09 水辺の休息 〜野川かさね エッセイ〜
水のある場所で人は立ち止まり、休む。
山を歩くようになって、そのことに気づいた。
吸い寄せられるように
沢や池、滝へと足が向き、
「じゃあこの辺で休もうか?」となる。
それは誰と歩いても同じで、
反対する人はいない。
水のきらめきを背景に、
人はただずむ。
歩き続け疲れた体を
ひんやりとした空気が包み、
会話もはずむ。
怠け者で、頂上にこだわりのない私は
「今日はここでずっと過ごすのもいいよなぁ」
などと頭によぎったりする。
そんな考えを知ってなのか、
冷たい風が吹いてきて、そろそろ歩きだせと
私に合図を送る。
ザックを背負い、歩き出す。
一歩づつ、すこしづつ。
水辺での休息をえたそのあゆみは
ずっと軽やかに思えた。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。