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1万人の笑顔を生む「南沢あじさい山」。89歳の花咲かじいさん物語は29歳の若者へ継がれ、未来へ。
※こちらは2019年7月8日に公開された記事です
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![あじさい山は、静かな早朝が狙い目。霧雨に包まれた森は幻想的な雰囲気に。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/ccb7863d9aeac161c2a921f9544feefb.jpg)
あじさい山は、静かな早朝が狙い目。霧雨に包まれた森は幻想的な雰囲気に。
東京のあきる野市にある南沢あじさい山には、6月中旬から7月中旬にかけて、毎年約10,000人もの見物客が訪れる。静謐な森の中、ほのかなピンクや妖艶な紫色に咲き誇る紫陽花(あじさい)が、得も言われぬ美しさであたり一面を覆うからだ。
その数ざっと15,000株。
ここまで艶やかな紫陽花を咲かせるには、丹念な手入れが必要となる。
聞けば、この山で紫陽花が育てられるようになったのは約50年前。
先祖代々この地で暮らす南澤忠一さんがたった2株の紫陽花を山の中に植えたことから物語は始まった。
![あじさい山の入口横にある忠一さんのご自宅縁側にて。築100年以上の立派な古民家だ。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/d2ad316f874a7d30a68db2b7d3b2aa2a.jpg)
あじさい山の入口横にある忠一さんのご自宅縁側にて。築100年以上の立派な古民家だ。
![山の中に、見渡す限りのあじさいが咲き誇る。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/b98c0e2cd184b3382ccd36b5b24f0116.jpg)
山の中に、見渡す限りのあじさいが咲き誇る。
忠一さん 「まだ若い頃、お盆の時期にお花の中を通ってお墓へ行けたらと考えて、最初は庭の紫陽花を2株ほど抜いて、山に植えることにしたんです。それをゆっくり育てて、だんだん増やして。ついつい、増えちゃったというのが正直なところです(笑)」
![森の妖精「ZiZi(ジィージィー)」が道案内。あきる野市に縁のある造形作家・友永詔三さんが手がけた。近隣には氏の美術館がある。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/5f5fcc83c724587f9d133ec30a49c026.jpg)
森の妖精「ZiZi(ジィージィー)」が道案内。あきる野市に縁のある造形作家・友永詔三さんが手がけた。近隣には氏の美術館がある。
![あじさい山には、順路とともに、忠一さんの歩みを一緒に辿れる看板があちこちに。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/e52b75fc796ac50aa93dd56b10f51595.jpg)
あじさい山には、順路とともに、忠一さんの歩みを一緒に辿れる看板があちこちに。
当初の動機は、言ってみればご先祖さまへの尊敬の念から。
そして親戚が墓参りに訪れるたび、増えていく紫陽花を見て感嘆の声をあげるようになっていく。紫陽花の華やかさによって笑顔が増えるにつれ、次第に「人を喜ばせる」ことが忠一さんのモチベーションとなっていった。
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忠一さん「最初の数十年は手入れするのは自分一人。木材を扱う会社を経営していたから、日曜だけしか紫陽花の手入れはできなかった。それなのに紫陽花の数が増えてきたら見に来る人が増えて、いつのまにか観光地になっちゃった(笑)。」
たった一人で紫陽花を育て続ける忠一さんを見て、弟さんが手伝うように。約10年前には地元で「花の会」という有志のチームが立ち上がり、公的機関から助成金を集めるなど、紫陽花の手入れは本格化していった。
自分でも把握しきれないほど株数の増えた紫陽花。すっかり観光名所と化したあじさい山だったが、忠一さんも80代後半に差し掛かり、今後の管理に不安がでてきた。
そんなタイミングでこの山は大きな転機を迎える。あきる野市の地域ブランディングを主な業務とする株式会社do-moの高水健さんが、あじさい山の運営に関わることになったのだ。
![現在、29歳の高水さん。忠一さんとは、孫ほど年が離れている。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/e8c2bcef9dfe91f7aaf3b746544053b3.jpg)
現在、29歳の高水さん。忠一さんとは、孫ほど年が離れている。
「花の会」を通じて、この山の魅力に触れた高水さん。15,000株の紫陽花をさらに多く、いつまでも美しく輝かせるため、主体的にあじさい山の運営に関わりたいと、忠一さんへ申し出たのだ。
高水さん 「かねてから、この地域の資源を使った商品開発で、あきる野を盛り上げたいと考えていました。紫陽花は全国各地にありますが、この山には花咲かじいさん忠一さんの素敵な物語がある。このストーリーを一人でも多くの人に伝えたいという気持ちが僕のなかに芽生えたんです。そこで山の資源を使ってあじさい茶という甘茶を作りましょうと忠一さんに提案しました。もちろん花の手入れも手伝いますから、色々教えてくださいと」
