• キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。
  • HOME
  • 記事一覧
  • 古民家とキャンプ場のハイブリッドが生み出すもの ~埼玉県飯能市名栗「古民家ファミリービレッジ」~

古民家とキャンプ場のハイブリッドが生み出すもの ~埼玉県飯能市名栗「古民家ファミリービレッジ」~

古民家との出会いから運営の決断

この建物は1640年代に立てられたといわれ、すでに350年の歴史を有します。

「地域における観光の掘り起こし、それはやらなければならないと思っていました」
と統括マネージャーの川口さん。

しかしこの古民家との出会いは意外なものでした。

「昨年の9月でしたか、観光協会が行う紅葉祭りのことでこちらに伺ったときです。そのときに何かの“シグナル”があったのです」

そのシグナルとは“このキャンプ場を託したい”という、もの言わぬメッセージ。
実は元々ここは古い小さなキャンプ場が営まれていました。しかし父親である先代から2代目が引き継ぐもなかなか立ち行かず心の中では廃業を密かに決めていたそうです。ここを手放すにも、馴染みのない都市部の企業に任せるのは不安。もし地域の誰かに引き継いでもらえるならそれに越したことはない。そんなときに偶然現れた川口さん。

ケニース・ファミリー・ビレッジをあそこまでにしたこの方なら・・・!

もともと、自治体に向けて地域活性化の計画を提案していたほどの熱意を持っている川口さん。この“シグナル”を敏感に感じ取り、熟考の末、キャンプ場の再生に乗り出すことを決意。

その柱としたのが「古民家」です。ケニーズはその名前からも欧米スタイルのキャンプを提供しているので、こちらは思い切り「和」で振り切ろうと。

懐かしい生活用具とキャンプ道具はリンクしている

古民家は主にセンターハウスの役目を担っています。
このキャンプ場にくればまず玄関をくぐります。 そう、あの懐かしい田舎の里帰りを味わうことに。

「こんにちは」というより「ただいま」が似合う空気感。そこには懐かしいものがたくさん待ち受けています。

黒電話、鉄瓶、錠前、木箱、氷削器、ローラースケート・・。

「お父さんがお子さんに『昔はこういうのでスケートしてたんだぞ』なんて言って、会話が弾んでいる姿を見ると、これでよかったなと思います」

面白いのはそれら懐かしの道具に混じってソト遊びの道具が絶妙に混じっているところ。その場所や飾られ方はただ適当なのではなく、古民家の元々有する機能と親和性があるように配置されたりしています。

そうでなくても、まるで何かの韻を踏んだように、昔のモノたちと溶け込んでいます。

なぜにキャンプ道具たちは古民家と相性がいいのでしょう。おそらく、使い込んで味が出る、その機軸が年代を超えてオーバーラップするからではないでしょうか。

この「共生」感こそ古民家ファミリービレッジが教えてくれる密かな価値のような気がします。

名栗の環境に活かされたロケーション

場内は実にこじんまりしており、まるで古民家の縁側か軒先でキャンプをしているような感じです。

キャンプサイトは1段下がった川の目の前と、さらに下った川原。

目の前に流れる名栗川は驚くほどのエメラルドブルー。
周囲は決して生活感のない場所ではないので、この透明度を保てる環境意識の高い地域であることが窺えます。

古民家の裏側には同テイストのバンガロー群。廃校になった小学校の建築材を再利用して建てられています。

キャンプ場の施設を彩るものには地元で長く使われていたものが多数あります。

キャンプ場だからこそできる古民家の在り方

「これですか?いわゆる“篩(ふるい)”です。逆さまにしてこれも使われなくなった何かの脚を重ねてテーブルにしてしまいました」

これです。このキャンプ場の潜在能力とイコールです。

通常古民家といえば伝統的建造物として「保護」されます。いわばアンタッチャブル。しかし、センターハウスがそうであるように、乱暴な言い方をすればこのキャンプ場はどんどんいじってしまえばいいのです。

そして、そのアイデアと創造を、この先「キャンパーと共に」出来たら、思わぬものがどんどん生まれていくでしょう。

例えばこのバーベキュー施設。もちろんバーベキューをする場所として機能しながら、同時に、地域に残る伝統を体験するワークショップとしても最高の場所です。

この地は西川材というヒノキの名産地。狭山丘陵から連なるお茶処。武州の地である手打ちうどん、さらにはこの古民家のそもそもの由来である養蚕等々、地域の人々を巻き込んでいく創造はいくらでもできるでしょう。

このまっさらな和室。何もありません。
もしここを彩るものを、訪問したキャンパーによって残されていくようになったらなんと素敵でしょう。

このキャンプ場を世に送るに当たってどういうネーミングにするか議論になったそうです。
近頃、「古民家」という世の中のイメージには、きらびやかで洗練されたものがあり、この建物はすこし違うのではないかという指摘でした。

が、川口さんは断固として譲らなかった。「これが古民家じゃなくて、何が古民家なんだ!」と。

確かに一部では古民家カフェなどお洒落イメージが先行しているところもあります。しかしここではそんなことより大事なものが脈々と引き継がれていいます。

それは生活感です。
「古民家」という空き家の間借りではなく、人の出入りで活気を作り出す「“古い”民家」だということです。

「観光資源の掘り起しとは、人の集まる場所を作り、人の交流をそこに作ることだと思っています」

人の集まる場所、交流をする場所、しかも生活感をにじませながら。それは「キャンプ場」そのものではないですか。

「古民家ファミリービレッジ」は器としてだけではない古民家を、キャンプというコンテンツを使った新しい在り方をきっと示しくれることと思います。

古民家ファミリービレッジキャンプ/バーベキュー場

埼玉県飯能市上名栗87
TEL:042-978-5455
WEB:http://kominka-camp.com/

※12月初旬~3月初旬までは冬季休業

関連記事一覧