深呼吸をする。

「空気が美味しい」って言葉は比喩だと思っていたけれど、本当に美味しい空気があることを、初めて知った。

雨上がりの森の、しっとりした空気が肌を包む。都会のまとわりつくような湿度とは違う、ひんやりとした心地よい湿度。

視界いっぱいにみどりいろが広がる。

空気の味もにおいも、みどりいろっぽい。大きく吸い込むほどに、体中がみどりに染まりそう。もちろん、そんなことないってわかってるけど。

そういえば、最後に深呼吸をしたのはいつだったっけ……?

チル ときどき 冒険。少しだけ本格的な登山も味わえる海沢三滝

海沢三滝は、東京都の北西部・奥多摩にある。

手前から、三ツ釜の滝・ネジレの滝・大滝の3つを合わせて海沢三滝。キャニオニング(滝を滑り降りるアクティビティ)を楽しむ人もいるらしいが、私たちは3つの滝をのんびりと巡ることにした。

チルトレイルとはいえ、少しアップダウンがあるルートだ。息が切れないよう、おしゃべりができるくらいのペースで歩こう。

JR奥多摩駅から車で15分ほど林道をくと、海沢園地という東屋に着く。その先に滝への入り口がある。

看板に「海沢の四滝」とあるのは、大滝のさらに奥にも「不動の滝」があるから。けれど、そこは道が危険で入れないらしい。

水がとても澄んでいて、川底までクリアに見える。ヤマメがいたらしいけど、私が覗き込んだときにはどこかへ行ってしまった。

足元は岩だったり、土だったり。舗装はされていない。

ふだん登山をしないメンバーもいるので、ゆっくりと歩く。

葉っぱの裏に虫のたまごがついていた。みんな、気持ち悪がることなく興味津々。

虫や花を見つけながら歩くから、チルトレイルは時間がかかる。この調子なら、目的地の大滝まで何時間かかることやら。

だけど、それでいい。時間をかければかけるほど、心が豊かになる。それがチルトレイルだ。

大きな岩があった。

編集さんが、落ちている枝を拾って、地面から岩につっかえ棒のように立てる。まるで、その枝によって岩が支えられているみたい。

そうしておくと、次にそこを通った人も真似して枝を立てるので、次に行ったときに枝が増えているそうだ。そういう楽しみ方もあるんだ、と知った。

歩いていると、前方に三ツ釜の滝が見えてきた。

沢から頭を出している岩の上を歩き、滝のそばに行く。忍者が飛び石を渡るようにぴょんぴょんと歩けたらいいけど、実際は危ない。

「濡れている岩には足を乗せないでね。滑るから。あと、浮石にも気をつけて」

山歩きに慣れていない人に、慣れている人が手を貸す。そして、無事に渡り終えると「ナイス!」と声をかけた。なんだか素敵だな、と思う。

間近から眺めると、滝はとても大きい。見上げる私たちの首も急角度だ。

前日が雨だったからだろうか、水の流れには勢いがある。だけど「大迫力!」という感じでもなくて、どっしりと静かでやさしい滝だった。

滝壺に落ちた水が、ミストになって肌をしっとりと包む。

「マイナスイオン出てる!」
「すごい、わかるんだ!」

軽口を叩いて笑う。

急な階段を下りる。足を乗せるところが小さくて、山登りに慣れている私でも少し怖い。

けれど、スリルがあって楽しい。思わずインディー・ジョーンズのテーマを口ずさんだ。

沢で水遊びをする。水遊びと言ってもただ水に触れるだけなのだけど、なぜかみんな、笑顔になる。

森はますます深く、静かになっていく。まるで、巨大な岩の割れ目を歩いているよう。

「あっ!」

参加者のひとり、亜希さんが驚きの声を上げた。

「カモシカ! あそこに!」

彼女が指すほうを見ると、たしかにカモシカがいた。

おわかりになるだろうか? 風景に溶け込んでいるけど、画面中央にカモシカがいる。

カモシカは私たちに気づいているのかいないのか、こちらをじっと見たまま口をモグモグさせていた。

「可愛い……!」

カモシカと遭遇するのは初めてではないけど、至近距離で見つめ合うのは初めてだ。

2つめはネジレの滝。滝の中腹でねじれているから、その名前なのだろう。

少し奥まった場所にあり、登山道からはわかりにくい。そのせいか、3つの滝の中でもっとも神秘的な雰囲気だった。

すべての音を吸収するような静けさ。さっきのカモシカが、シシガミ様に思えてくる。

さらに歩くと、急な岩場が。

「三点確保(両手両足のうち、どれか1本だけを動かす登り方)で登りましょう」と、登山経験者がレクチャー。三点確保と言うと難しそうだけど、登山をしない人も無事に登ることができた。