![甘茶と呼ばれるあじさい茶は、砂糖の300〜400倍とも言われる天然の甘さが特徴。280円で販売。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/652a8c21385acfe9eb82277f1eb1f1f4.jpg)
甘茶と呼ばれるあじさい茶は、砂糖の300〜400倍とも言われる天然の甘さが特徴。280円で販売。
この提案をすんなりと受け入れた忠一さん。お茶の開発を進める高水さんに、紫陽花の手入れもゼロから教えていった。それから約3年、ほのかな甘味と香ばしさをたたえた「ちゅういっちゃんのあじさい茶」が完成。より多くの観光客が集まるようにもなった。
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高水さん 「絶対になくしてはならない観光資源だなという思いが強く、ぜひ僕らにこの山を守らせてくださいと弟子入りしました。だけど3年経った今でも、忠一さんの足下にも及びません(笑)。
紫陽花は剪定が命なんですが、忠一さんが1株20秒で終わるところ、僕は15分ほどもかかってしまう。始めた頃は、とにかくどの枝を切っていいかわからない。山で育った忠一さんは、自然が教えてくれるから、と言うんですけどね」
![高水さんの大学の同級生であり、株式会社do-moを共に立ち上げた南嶋祐樹さん。剪定などあじさい山の管理作業は、現在、南嶋さんが中心に。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/90ec766f026c89698a7579190139ab3b.jpg)
高水さんの大学の同級生であり、株式会社do-moを共に立ち上げた南嶋祐樹さん。剪定などあじさい山の管理作業は、現在、南嶋さんが中心に。
忠一さんによれば、手入れが疎かになっても次の年は花が咲く。
でも、2年後には綺麗に咲かなくなり、管理しきれないほど無駄な枝が伸びてしまうそうだ。
つまり適切な剪定がなければ、美しいあじさい山は途端に終焉を迎えることになるのだ。
高水さん「紫陽花と向き合えば向き合うほど、忠一さんがどれだけ長い間、愛情を注いできたかがわかります。たくさんの笑顔が見たいからという理由だけでたった一人の方がやってきたなんて、とても信じられません。それくらい紫陽花は管理が大変な植物なんです。関わるようになってこのストーリーが永遠に続いていってほしいとの思いをさらに強めました。美しい花を見て、お茶を味わってもらって、この山の物語をより多くの人に感じてもらいたいんです。」
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高水さんの行動力によって、入山料やお茶の売上げが山の維持管理に貢献するようになった。2019年、オンシーズンには、東京サマーランドとジョイントして「TOKYO 秋川渓谷あじさいまつり」の開催にもこぎつけた。スタートはたった2株であった静かな山の紫陽花。
その50年近くにも及ぶストーリーは、さらに感動を呼ぶ展開になっていく。
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来年は忠一さんが90歳の誕生日を迎え、加えて、あじさい山のスタートから50周年という記念すべき年。山頂で盛大なセレモニーを開催する計画もあるという。
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今でも驚くほど元気に、紫陽花の手入れを続ける忠一さん。これからの展望について、こう語った。
忠一さん「紫陽花だけじゃなくて、いろいろな花をまだまだやりたい。4月にはシャクナゲと花桃。その後はセッコクを楽しんでもらって、6月頃から紫陽花が咲く。あじさいの次も別の花が咲く。1年中いつ来ても花が楽しめる山にできたらいいな。」
![花の手入れは2、3年じゃとても習得できないと言いながら、優しい笑顔で高水さんを見つめる忠一さん。](https://hyakkei.me/wp-content/uploads/2020/09/24adc1edbf81bfb49a0bd75e92923c5d.jpg)
花の手入れは2、3年じゃとても習得できないと言いながら、優しい笑顔で高水さんを見つめる忠一さん。
あじさい山は、あきる野観光のついでの、ちょっとした散歩にも最適だ。
時を越え、紡がれる壮大なストーリー。
その物語に静かに思いを馳せながら、可憐なあじさい達に会いに行ってみよう。
東京都あきる野市深沢368
TEL 080-5055-1926 (担当:高水)
https://ajisai-yama.com
入山時間 8:00 ~ 17:00 (平日・土日祝日)
入山料 500円
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編集と文章と写真。
宇都宮浩、曽田夕紀子による編集チーム。企画立案から編集、ライティング、撮影までを行う。奥多摩と御茶ノ水に拠点を持ち、TOKYOハイブリッドライフを体感しながら、本づくりを実践。奥多摩ローカル紙『BLUE+GREEN JOURNAL 』は、年2回、春と秋に発行。