• キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。
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【本社直撃】モンベルの「お手頃」「高品質」を支える裏側に潜入してきました!

創業42年。いまやアウトドアユーザー以外にも浸透していると言っていい、モンベルのウェア。これまでに培ってきた知識や技術を投じたアイテムは高機能で使いやすく、そしてなんといってもスゴイのは、ハイクオリティーな製品が“いつも手ごろな価格で手に入る”こと。また、素材をイチから開発できるパワーとノウハウをもつ随一のアウトドアメーカーでもあり、「いい物を安く、親切に」をモットーに、現代のニーズに合った製品を生み出し続けています。

そんなモンベルのウェアは、一体どのような手順で、わたしたちのもとへやってくるのでしょうか?新素材の開発はどうやっているの?モノ作りへのこだわりは?コストパフォーマンスのよさの秘訣は?など、気になっていたことを色々うかがってきました。さぁ、モンベルの“心臓”にいざ行かん!

INDEX

・モンベルは寝袋と雨具の開発からはじまった
・商品を入れるパッケージ袋も自社開発!?
・なぜリーズナブルな価格なのか
・市場調査はほとんどしない、社員こそ最大のユーザー
・「作り手」と「届け手」が同じ。自分たちの好きなものに“最後まで”携わる

モンベルは寝袋と雨具の開発からはじまった

――まずはモンベルの歴史を教えていただけますか。

竹山さん)わたしたちは1975年に大阪で創業し、日本の多雨湿潤気候に合う寝袋とレインギアの開発から歩み出しました。創業者の辰野勇は、会社をおこす前に繊維や素材を扱う商社に勤めていたことがあり、特殊な繊維にたくさん出会っていました。そこから、自分の山の経験をもとに、「こういった繊維を生かして、もっと快適で優れた山の道具が作れるんじゃないか」という発想に至ったんです。

モンベルの歴史を語ってくれた常務の竹山さん。入社29年、古くからモンベルとともに歩んできた人物だ

モンベルの歴史を語ってくれた常務の竹山さん。入社29年、古くからモンベルとともに歩んできた人物だ

竹山さん)寝袋に関して言うと、当時は水濡れに弱いダウン製か、かさ張る化繊綿製の寝袋しかなく、雨が多く湿度も高い日本に適した寝袋がなかったんですよね。そこで辰野は、米デュポン社の『ダクロン ホロフィル(※1)』という、中空の綿に可能性を見出し、これまでにない寝袋を作りました。またそれと並行して、高度な防水性をもつ『ハイパロンレインギア』も完成させました。1976年、モンベルが世に送り出した最初のアイテムです。

※1 空気をたくさん含むことができる暖かく軽い素材

『ダクロン ホロフィル』を使用して完成させた初代寝袋(写真/モンベル提供)

『ダクロン ホロフィル』を使用して完成させた初代寝袋(写真/モンベル提供)

左)最初期の『ハイパロンレインウエア』。右)モンベルの代名詞とも言えるレインウェア『ストームクルーザー』の初代モデル。(写真/モンベル提供)

左)最初期の『ハイパロンレインウエア』。右)モンベルの代名詞とも言えるレインウェア『ストームクルーザー』の初代モデル。(写真/モンベル提供)

――確かに日本は他国と比べて雨が多く、特有の自然環境がある。日本で使うなら、日本の気候に合ったギアが必要ということですね。

竹山さん)そういうことです。昔はいわゆるゴム引きのカッパしかなく、アウトドアの厳しい環境下で着るには優れた代物といえなかった。かといって、外国にもあまりいいものがない。例えばアメリカは日本と違ってドライな環境で、レインウェアという発想があまりないくらいですから。

素材も、商品を入れるパッケージ袋も自社開発!?

――自社で素材開発もされていますよね。それはなぜですか?

竹山さん)創業当初は既存の素材を採用して製品化していたわけですが、使っていくうちに改良したいところが出てくるわけです。そこで、繊維メーカーさんと共同開発して、よりアウトドアというか、我々のニーズに合ったものを作り出していくことにしたんです。
例えば、高強力でありながらしなやかさも兼ね備えるなど、繊維メーカーさんに要望を伝え、二人三脚で理想の新素材を生み出す。これは私たちがこだわっている部分です。最初に誕生した自社素材は、1982年に開発した『バリスティック』という名の高強力ナイロンですね。

社内には素材のサンプルがずらり

社内には素材のサンプルがずらり

*そして、.HYAKKEI取材班は、普段見ることのできないモンベルの“ウラガワ”へ突入していきます…!

