16 秋のはじまり 〜野川かさね エッセイ〜
木のてっぺんにある葉が揺れる。
稜線近くの雲の動きがはやい。
風がでてきた。
歩みを早めて、先へと急ぐ。
雨が降りはじめるまえに
樹林帯のなかへ。
ポツポツと雨粒が葉にあたる音が聞こえた。
雨が降りだしたようだ。
体は徐々に霧に包まれるが、
木々が空を埋めつくすほどの森では
どれくらいの雨が降っているのかわからない。
湿気が森中を漂う。
カメラを守りながら、シャッターを切る。
森のシェルターを抜ける。
まだ雨はふりつづいている。
濡れたコンクリートの上、
ブーツの底の固さを感じる。
今日の雨はすこし肌寒い。
秋のはじまりの山歩き。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。