チルトレイルにしては少しだけ、アドベンチャー要素も楽しめる。

モアイのような木を見つけた。

3つめの大滝は、名前のとおりとても大きかった。そのせいか、滝のそばは空気が冷たい。

ぼーっと滝を眺めると、その時間が数秒にも数時間にも感じられる。意識が現実から離れて遠くへ飛んでいったような、不思議な感覚。ぼんやりしすぎて、呼ばれていることに気づかなかった。

来た道を戻っていると、「コココココッ」と音がする。たぶん、キツツキだ。

みんなでキツツキの姿を探すも、見つけられなかった。それにしても、木をつつく音の速いこと。速すぎて止まって見えるかもしれない。

「あっ!」

誰かが声を上げ、振り向く。

すると、すぐそばにカモシカがいた。たぶん、さっきのカモシカだ。寂しくなって、私たちについてきたのだろうか?

しゃがんで眺めていると、こちらへやってくるではないか!

思わず息を止めると、カモシカは私のすぐそばをぴょーんと軽快な足取りで去っていった。

「そういえば、私たち以外の人間に会わなかったね」
「会ったのはカモシカだけだね」

そんな話をしながら、海沢園地へ戻った。

チル ときどき 冒険。

ところどころに険しさのある、変り種のチルトレイルだった。

チルトレイルGUIDE | #3 海沢三滝

チルトレイルGUIDE | #3 海沢三滝|「チルトレイルGUIDE|#3 海沢三滝:ミストたっぷりの美味しい空気を吸いに。」の1枚目の画像

オススメ立ち寄りスポット 森の中のお肉レストラン アースガーデン

海沢三滝の駐車場から車で20分。JR白丸駅の近くにあるレストラン、アースガーデンがおすすめだ。

チルトレイルGUIDE | #3 海沢三滝|「チルトレイルGUIDE|#3 海沢三滝:ミストたっぷりの美味しい空気を吸いに。」の4枚目の画像

名物はハンバーグ。単品とセットが選べる。セットはライスと赤出汁のトン汁、コールスローつき。ふわふわした、やさしい食感のハンバーグだ。

チルトレイルGUIDE | #3 海沢三滝|「チルトレイルGUIDE|#3 海沢三滝:ミストたっぷりの美味しい空気を吸いに。」の6枚目の画像

ミートボール丼。ご飯の上に、野菜やわさびと一緒にミートボールが乗っている。ミートボールが揚げてあるのも、濃厚なタレがかかっているのも珍しい。

チルトレイルGUIDE | #3 海沢三滝|「チルトレイルGUIDE|#3 海沢三滝:ミストたっぷりの美味しい空気を吸いに。」の8枚目の画像

アースガーデンは、数馬峡橋という橋の先にある。橋から眺める多摩川がとても美しい。

森の中のお肉レストラン アースガーデン
営業時間 : 11時〜16時
場所 : 〒198-0107 東京都西多摩郡奥多摩町白丸361−1
電話 : 0428-85-5101
webサイト : https://www.facebook.com/morinoearthgarden/

もっと楽しむために。

※今回のチルトレイルはやや難易度が高いです。登山をしたことがない人は、登山経験者と行ってください。また、経験者の方も道迷いには十分気をつけてください。
※少し険しい道なので、登山靴がおすすめです。
※今回の取材は晴れたけど、念のためにレインウェアを持っていくこと。

■アクセス

◯車:中央自動車道八王子ICを降り、都道45号を経由して1時間5分
◯公共交通機関:JR青梅線 奥多摩駅より車で15分

※奥多摩駅近くのレンタサイクルショップで電動自転車を借りるのがおすすめ。

トレックリング
営業時間 : 9時〜17時(貸し出し受付は15時まで)
定休日 : 土日、祝日営業(来店前にお問合せください)
場所 : 東京都西多摩郡奥多摩町氷川197
電話 : 0428-74-9091
webサイト : http://trekkling.jp/

(写真:濱津和貴

吉玉サキ

北アルプスの山小屋で10年間働いていたライター。都内在住の30代。疲れない登山が好き。

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この記事を書いた人

吉玉サキ

北アルプスの山小屋で10年間働いたのち、2018年からライターに。著書に『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』がある。疲れない登山が好き。普段はあまり家から出ない。

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