GORE-TEX®は何からできてるか知ってる?今さら聞けない素材のウラガワを潜入取材してきました
『GORE-TEX®(ゴアテックス)』
アウトドアを嗜む者なら、一度はその名を耳にしたことがあるでしょう。でも、実際はGORE-TEX®がいったい何なのか、理解できていない人も多いだろうし、人工血管に使われている、なんて目からウロコの事実ではないでしょうか?
今回は、GORE-TEX® は何なのか?という意外と知らない素材の“裏側”をはじめ、どんな経緯で開発されたのか、手入れの方法などを深堀り取材。ロングインタビューになりますが、根掘り葉掘り、分からなかったこと・気になっていたことを聞いてきました。
GORE-TEX®のスゴさがひと目でわかる、おもしろい実験もしてきましたよ!
※ 以下より、生地をさす場合は『GORE-TEX® ファブリクス』、製品をさす場合は『GORE-TEX® プロダクト』と表記しています。
・ 体を濡らさないことまでが『防水』である
・ 素材屋としての高きプライドと徹底した品質管理
・ 原料はなんと”石”だった
・ 水を通さず、水蒸気を通す。そのスゴさが一目でわかる実験をしてみた
・ 洗濯=長く愛用できる。とにかく洗うのが手入れの肝
もくじ
体を濡らさないことまでが『防水』である
――そもそも、GORE-TEX® ファブリクスって何でしょう?なんとなくでしか分かっていない人も多いと思うのですが。
答えは『物質的』な側面と『システム的』な側面の2つあります。
ひとつは、素材そのもの。GORE-TEX® ファブリクスは、防水性、透湿性、防風性 のある素材です。一枚の生地ではなく、いくつかの生地を張り合わせて一枚の布にしています。
2つめの答えは、『システム』。GORE-TEX® ファブリクスが製品になるまでにどのようなことをしているか、素材の機能を100%生かすために行っている品質検査こそが、GORE-TEX® ファブリクスたるゆえんです。
――1つめの答えは、スッと入ってきます。でも、2つめの答えはまったく予想していませんでした。
わたしたちが考える防水とは、生地が水を通さないことではなく、“体を濡らさないことまでを含めて防水”ととらえています。たとえGORE-TEX® ファブリクスを使っていたとしても、首元や裾から雨が入り込んでしまう場合、私たちはそれをGORE-TEX®ブランドとは呼びません。GORE-TEX® ファブリクスを使った製品=体を濡らさないデザインであることまでを含めて、GORE-TEX® ブランドであると定義しているからです。
――ということは、各メーカーが作る製品デザインまで関与しているんですか?
そういうことになりますね。メーカーさんが作った最終的な製品に対して、ゴア社が試験をして、それにクリアしないと販売することはできません。生産直前のサンプルを送っていただき、実際に雨を降らせるテストを行います。マネキンに着用させて、上から雨を一定時間当て、中が濡れていなければ合格です。
――もし、中が濡れていたら?
もちろん不合格です。どこかから水が入る構造だからです。それを防水ウェアとは呼びません。濡れてしまった原因、デザインや素材を修正してもらって、合格するまでそのテストは繰り返し行います。防水ウェアは、信頼が大切なので。
――なるほど…!製品化には、厳密な審査をクリアしなければならない、と。
実際にはレインウェアのどこに使われているのでしょうか?
表面の加工と思われる方が多いですが、それは間違いです。レインウェアの生地は、実は複数の生地が貼り合わさってできています。表の生地があって、真ん中に白いフィルム、これをGORE-TEX® メンブレン と呼んでいますが、このGORE-TEX® メンブレン があって、一番下に裏地がある。この3枚をしっかり張り合わせると、一枚の布になります。これが、みなさんがよく見ているGORE-TEX® ファブリクスという素材です。
素材屋としての高きプライドと徹底した品質管理
――表地と裏地は、種類があるんですか?
あります。表地に厚くてしっかりした生地を使えば、丈夫なウェアができますし、薄い生地を使えば、軽いウェアになります。ゴア社は、表地・GORE-TEX® メンブレン ・裏地を貼り合わせた一枚の布(=GORE-TEX® ファブリクス)を作って、各アウトドアメーカーに販売しています。
――3枚の生地すべてを作っている?
表地や裏地は、専門の生地メーカーから買っています。ゴア社で作っているのは、真ん中のGORE-TEX® メンブレンと、生地メーカーから買ってきた生地を張り合わせた一枚の布地です。中には、共同開発して作ったゴア社専用の布もあります。
――種類はどのくらいあるんですか?
過去のものを含めたら、何千種類とありますね。それを各アウトドアメーカーさんが自分の作りたいウェアの用途に合わせてチョイスします。トレラン用のウェアを作りたいのか、はたまたハードなマウンテンジャケットを作りたいのかで、強度や風合いをもって選んでいただいています。
――メーカー側が表地と裏地の組み合わせも選べる?