――社内には開発した素材の試験ルーム(通称:モンベルラボ)があるとお聞きしました。

渡辺さん)はい。ここからは私がご案内させていただきますね。この試験ルームでは、私たちが作った素材の性能をテストしています。その時々によって行っている試験の内容は違うのですが、今はちょうどアンダーウェアやタイツなどを入れるパッケージの強度テストをしているところですね。

広報部の渡辺さん。モンベルクラブ会員に配布される会報誌『OUTWARD』の構成も担当する

広報部の渡辺さん。モンベルクラブ会員に配布される会報誌『OUTWARD』の構成も担当する

――え、パッケージの袋…?

渡辺さん)はい。袋の素材を見直したので、前と同様の耐久性があるかをテストしているんです。強度がないと、店頭で製品を吊っている間に破れてしまいますし、お客様には中身を出して見てもらいたいので、商品を何度出し入れしても大丈夫なように徹底しているんです。

どの程度の力まで耐えられるか、細かく強度をチェックしていく

どの程度の力まで耐えられるか、細かく強度をチェックしていく

――まさかパッケージの袋まで開発しているとは予想していませんでした…。いやはや、ぬかりないですね。

渡辺さん)パッケージは使い捨てになってしまうので、それならばその部分のコストを削減しようと。でも、ただ単に安い素材にすればいいわけではなくて、強度を含め、見映えもよくしないといけない。そのバランスを保つのは結構大変な作業なんです。

これは、温度と湿度を調整できる高温高湿機。これから世に出る新素材や、継続している素材を入れて一定期間試験する

これは、温度と湿度を調整できる高温高湿機。これから世に出る新素材や、継続している素材を入れて一定期間試験する

――高温高湿機の中には、生地のほかにゴム製のものも入っているんですね。

渡辺さん)はい。ゴム(ポリウレタン)の劣化は高温高湿で大きく差が出ます。バックパックの内側のコーティングに使われたりしていますが、ボロボロに剥がれてしまっているのを見たことってありませんか?日本の気候は多湿ですから、アメリカなどの外国よりも加水分解が進みやすい。しかし、わたしたちは製品を永く愛用してもらいたいと考えているので、こういった試験をして、よりよい素材開発のために試行錯誤しています。

――どのくらいの期間、試験を?

渡辺さん)アイテムによりますが、基本的には3週間、5週間、6週間いずれかのサイクルで試験します。あくまでも目安ですが、1週間入れると1年間使用した状態になると言われています。

これは高温高湿機に6週間入れたのち、2000回の摩耗テストをした素材。剥離していないかチェックする

これは高温高湿機に6週間入れたのち、2000回の摩耗テストをした素材。剥離していないかチェックする

――リペア部門も本社にあるんですね。

渡辺さん)本社ではリペアの一部に対応していて、縫製を必要とするウェアや登山靴のリペアは石川県にあるモンベルの北陸総合センター内で行っています。

リペア品が届き、作業に取り掛かるみなさん

リペア品が届き、作業に取り掛かるみなさん

故障の原因を突き止めてから修理を行い、故障しない使い方をお客さんに伝えるという。ユーザーにとって心強い対応だ

故障の原因を突き止めてから修理を行い、故障しない使い方をお客さんに伝えるという。ユーザーにとって心強い対応だ

――自社で靴の修理ができる企業ってめずらしいですよね。

渡辺さん)そうですね。多くのメーカーさんは外部の専門店に依頼しますから、なかなかないケースかもしれません。うちの場合は石川県に大きな設備があるので、迅速に修理対応できるんです。

時計の修理もていねいに行っていく

時計の修理もていねいに行っていく

モンベルはなぜリーズナブルな価格なのか

――ところで、アウトドアを楽しむいちユーザーとして各社の製品を見ていると、モンベルはリーズナブルな価格設定が多いと感じます。

竹山さん)わたしたちは常にいいものを安く出していこうという考え方でずっとやってきているので、それが結果としてリーズナブルな価格であると受け取られているんじゃないかな?と思います。「いいものだから値段が高い」はダメ、かといって「安いからよくない品質」というのもダメ。「いいものを安く、親切に売る」。それが商売の基本であると思っているので、他社さんを意識することはありません。

――加えて、自社素材を使っているからコストを安くおさえられる、というのもありますか。

竹山さん)もちろん、それもあります。たとえばフリース素材を買い付けるとなったら、商社を通して購入するケースが一般的には多いですが、間に入る人がいなければいないだけ、費用は抑えられますから。ただ、現状に満足することはありません。もっといい価格で提供できるように、日々努力しています。パッケージの素材変更もその一つですね。

市場調査はほとんどしない、社員こそ最大のユーザー

――新しい製品はどのようにして生み出されるのでしょうか?

