19 白い世界 〜野川かさね エッセイ〜
雲か靄なのか判別がつかない白い物体が
谷からあがってきたと思ったら
あっという間に前を歩く人をのみ込んだ。
ドキッとして歩みを早め、追いつくと
白い物体は薄いベールのように
自分たちのまわりを覆っているだけだった。
その場所から、一番近くのピークを見上げる。
頂上はまさに白い物体に覆われるところで
今度は山がのみ込まれた。
「山が消えちゃったよ、どうしよう。」とふざけていい合う。
山と自分たちは白い物体の間、見え隠れして
そこにあったり、なかったりしている。
この先に道は続いているのだろうか、
一体どこへと続く道なんだろうかと
ふざけ半分、でもどこか大真面目に考えながら
歩いた。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。