山麓生活の山行記録①『北アルプス最奥、黒部五郎岳~雲ノ平(後編)』
もくじ
“最後の秘境”と謳われる雲ノ平の早朝
山行4日目。雲ノ平山荘で迎える朝は、朝ご飯も食べずに出発しようとする同じ部屋のベテラン勢の足音で起きました(4時!)。
朝4:30からの朝食を食べ終わる頃には、山荘の半数以上がいなくなり、追いかけるようにして太陽が昇り始めました。
僕はというと、6時にゆっくりと出発。
山荘の外に荷物を置き、同じ部屋の人からおすすめされた、山荘の裏手にある祖母岳(ばあだけ)へ手ぶらで行ってみると、槍ヶ岳や鷲羽岳、水晶岳に黒部五郎岳など、周辺の主要な山々を全て見渡すことができるパノラマが広がっていました。
単独での入山4日目の朝にしてこの景色。無音。「・・・このままここにいようかな」という考えが一瞬よぎります。
と、そんな感傷的な気分に浸っていては今日の行程をクリアできません。朝日に照らされるコバイケイソウの郡を見ながら、重たいバッグを担ぎ直して下山ルートを進み始めます。
三俣山荘でまたまた食事タイム
ブッシュを掻き分け黒部の源流へ続く急坂を降り、源流で水を補給しながら9:30に三俣山荘へ到着。
中編でも紹介した三俣山荘はとにかく料理が美味しいと評判だったので、今日の早めの昼食は絶対ここで!と決めていました。
別の登山客から美味いとヒアリング済みだったオムライスをオーダー。
ウワサは本当だった!フワフワのたまごに覆われたチキンライスは味もボリュームも本格的。となりの登山客グループも、「都会のレストランレベルだなー」と満足そう。
1週間前に東京・下北沢から来たという大学生の女の子が、先輩スタッフに教えてもらいながら淹れたサイフォンコーヒーをいただき、天空食堂をすっかり満喫し、10:30に三俣山荘を出発。
三俣蓮華岳の巻道を通り、いくつかある沢の水場で休みながらのんびり歩いていくと、初日に泊まった双六小屋へ到着しました。4日目の夜はここへ泊り、最終日の下山に備えます。
夕暮れの槍ヶ岳を眺めるなら樅沢岳へ
小屋の夕飯まではまだ時間があるので、部屋に荷物を置き、隣の樅沢岳へ。
槍ヶ岳へと続くルートの入り口となるこの山頂からは、山雑誌の写真にもよく登場する槍ヶ岳の姿が視界いっぱいに広がります。
誰もいないのをいいことに、しばらくの間、この壮大なスケールの山脈をひたすら眺めていました。
足を引きずりながらの下山
最終日、5日目の朝。山小屋の2段ベッドで目覚めたのは4:50頃。ちょうど頭の上にある荷物置きの板に思いっきり額をぶつけて目が覚めます。
さすがに5日目にもなると、身体のいたるところが悲鳴を上げ始めていました。足を見ると、両足の親指と中指の爪がバキバキに割れ、黒ずんでいました。バッグのハーネスの食い込みで、肩や腰骨あたりにはアザができています。太ももや足の裏は疲労が溜まってだんだん感覚が鈍くなってきています。
それでも昨日と同じように靴を履き、バッグを背負い、6時に双六小屋を出発。天気がこの上なく良いことが救いです。
ベテランの風格漂うお爺さん
下山を開始してから1時間半。7:30に鏡平山荘へ到着。
爪の割れた足をマッサージするために、靴を脱いで休んでいると、隣で休んでいたお爺さんが話しかけてきました。
「きみはどこまで行ってたんだ?」
「黒部五郎経由で雲ノ平まで行ってました。今日で5日目です。」
「そうかあ。おれは今日で12日目だ。」
「えぇーっ!」
「もう歳だからな。テント背負ってゆっくり歩くんだよ。」
もうすぐ70代に入るというこのおじいさん。90Lのバッグにテントと少量の行動食を入れ、山小屋で食事だけをとりながらテント場に泊まり、必要な水はすべて沢で汲みながら歩いているとのこと。
沢の水は必要なミネラルが摂れるから良い、とのこと。もう仙人レベルです。
「若いうちはまとまった休みが取りづらいだろうからな。今のうちに体幹を鍛えておきなさい。」
そう言い残すと、巨大なバッグを背負って降りていきました。
長い林道を経て新穂高センターへ
「体幹を鍛える」ことを胸に8時に鏡平を出発。初日は風が冷たすぎて立ち止まっていられなかった秩父沢は、晴天の下ではとても過ごしやすい水場です。
岩や小石がゴロゴロする道を下りながら、10:40にわさび平小屋に到着。水槽に浮いたオレンジやキュウリが美味しそうです。
ここからはひたすら長い林道。土や岩場と違って、硬いアスファルトや砂利道は、5日間酷使し続けた足には苦行でしかありません。
振動が足の裏へダイレクトに伝わってくるのを我慢しながら、やっとの思いで終着地点の新穂高センターへ12時ジャストに到着。
