「冷やかし入店お断り」


これから取材だ!とお店に入ろうとすると、入り口に貼られていた張り紙。

お店へと向かう道中、カメラマンの中村さんと「敷居が高いイメージがある」と話していただけに、その一言を見て思わず身構えてしまった。(アポ取りのメールではわりとスムーズだったんだけどな)と思いながら、互いに問題なく取材を終えることができるのか不安に思ったのを正直にここで伝えておきたいと思う。ただ、話を聞くにつれ、その言葉には確かな思想が込められていたことを知る。1時間のインタビューの末、わたしはこのお店のファンになってしまった。

福岡県・宗像市。国道3号線沿いに「GRiPS」はある。山帰りに立ち寄れるような立地ではなく、訪れるお客さんは決めうちでやってくる。8年前にオープンしたというこの店舗はもとは車屋を営んでいた場所だそうで、天井が高く広々とした空間だ。ここを一人で切り盛りするのが、冒頭の一言からはじまり、今回お話をうかがった永松さんである。

九州でも屈指の有名店となったGRiPS。まずは、永松さんご自身のアウトドアライフがどのように反映されているのか。そこから聞いてみた。

なぜ、山を登るのか?に立ち返った末に見えたもの

20年以上前から四駆車の仕事をはじめ、Jeepでキャンプをするようになったのがアウトドアのはじまりだと話す永松さん。それから山へと入り、徐々に登山へと移行していったのちに、ウルトラライトという考え方に出合う。

「登山をはじめたときはまだ知識もなくウルトラライトのことも知らなかったので、知ったときは衝撃を受けました。もともとヘビーウェイトなスタイルでしたから、最初は自分の体力がすごくついたと勘違いしてましたよ。今までキツかった山に、早く、楽に登れるようになったし、距離も伸びて縦走も積極的にするようになりました。どんどんストイックにもなってトレランもするようになったんですが……」

なぜ、山を登るのか?に立ち返った末に見えたもの|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の2枚目の画像

「歳を重ねることによって、考え方が変わっていったんですよね。何のために山に登るんだっけ?って考えたら、わたしはあくまで”楽しく遊びたいから”なんです。それがベースだから、レースに出るわけでもない。ストイックさも薄れていきました」

その考えに至るようになった出合いが永松さんにはあった。ハンモック泊だ。

「わたしは山で年間数十泊するんですけど、最近はテント泊はあまりしなくなりましたね。あとはハンモック泊なんです。ハンモック泊に出合って、”山で過ごす時間”というものをすごく考えるようになりました。考えてみてください。山で泊まるときっていうのは登り降りする時間や寝る時間と同じくらい、じっとしている時間があるんですよ。そこをいかに快適できるか、というのをハンモック泊で体験したんですよね。基本的に面倒くさがりなので、ハンモックはテントと違って木に引っ掛けるだけだし汚れないし準備も後始末も楽なんですよ。極め付けは、寝心地もいいでしょう?」

もともとは山ごはんもインスタント食品を食べていたが、山ごはんにもちょっと凝るようになったり、焚き火をするようになったりと”山で過ごす時間”を楽しむようになったという。ULを突き詰めていたときに比べれば結果的に荷物は増えてきたけれど、自分の中で何を重要視して、何を持つか持たないかを考えることも山登りの楽しみの1つだと永松さんはいう。

ハンモックに出合ったことによって、登山の楽しみ方も大きく変わったという永松さん。

「ハンモックは木が2本あればどこでも張れるのですが、基本的に人がいない静かな場所を探すので必然的に人のいない山深いところに入るようになったんです。それによって地形を学んだり地図読みを学んだりとスキルが備わっていきました。これがすごく面白い。お客さんにもそんなスキルを身につけて色々な山の楽しみを知ってほしいなと思っています。昔はアルプスや八ヶ岳に憧れて通いましたが、今はあそこまで行かなくても広島や山口、熊本、九州にもこんなにいい山があるじゃないかと思うんですよね。登山のスタイルも多様化してきているというか、アルプスを目指す人とはわたしは遊び方がぜんぜん違うんです。当初こそピークハントを目指していましたけど、今はどこそこの稜線や尾根や沢がいいとかそういう会話が多いですね」

馴れ合いはしない、いいと思ったものをお客さんに

馴れ合いはしない、いいと思ったものをお客さんに|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の1枚目の画像

“山で過ごす時間”を大事に、山の楽しみ方の幅を広げてきた永松さん。GRiPSでセレクトする商品はどのように考えているのだろうか。

「いくつかあるんですが、いま世の中にあるものよりも優れたものをセレクトするようにはしています。全てのアイテムを試すことはできませんが、メーカーの展示会などでこれはいいなと思ったものは1年前からテストしたり撮影をしてブログで発信しています。各方面からオススメを送られてきたりもしますが、自分が納得しないものはお断りしていますし、客寄せ的なセレクトはしないようにしています」

馴れ合いはしない、いいと思ったものをお客さんに|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の3枚目の画像
馴れ合いはしない、いいと思ったものをお客さんに|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の4枚目の画像
馴れ合いはしない、いいと思ったものをお客さんに|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の5枚目の画像

