【第1回】森が人を呼ぶ屋久島trip|「もののけ姫と縄文杉、だけじゃない」
こんにちは。.HYAKKEIライターの弥山ひかりです。
今、大好きな屋久島にいます!
今宵は、港近くのゲストハウスに宿泊。
さっそく、島名物の「サバ節」を片手に、島に訪れた宿泊客(20〜50代)の輪に分け入り、こんな質問をしてみました。
私「屋久島ははじめてですか? 島へ来た理由は?」
(満場一致で)『縄文杉!』
縄文杉とは、屋久島の山中にどっしりと佇む、樹齢2〜3000年と言われる巨大な杉。10時間ほどの登山を行うコースであるにも関わらず、8〜9割の観光客が訪れるダントツ人気のスポットです。
確かに、私も3年前に初めて屋久島へ来るまでは、「縄文杉」と「もののけ姫の舞台のモデルになった森」のことくらいしか知識がありませんでした。しかし、島に魅了され3ヶ月ほど滞在しながら、島中のトレイルを歩き回って感じたのは…。
「これほど豊かな植生と山々に恵まれているのに、観光客を見かけるのは縄文杉への往復コースだけ…?」
ということ。これって単に、“屋久島=縄文杉”のイメージがつき過ぎてしまって、他の素晴らしい山々や森が知られていないからでは? と思ったのです。
また、縄文杉コースはすでに観光地として多くの人に開かれているため、特に連休中は大混雑。「森を静かに歩きたい」という人にはにぎやかな場所になってしまい、なかには屋久島の魅力を知り尽くす現地ガイドさんから他のスポットをお勧めされて目的地を変更するお客さんもいるそう。
そう、屋久島には、縄文杉だけを訪れるにはあまりにもったいないほどの魅力的なスポットがいくつもあるのです!
では、そもそも、屋久島はどんなところなのでしょう?
もくじ
ハイビスカスが咲き、雪が降る島
海の上にどーんと山々がそそりたつ景観から、「洋上のアルプス」とも呼ばれる屋久島。年間を通して大量の雨と山の標高が織りなす独特の風土により、世界的に見ても非常に特殊な植生に恵まれた島と言われています。
海岸部ではガジュマルやハイビスカスなど亜熱帯の植物が見られ、
山頂付近では亜寒帯に分布する照葉樹が見られます。
つまり、日本の植生のほとんどを屋久島で見ることができる、ということ。実際に麓から山頂まで登山をしてみると、麓は蒸し暑く、山頂では霜が降りている…なんてことも。冬になれば、標高の高い山々は雪で真っ白に覆われます。
海より深い、森の生命力
そして、なんといっても屋久島最大の魅力は、森の「生命力」。ひとたびこの豊かな森に入れば、生命力の強さを全身で感じられるはずです。
花崗岩でできた奇岩の数々もさることながら、倒木を抱きかかえるように空へ向かって伸びるヒメシャラや屋久杉の姿は圧巻。
森を支える苔たちや、
雨傘に使えそうな巨大クワズイモ。
そして、宇宙人の仕業かと思わせる、山の上の奇岩。
さらに、豊かな森に守られた、屋久島にだけ咲く花。
森と人とをつなぐ信仰
これらの命が息づく深い森と、人は、どのようにつながってきたのでしょうか?屋久島の森と人との関わりの歴史を探ると、ひとつに、島の山岳信仰が浮かびあがります。
屋久島には、春と秋に集落ごとに行われる「岳参り」という、山頂にある祠へ五穀豊穣などをお参りする昔ながらの風習があります。つまり、島の登山道は、集落と山の神様をつなぐ参道でもあり、それが集落の数だけあるということ。それは古くから、人と自然をつなぐ道でもあったのでしょう。
屋久島は“呼ばれる場所”
屋久島の観光客には、 「なんとなく来たつもりが、人生を見直したり、変えたりするきっかけになった」という人がとても多いです。
例えば私がゲストハウスで同室になった二人の女性は、それぞれ違う場所からきた看護士さんでした。二人とも、人一倍ストレスの多い環境で働きながら、今の自分を見つめ直そうと、ふと屋久島の森を歩いてみたくなった、といいます。
思えば3年前に来島したときの自分も、同じ思いを抱え、森に癒されたひとりでした。それは、人生が「あるべき位置に立ち返った」というような経験でした。
森の生命力は、人の生きる力そのものと呼応したとき、サラリーマンでも主婦でも、先生でもない、その人本来の姿を輝かせるのでしょう。その力は、人生を変えるというより、“洗う”ような作用があるのかもしれません。
深い森を分け入るうちに、自分の心の奥底まで立ち返っていくような、ちょっと特別な山旅を叶えてくれる島。この短期連載では、屋久島でじっくり取材を重ねた私が、より自然と深くつながるための屋久島の山旅へ、みなさんを誘います。
▶︎第2回、「自然と深くつながれる、5つの名所」はコチラ!
麓の神社で参拝してから、山頂を目指すのが好きです☆
ライター。アウトドア誌、評論誌等で執筆。北アルプスの山小屋に勤務、のち3ヶ月かけて屋久島中のトレイルを練り歩く。最近は島登山にハマっています。