈琲店「ユナイトコーヒー」(提供写真)

ブルワリーからも至近距離にある松浦さんの珈琲店「ユナイトコーヒー」(提供写真)

大町の超軟水でおとしたコーヒーは、豆本来の味と香りが引き立ち飲みやすい(提供写真)

大町の超軟水でおとしたコーヒーは、豆本来の味と香りが引き立ち飲みやすい(提供写真)

自家焙煎の珈琲店を開業後も、冬季は大町の鹿島槍スキー場でスノーボードのインストラクターとパーク作りの仕事を掛け持ち。家庭では、三児の父親として子育てに奮闘しています。一人三役も四役もこなしてきた松浦さんは、“こういう環境だからこそ、朝焙煎をして、午前中滑って、午後から店番をすることもできる”と、前向きです。さらに、“珈琲屋をやりながら、スキー場とも関わってきたことが、今につながっている”と教えてくれました。

というのも、北アルプスブルワリーは、鹿島槍スキー場を運営する日本スキー場開発の元会長が作った会社。

「飲み会の席で、社長から雑談混じりに“俺ビールやりたいねんけど”って言われて、”あ、いいっすね”、“ほな、やろうや”みたいな流れでしたね。行動力がある人なので、その2ヶ月後には会社が設立しました」

大町で10年間珈琲店を営む中、水のおいしさをもっと発信したい、よそから来た自分たちを受け入れてくれた地域に恩返しをしたいと思っていた松浦さんは、大町の水を使って地域活性化を図ろうと意気込む社長に共感。

会社設立後、ブルワーの適任者がなかなか見つからなかった時、“お前、コーヒーやってきてるんやから、ビールも作れるんちゃう?”と社長に持ちかけられた松浦さんは、“何の確信もなく”快諾したと言います。

そして、県外の2箇所のブルワリーで約2ヶ月の研修を重ね、テキストで頭に入れた知識を目で見て擦り合わせながら、製造工程を把握した松浦さん。大町に醸造所が完成し、醸造免許が下りるまでの期間は、タンクに水を入れて、ひたすら機械操作の体得に励みました。

ビールのおいしさを守るため、醸造タンクは部品も含め毎日清掃し、無菌状態を保っている

ビールのおいしさを守るため、醸造タンクは部品も含め毎日清掃し、無菌状態を保っている

2019年の秋に、醸造免許を得てビール作りを開始。初めは、IPAを作るつもりが濃度が濃くなったり、量が少なくなったりと、失敗を積み重ね、徐々に安定した味が出せるようになったと言います。

大町ならではのビールをアウトドアで

現在、北アルプスブルワリーのヘッドブルワーとしてビール醸造を担いつつ、ユナイトコーヒーの営業も両立している松浦さん。趣味のスノーボードをする時間はほとんどなくなってしまいましたが、その代わりに松浦さんが作ったビールが、ゲレンデへ。シーズン中は白馬の八方尾根スキー場と、岩岳スノーフィールドで北アルプスブルワリーのビールを飲むことができます。

白馬での販売の様子(提供写真)

白馬での販売の様子(提供写真)

瓶詰め機の導入が難航し、開店後数ヶ月は生産できなっかった瓶ビールも、2020年1月から販売に漕ぎ着けました。

「この規模の工場で醸造できるビールの量は限られているので、販路を拡大するのではなく、これを飲んだお客さんが、大町で飲みたいな、北アルプスに行きたいなと思ってくれるような販売をしてくれるお店での展開を考えています」

さらに、北アルプスブルワリーには、もう一つの目標があります。

瓶ビールはIPA、ラガー、ペールエールの3種類。ラベルは大町出身のデザイナーに依頼した

瓶ビールはIPA、ラガー、ペールエールの3種類。ラベルは大町出身のデザイナーに依頼した

それは、大町産のホップと大麦を使った“地産地消のビール”を作ること。
現在は外国産ですが、将来的には原材料に“地元産のホップを使っていきたい”と、来年から試験的にホップの栽培を始めるそうです。

醸造チームには、北海道で寒冷地での農業を学び、実際に庭でホップを育てているスタッフがいると、嬉しそうに語ってくれた松浦さん。100%大町産の原材料で作ったビールが飲める日も、そう遠くない未来かもしれません。

***
スキー、スノーボード、SUPに山登り。さまざまな楽しみ方がある北アルプスのフィールドに、新たな楽しみを添える北アルプスブルワリー。次の週末、スキーや登山の帰りに、立ち寄ってみてはいかがでしょう。大町の山と水をこよなく愛するブルワーが醸すおいしいビールが待っています。

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北アルプスブルワリー
長野県大町市大町上仲町4136−6
営業時間:16:00〜22:00
定休日:水曜日
TEL:0261-85-0780
公式フェイスブックページ:
https://www.facebook.com/n.alps.beer/

(写真:and craft 臼井 亮哉)

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