いいえ。ゴア社がいくつも組み合わせを用意し、貼り合わせた状態で選んでもらっています。なぜなら、生地を貼った後に、強度や透湿、耐水のテストを行い、スペックを確認するからです。なので、表地・裏地がなんでもいいというわけではなくて、ゴア社の基準で合格したものしか商品化はできません。
――厳しい基準があるんですね。ちなみに、合格した組み合わせは大体何パターンくらいあるんですか?
用途によってだいぶ絞られますが、それでも選べる幅としては、少なくとも数十種類はあります。
――メーカー側からの別注要望はない?
「こういったものが欲しい」というリクエストをもらうことはあって、それに応じた生地を開発することはあります。でも、どれだけ薄いものを要望されても、引き裂きが弱ければ商品化できない。弊社の基準を越えないと出せないのです。
――GORE-TEX® メンブレンだけでウェアを作らないんですか?
GORE-TEX® メンブレンそのものが、防水・透湿・防風 の3大機能を兼ね備えているので、これでウェアを作れば、透湿性も最大ですし、防水性も防風性もしっかりある。それに、柔らかくて軽くて薄いので、かなりスペックの高いウェアになるんですけど、触ってみると分かるように、柔らかすぎて洋服にはできないですよね。これだけでは、洋服に必要な強度・ハリといった要素が足りないんです。
なので、GORE-TEX® メンブレンを洋服にするために、表地・裏地を貼り合わせて、一枚の生地にする必要があるんです。
原料はなんと“石”だった
――GORE-TEX® ファブリクスってどうやって開発されたんですか?
1979年に創業者の息子、ボブ・ゴアが発明しました。もともと父がアメリカの化学会社、デュポン社で開発メンバーとして勤務していた時に、PTFEというフッ素系樹脂が「これはもっと何かに使えるぞ!」と、大いなる可能性を見出していました。でも、デュポン社では研究開発を進められず、会社を辞めた彼は自宅のガレージで研究をはじめました 。
――PTFEとは?
みなさんがご存知のもので言うと、テフロンです。ものがくっつかないようにフライパンの表面に加工してありますよね。熱を遮断したり、電気を通さなかったり、熱いところでも硬くならなかったりと、色々な利点がある樹脂です。もともとは電気ケーブルのカバーとして開発されたものでした。
そして、研究をスタートしてから3年後、息子のボブがePTFE(エクスパンデットPTFE、伸ばしたPTFEという意味)を開発。そのePTFEこそがGORE-TEX® メンブレンです。
――そこからどうやって布に?
PTFEはただの塊ですが、それをある方法でギュッと伸ばすと、中に細かい気泡が発生して、同じ厚みのまま伸びることを発見したんです。
たとえば、筒状のものを引っ張ったら、薄く伸びますよね。ですが、ボブが発見したとある条件で伸ばすと、同じ太さのまま伸びるんです。その機能の中に防水透湿を見出して、そこから「ウェアにしよう」と考えたんです。
――ウェアを作るつもりで発明したわけではなかったんですね。
PTFEだと重かったり硬かったりしていたので、もっと軽量化して増やせば色々なことに使えるよねと、理論上では考えていたようです。伸ばすことに成功したら、本当に色々な機能があって、その中に防水性と透湿性もあった。で、それってアウトドアウェアに使えると考えたんです。それに、人間の体に埋め込んでも生体反応が起きにくいので、人工血管もePTFEで作られています。
――へぇ!人工血管ですか。
外科系のお医者さんにGORE-TEX®と言うと、レインウェアではなく人工血管を思い浮かべるようです。むしろ、「え、洋服作ってるの!?」って言われるほど(笑)。
他にも、防水性のある携帯電話やカメラ、車のヘッドライトにもこのePTFEは使われています。1種類だけですが、『エリクサー』というギターの弦もゴア社が作っているんですよ。
――いやはや、目からウロコです。じゃあそのePTFE (GORE-TEX® メンブレン)の“原料”は一体何になるのでしょう?
原料は、『ホタル石』です。このホタル石を薬品などで溶かしてフッ素を抽出します。この話をすると、「じゃあすり潰して粉にして引き伸ばせばGORE-TEX® メンブレンになるんですか?って」10人中5人には聞かれますが、それは違います(笑)
水を通さず、水蒸気を通す。そのスゴさが一目で分かる実験をしてみた
*実験手順は、コップに入れた生地の中にお湯(いわゆる汗)を注ぐだけ。
GORE-TEX® ファブリクスは、もわ~んとコップの中が曇っているのが分かる。これが、水を通さず水蒸気を通している証拠。ウェア内が蒸れにくいという事。ビニールは、水蒸気を通さないので、なにも変化がない。
洗濯=長く愛用できる。とにかく洗うのが手入れの肝
――わたし自身、レインウェアを洗濯する時、なんとなく素材によさそうとの観点から防水透湿ウェア用の洗剤を使っていますが、その匂いがどうもニガテで、洗濯という行為自体が遠のいています。メンテナンスはどうしたらいいですか?