竹山さん)「自分たちが欲しいモノを作る」というのがモンベルのモノ作りの基本的なコンセプトとしてあるので、市場調査はあまりしていません。というのも、社員こそがアウトドアアクティビティーの好きな人たちの集まりであり、最大のユーザーでもあるからです。もちろん、店舗を通じてお客さまの声や流行など様々な情報が入ってくるので、そういったものを加味はしていくのですが、基本的には自分たちがアイデアを出しています。

――てっきり企画部が製品のアイデアを出した後、全部門が製品化に向けて動き出すものかと思っていました。

竹山さん)アイデアは部門を問わず、常に全社で募集しています。アイデアリクエストという専用フォームがあって、「こんなのが欲しい」とか「ここを改良して欲しい」だとか、誰でも自由に意見を出せます。年間で何千点と集まってくるので、企画部はそれらの意見を取捨選択して、次の商品開発に向けてまとめていく、というような作業を担っていますね。もちろん、企画部からもアイデアは出てきます。

企画部には過去のアイデアブックがいくつも保管されている

企画部には過去のアイデアブックがいくつも保管されている

――アイデアを出した人がそのプロジェクトに参加することはあるんですか?

竹山さん)最初から最後までずっと参加するわけではありませんが、製品化に向けて企画部がアイデアの背景や具体的な話を聞いたり、サンプルができ上がったら、「どう?」みたいな形で試したりしてもらうことがあります。ある意味、全社員が間接的にモノ作りに携わるチャンスがあるということです。

――企画部にアイデアが集約されて、取捨選択をするということですね。そのあとは?

竹山さん)年に6回ある企画会議にかけられます。春夏アイテムで3回、秋冬アイテムで3回。会議には全国から主要メンバーが50~60人集まります。アイデアのディスカッションにはじまり、みんなであーだこーだ意見を言って煮詰める会議を経て、サンプルのお披露目となります。主要メンバーによるチェックが終わったら、社内展示会を経て、ディーラーさんやメディアの方向けの展示会を開催します。

「作り手」と「届け手」が同じ。自分たちの好きなものに“最後まで”携わる

――企画から販売、そしてリペアまで、社内で完結させる理由はなんでしょうか?

竹山さん)自分たちの好きなモノを、自分たちのアイデアによって生み出していくのであれば、細部から最後まで自分たちが関わっていきたいからです。「作り手」が「届け手」にならないと、自分たちの想いがきちんと伝わらない。モノ作り、販売、サービスの提供、イベント開催、モンベルクラブの運営などもそうですが、最終的なユーザーと直接繋がって、自分たちの考えを伝えたいんです。そうすることによって、自分たちにも様々なノウハウが蓄積されますし、それをまた何かに役立てることができる。

モンベル・アウトドア・チャレンジ(通称M.O.C/モック)では、日本全国で多くのイベントを開催(写真/モンベル提供)

モンベル・アウトドア・チャレンジ(通称M.O.C/モック)では、日本全国で多くのイベントを開催(写真/モンベル提供)

――イベントといえば、フレンドフェア(※2)やトレッキングツアーなど、多くの催し物をされていますよね。

竹山さん)はい。そういったイベントの企画も専門のコーディネーターさんを入れていません。アウトソーシングした方が上手にできるのかもしれませんが、その反面、自分たちが意図したものと違うものができ上がってしまうこともある。特に「フレンドフェア」の場合は、1万人以上のファンの方が来てくださり、わたしたち作り手が最終的なユーザーさんと直接繋がることができる大きな場ですから、全国から何十人とモンベルスタッフが集まり、その日はイベントスタッフとして場を取り仕切っています。

※2 春と秋に開催されるモンベルクラブ会員限定のイベント。旬な情報をゲットできるほか、地域の特産品やアウトレット商品の販売もある。いわばファン感謝祭。

フレンドフェアの様子。多くのファンで賑わう(写真/モンベル提供)

フレンドフェアの様子。多くのファンで賑わう(写真/モンベル提供)

――社内の様子を見ていて、まさにプロフェッショナルの集合だなと感じました。

竹山さん)もちろん、入社してすぐはみんな素人です。そこから切磋琢磨して、その道のプロになっていく。それがわたしたちのスタンスです。

「わたしたちは常にお客さまの方を向いて仕事がしたい」――。
これは取材中、特に印象的に残った言葉です。モンベルが見ているのは市場ではなく、あくまでもユーザー。だからこそ、大変だと分かっていても多くの分野において“自前主義”を貫き、アウトドアギアの開発にとどまらず、オリジナリティーを追及しているのだと。すべては、今よりもっともっとお客さまに満足してもらうため。モンベルは日々切磋琢磨し、躍進し続けている、そんなことを強く感じる取材となりました。

取材協力:モンベル

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