• キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。
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北アルプス登山客に愛され続ける家族のぬくもり「うちのペンション」

人と自然のぬくもりを感じたいなら、この地を訪ねた方がいい。

新穂高ロープウェイにほど近い、岐阜県の奥飛騨に位置する中尾温泉。ここで西穂高や焼岳登山者から愛される「うちのペンション」を営むうちのまさひとさんは、見た目も心意気も親分肌。家族でDIYしたという自慢の露天風呂や離れの囲炉裏は、常連客からの満足度も高い。

飛騨エリアのライフスタイルを追いかける編集部は今回、日々宿泊客とコミュニケーションをとりながら生活をするうちのさんにお話をうかがいました。そこには、中尾で暮らすこと、宿泊客との深いかかわりなど、グッとくるストーリーがあふれていました。

自然の景観を守り、常連客と育んできた奥飛騨・中尾温泉

住所は岐阜県高山市奥飛騨温泉郷中尾。奥飛騨の中でも奥地にある中尾温泉には、20数軒の民宿が立ち並びます。目の前には雄大な山々。ここまで目と鼻の先に山がある温泉郷も少ないかもしれません。

「中尾温泉は、3階建て以上の建物はつくらないポリシーでずっとやってきてるんです。バブルのときだってそのポリシーは曲げませんでした。だからこの景観が保たれているんです。20数軒ある民宿はどれも家族経営。それぞれに常連客がついていて、バブルがはじけてから次々と潰れてしまう温泉街もあった中、中尾温泉は今もこうして元気にやっています」

約30年前に2代目として父親からこのペンションを引き継いだまさひとさん。
実はうちのペンション自体が2軒目で、もとは家で民宿を営んでいたんだそうです。

「当時はまだ奥飛騨も観光地として成り立っていなかったので、中尾も民宿は数軒しかなかったんですよ。人も来ないので、民宿は女性がやって男性は外で働く、というのが通例でした。ところがあるとき、父が民宿に温泉を作ろうと考えて、歩いてすぐのところに家族で温泉を作ったんですよ。それがうちのペンションのはじまりなんです」

うちのペンションの代名詞ともなっている、この露天風呂。24時間、空いてれば誰でも貸切で入れるということで大人気。祖父・父・まさひとさんの3世代のDIYで作ったというこの露天風呂が、ペンションができるより先に生まれたというのには驚きです。

美しい北アルプスを眺めながらの贅沢な時間
美しい北アルプスを眺めながらの贅沢な時間

客室は2人用が基本。最近は1人で来られる方がすごく増えているため、1人用の部屋も準備中だとか
客室は2人用が基本。最近は1人で来られる方がすごく増えているため、1人用の部屋も準備中だとか

お話をうかがった離れの囲炉裏も常連客に好評。なんとこれも親子3代でDIY。うちのペンションのfacebookページを見ると、連日ここで常連客とお酒を交わすまさひとさんの姿がアップされています。

離れでの常連客とのひとこま
離れでの常連客とのひとこま

「この離れはみんなでお酒を楽しめたらと、常連客への恩返しということで数年前に建てました。常連客の中には、30年間、月一で静岡から夫婦で通い続けてくれている方もいます。30年ですよ?このペンションができてからほぼずっと来てくれているんです」

SNSの投稿を見て泊まりに来てくれた方は、決まって常連化するそう。ただの宿と客、という関係ではなく家族のように長い間付き合いがここでは育まれています。

初心者も玄人も、登山客にうれしい気配り

お客さんにアツく、生まれも育ちも中尾のまさひとさん。小さい頃から近くの山とともにある生活をしていたんだそうです。

「学校では全校登山というのがありましてね。低学年は焼岳や乗鞍岳に、高学年は西穂高の独標まで登っていました。大人になってからも、毎年すぐ裏の焼岳の登山道整備のボランティア活動をしています。毎回十数人は参加していて、最近は国からも補助が出るようになりました」

そして驚いたことに、1代目である父親の政光さんが山岳救助隊の隊長を務めていたんだそうです。

「今、外で聞こえているヘリの音あるでしょ?あれも救助隊のなんですけど、うちの父も乗っていたんですよ。わたしも父もこの辺りの山には慣れ親しんでいるので、宿泊者で要望があればガイドもします。特に冬は心配だっていうお客さんも多いですからね、スノーシューレンタルもしていますし案内もしていますよ」

救助隊長のガイドのもとで山を登れるだなんて。特別おおやけにはしていないそうですが、常連客には言われれば喜んでガイドするそう。

ガイド時の様子。右の緑のウェア姿が政光さん
ガイド時の様子。右の緑のウェア姿が政光さん

「登山口に止められる駐車場って限られていますよね。ハイシーズンなどで車が増えると路駐で溢れてしまって大混乱なんですよ。だから宿泊者に限っては車を預かってここから送迎するようにしています。はじめてのお客さんはそれを利用して山へ行かれる方が多いですね」

中尾は奥飛騨の中でも奥にあるため、宿泊客の大半は登山客で登山の前泊でやってくる方が多いそう。観光は流行り廃りがあるけれど、登山は趣味だからそれがない。今も昔も、登山客は老若男女来てくれるんだそうです。立地はもちろん、登山客には嬉しいケアをしてくれるんだから長年愛されるに違いありません。

そこにあるものでもてなす。それがうちのペンション流

最近は近くまで高速道路を通す計画が進んでおり、アクセスが良くなると思われる中尾温泉。それでもまさひとさんは懸念を示します。

「アクセスが良くなるってことは、日帰りになるお客さんが増えそうですよね。それはやっぱり寂しいんですよ。ここまでやっと来て泊まるっていう体験が良いのであって、すべてが気軽に来ることができるから良いわけじゃないんですよね。来てもらってわかる通り、ここはとにかく静か。聞こえてくる音といえば川の音くらいでしょ?静かだな、涼しいな、風呂に入って暖かいな、そういうことシンプルなことを求める人にはぴったりの場所なんです」

「だから、僕らが提供するものも、あえて作るのではなくてあるもので対応するんです。飾ったもので演出しなくてもここでの時間は十分に豊かなんですから。料理もそうですよ。春夏は山菜、冬はジビエ。こけ(きのこ)がとれる時期はこけ。天然のこけは出汁がすごく出て味付けしなくても美味しいんだから」

携帯でジビエをさばくところを見せてもらった
携帯でジビエをさばくところを見せてもらった

中尾ならではの自然と静けさを体験してもらうには、6月・11月のオフシーズンがオススメだそう。

「年末年始は常連さんで混むし、GW・夏・紅葉シーズンもすごく混むんですよね。そういう時に来てもらってもゆっくりしてもらえないので。ただし、オフシーズンの冬に来るとあまりに静かで寂しくなるっていうお客さんもいますから、それは理解して来てくださいね(笑)」

中尾という地の魅力を存分に理解し、それを宿泊客へと提供するうちのペンション。この日はキーンと冷える冬の日でしたが、そんなことは感じさせない人のあたたかさがありました。山の奥地ならではの時間を、まさひとさんとお酒を交わしながら過ごしてみてはいかがでしょうか?

「うちのペンション」

〒506-1422
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷中尾283-1

電話番号:
0578-89-2694

Mail:
ucchi–@hidatakayama.ne.jp

ウェブサイト:
https://www.okuhida-uchino.com

(写真:藤原 慶

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