「もうひとつは、作り手の想いが伝わるもの。わたしはそこまで深く知りたいし、知るためならメーカーの方とお酒を飲んでじっくり話を聞きます。担当の方があまり詳しくないと話はそれで終わりですね、だから周りからは”気難しいヤツ”って思われがちなんですけどそれでいいと思っています。自分自身も歳を取るのと同時に、お客さんも歳を取るでしょう?だから自分が納得したものでないと扱いたくないですね」

「GRiPSはセレクトがいい」としばしば評される。その結果としてのセレクトは、決してブレることのない”山遊びのための道具”と”その背景”にこだわり、時には冷徹にも思われるようなジャッジを下すことで生まれたものなのだろう。

ブログで生まれた信頼と絆

ブログで生まれた信頼と絆|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の1枚目の画像

セレクト以外にも、GRiPSは頻度高く更新されるブログが人気だ。これも永松さん自身が日々の山行や商品のテストの様子などを投稿している。実に15年もの間、ブログを書いているのだそうだ。

「うちはアルパインでもクライミングでもないんです。低山や日帰り登山でもいかに山で楽しく遊ぶか。そういうお客さんに来てもらいたいですし実際に来てくれているのですが、ブログを見て来てくれるお客さんが本当に多いんです。ブログを読んで皆さんの知識やスキルが上がることによってうちで道具を買ってもらう。そのためにもブログで発信しています。よく店頭でもあの場所どこですかと聞かれますが、ヒントは出すものの詳しくは教えていません。それはお客さん自身が調べたり、実際に地形図を見ながらどういう場所か想像することで皆さんのスキルも上がりますし、楽しさも倍増すると思うからです。」

率直なまでに話してくれる永松さんだが、GRiPSは通販も行っている。通販の場合、お客さんとの対面のコミュニケーションは生まれないわけだが、それでもお客さんとの信頼関係や絆が間違いなく生まれていると感じるという。

15年もブログをやっているわけで、そこでは自分のことをさらけ出しているんですよね。それを読み続けてくれているお客さんが確実にいて、その信頼をもって通販で買ってくれている人も県外、全国にたくさんいる。そういうのを見るとブログをやっていて本当によかったなぁと思うんです。そういうお客さんに支えられて、毎週3日間休んで山に入っててもやっていけてます(笑)。」

ブログで生まれた信頼と絆|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の3枚目の画像

今のお客さんと歳を取りながら、一歩先を行く

長い間ブログを更新し続け、こだわりを持ったセレクトをしていることで着実に常連客が付いてきているGRiPS。扱っている商品は若者にも人気なUL系が多いものの、客層は意外にも永松さんと同世代の40〜50代が多いのだという。

今ついてきてくれているお客さんと同時に歳を取って、スキルを磨き、広げていけたらわたしは十分なんです。好奇心旺盛だから遊び方だって毎年変わってますよ、最近は野草にもちょっと興味持ちはじめてます。そうやって自分がいいなと思ったことを今のお客さんに好きになってくれたらいいなと思うんです。だから次の若い世代とか、新しいお客さんをたくさん増やしたいとはあまり思っていないんですよ。みんながこれやってるからうちも乗っかるとかはせずに、常に我が道を進んでいきたいですね。」

今のお客さんと歳を取りながら、一歩先を行く|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の2枚目の画像

常連客を大事にすることは店舗ビジネスとして百も承知ではあるものの、登山をするすべての人に来てほしいとは思っていないと断言するするところが永松さんらしい。冒頭の「冷やかしのお客様はお断りします」という一言もまさにそういう考えの表れなのだろう。

「わたしは、今とは別の仕事をしているときに山をはじめたので、山に求めるのは”普段の仕事のストレスから解放されたい””静かなところに行きたい”というものなんです。だから自ずとうちにくるお客さんもそういう方々が多くて、わたしと同世代の40〜50代の方が中心です。何か伝わってるのかもしれないなって思いますよ(笑)。」

今のお客さんと歳を取りながら、一歩先を行く|「お客さんと共に歳をとりながら、山のスキルを磨いていきたい。福岡のアウトドアショップ『GRiPS』」の4枚目の画像

インタビュー中、終始「面倒くさいやつでしょ」「厳しいって言われるんですよ」と自虐的に話していた永松さん。ただその自分の考えにまっすぐな姿勢と実際の行動が商品のセレクトやブログとなって表れ、そこに共感と信頼を寄せるファンがいるのも確かだ。

今いるお客さんに支えられているからこそ、自分はそのお客さんに新しい提案をすべく日々山に入ることができる。そしてそこで得たものをまたお客さんへ還元し、一緒に山を楽しむスキルを上げていく。一見排他的にも感じるかもしれないが、永松さんの山への考え方に共感したのなら、ぜひ気軽に足を運んでみてほしい。道具と楽しみ方を熱を持って語ってくれるはずだ。

最後に、最初は身構えていたが、永松さんは物腰柔らかくとても優しい方だった。

Shop Information

GRiPS

〒811-3422
福岡県宗像市王丸783-9

TEL:0940-34-8711

ウェブサイト:https://grips-outdoor.jp/
*不定休のため、ご来店の際はウェブサイトで営業日をご確認ください
ブログ:https://ameblo.jp/beecle/


(写真:中村 紀世志

.HYAKKEI編集長 羽田裕明

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