やっと終わったという安堵感。山行が終わってしまった寂寥感。ずっと行きたかった場所へ行って帰ってこれたという達成感。様々な気持ちが入り混じった頭と身体を落ち着かせるためにも、ひとまず駐車場近くの深山荘温泉へ。
ヒノキの風呂でかけ流しの天然温泉に浸りながらこれまでの5日間を思い返しているうちに、やっと下山の実感が湧くようになってきました。
機会があれば、もう一度このルートを旅したいと思います。
今回の山行の装備全リスト
バッグ類
Black diamond Infinity 60 (60l)
自由に動くウェストハーネスが腰の動きに追従してくるので、背負い心地がお気に入り。
Arcyterix フロントポーチ(筆者改造)
ウェストバッグを改造し、バックパックの前に取り付けるフロントポーチとして活用。デジカメや財布入れとして。
ジャケット類
Patagonia M10 Jacket
無駄を省いた超軽量アルペンクライミング用ジャケット。レインジャケットとしても併用。
Patagonia Torrent shell pants
パタゴニアの中でも比較的安価で買えるレインパンツ。
Arcteryxフリースジャケット
7年前にニューヨークの蚤市みたいなアウトドアショップで激安購入。ちょっと重いのが難点。
帽子類
Patagonia フィッシングハット、Chums キャップ
DWR加工で撥水性がある上に、折り目に沿って丸められるのが利点。日差しの強い時や軽い雨の時に使用。
Chumsのキャップはかれこれ10年くらいかぶっているので日差しで色褪せてきた。
パンツ/ベースレイヤー/下着類
North Faceロングパンツ、Patagonia ハーフパンツ
どちらも軽くて速乾性の高いパンツ。
Patagonia キャプリーンシャツ×3枚
厚さの違うキャプリーン3と2を使い分けながら着回し。速乾性と保温性が高く、2日着たままでもあまり匂わないのも良い。
登山用化繊下着&ウール靴下×3枚
コスパの良いモンベルの化繊パンツを3枚。山小屋は風呂なし基本なので最低2日は履いたまま。靴下は土踏まずをサポートしてくれるウールのもの。
速乾タオル、手ぬぐい
タオルは首に巻き、日よけ用にも。マルチユースでラフに使える手ぬぐいも一緒に。
山小屋で着る衣類、下山後の着替え
山小屋ではネルシャツとフリースパンツ。下山後、温泉に入った後の着替えは車の中に
靴
Garmont Tower GTX
クライミングも可能なので岩場で効果を発揮。
アクセサリー
Black diamondのポール
ないと膝にくるので必需品。
Climbing technologyヘルメット
今回は出番はなかったが、もしもの時のためにバッグに取り付けておいた。
Berghaus マップホルダー
スマホに頼らず登れるよう、YAMAPの地図を印刷して確認。ショルダーハーネスの脇にひっかけて常に開けるように携帯。
ヘッドライト
入山前はヘッドライトの電池残量の確認も忘れずに。予備の電池も。
エマージェンシーキット
バンドエイド、綿棒、頭痛薬、エマージェンシーシート、ホッカイロ、ティッシュ、ウェットティッシュ、アルコール消毒液、ライターなど。
軽アイゼン
軽くて小さいので夏場でも常に携帯。ぬかるんだ場所でも使用。
サングラス
食事関連
クッカー・セット、スポーク、箸、コップ、小型ナイフ、ボトル(1L)×2本
Ziplocのタッパー
食器として使ったり、余ったごはんを入れておいたり。スーパーで売ってるし、なにかと便利。
昼食用即席パスタ×4、ラーメン×1、チョコバー×5、エナジードリンク×5、カロリーメイト×2、干し梅
今回は山小屋ごはんがメインだったが、万が一に備えてちょっと多めに持参。お米は時間がかかるので、時短な麺類が中心。
コーヒーの粉、ソロフィルター
自分で淹れると美味い。でも山小屋のコーヒーはもっと美味かった・・
その他
コンタクトレンズ、シェイバー、髭剃りクリーム、くし
下山前の身だしなみ用。頭が洗えない場合でも、くしでとかせばかゆみも抑えられる。
文庫本、ノート、ペン
本は山小屋で消灯前のお供に。ノート&ペン今回の山旅のメモに使用。
※注意※
この記事は、2015年7月末の山行を記録したものです。
山のコンディションは時期によって異なりますので、事前に状況を確認した上で登山計画や装備の計画を立てましょう。
八ヶ岳と東京を行き来しながら、山と都会の暮らしについてレポートします。東京のメーカーに勤めながら、長野県富士見町で個人のプランニング会社を立ち上げ。現在は週の4日を八ヶ岳の麓、3日を東京で過ごしながら、「富士見町テレワークタウン計画」などのプロジェクトをサポートしている。
趣味は山と音楽。