洗うだけ◎です!とにかく洗ってください。中には洗っちゃいけないと思っている人もいるようですが、長く維持させるためには、洗濯がとても大切です。
それも、汚れたら洗うのではなく、着る度に洗っていただきたい。だって、登山ってたくさん汗をかきますよね。見た目が汚れていなくても、蒸発した汗が生地を通して外に抜けているわけですから、やはり汚れは溜まるのです。
――一般的な家庭用洗濯洗剤でも平気ですか?
大丈夫です。普段着と同じで、落としたい汚れって、レインウェアも同じなんです。汗とか体の皮脂油とか、埃による汚れなので。
――たまに、洗剤が残っていると透湿性の機能を下げてしまう、と聞きますが。
透湿性が下がる結果論としては、表面の洗剤残りによるものです。なぜなら、表面に洗剤が残っているとはっ水性が悪くなって水を弾かなくなり、表面に水がベターと貼りついている状態になる。すると、ムレが抜けにくくなります。ただ、残った洗剤で孔(あな)が詰まるんじゃないの?と考える方がいらっしゃいますが、それは間違いです。洗剤で詰まるようなレベルの孔ではありません。
――素材がハイテクで特殊、それに高価なだけあって、洗うのを躊躇ってしまいがち、そんなユーザーがたくさんいると思うのですが、アドバイスはありますか?
ウェアに洗濯機OKと書いてあれば(取り扱い絵表示のこと)、わたしは他の化繊ウェアと一緒に洗濯機に放り込んでガラガラ回しちゃいます。生地のダメージを気にしがちですが、よっぽど金属や石と一緒に洗わなければ大丈夫です!ただ、泥汚れが付いているウェアと一緒に入れる場合は、別々にした方がいい場合もありますが。
アウトドアで長時間着用できるウェアということで、Tシャツなんかの普段着よりも断然丈夫ですよ。みなさん、レインウェアを着るとき、結構タフな状況で使ってますよね?なのに、洗濯となると急にデリケート扱いになって、「おしゃれ着洗いした方がいいのかな?」ってなっちゃう。
ですが、洗濯によるダメージはほとんど考えなくていいです。「洗いすぎで壊れた」ケースはこれまで一件も聞いたことがありません。「シームテープが剥がれてしまった」といって製品が送られてくる場合は、ほぼ例外なく生地が汚れています。汚れが一番、大敵なんです!
――Tシャツと一緒に洗うのはなんだかビビっちゃいますが(笑)、それならばラクですしハードルも下がりますね。下山後すぐに洗えちゃう。
洗濯は、長持ちをさせるという面でも、はっ水性能を維持するという面でもプラスになります。詳しいお手入れ方法は、ウェブサイトに詳しく書いているので、読んでもらえると嬉しいです。
――長くなりましたが、最後に、読者へ向けて何かメッセージをお願いします!
GORE-TEX® プロダクトは、透湿性があるので晴れた日でも快適に使えるものです。なので、雨の日に限らず、普段着としても着てほしいと思っています。アウトドアの機能性は、街中でも役に立ちますし、快適に過ごせるはず。そこでもっと使い倒していただければ。そのためには、やはりこまめに洗濯をして、長持ちをさせる。それに尽きますね。
hr>p>
「ほ~」「へぇ~」「なるほど~!!」と、感嘆が止まらなかった今回の取材現場。品質管理をひっくるめてGORE-TEX® プロダクトと呼ぶその徹底ぶりは、野外活動を安心で快適に楽しめるよう、モノ作りの理念があることに他なりません。
「GUARANTEED TO KEEP YOU DRY(あなたのドライを保証します)」――。
GORE-TEX® ファブリクスを使用している製品には、この文言が書かれた黒いタグが必ず付けられています。これはメーカーに変わって、あなたのドライをゴア社が保証しますという姿勢で、同社はこれを1980年代から30年以上経った今も続けています。
素材メーカーがそこまでこだわる理由。それは、わたしたちユーザーに「防水」と言う名の最大の安心感を届けるため。そう実感しました。
春夏秋冬、日本の美しい山を求めて歩きまわっています。
音楽プロダクションの制作、アウトドアショップの販売員を経てライターになる。のんびり日帰りハイクからガッツリテント泊縦走、トレイルランニング、ボルダリング、スキーと四季を通してフィールド三昧。アウトドア媒体をメインにライター活動をする傍ら、アロマテラピーインストラクターとして「山とアロマ」をテーマに、神出鬼没なワークショップを展開中。