03 光の粒 〜野川かさね エッセイ〜
よく晴れた日。
降るはずもない雪が、
木についていたのか、
遠くの山に積もっていたのか、
風に吹かれて木々のあいだを光を浴びながら落ちてくる。
風をうけているのだから、
実際にはそれなりの速さで落ちているはずなのだけれども、
なぜだか雪の粒、ひとつひとつが見えるようだ。
そして、その光を受けた雪の粒を見ている時間のあいだ、
私はまわりの音を失っている。
無音。
まるで水のなかにいるようだ、と思った。
音は遠くなり、目に映るまわりの景色は速度を失う。
降ってくる雪の粒は水中の泡のようだった。
雪は天から地へと、泡は天をめざしてのぼっていく。
自分のいま立つこの場所は
誰にも知られていない深海の世界かもしれない。
そんな錯覚をおぼえた。
そして、自分の体は森のなかに沈みこんでいく。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。