
海から山へ、自然の恩恵を次世代へ繋ぐ「教育サーファー」の視点
パタゴニアが「サーフ」カテゴリーを「オーシャンズ」へと広げ、海を愛するすべての人々(ウォーター・ピープル)を巻き込む活動を加速させています。そのミッションの体現者であるプロサーファーの武知 実波さんは、自らの活動を「教育」と「システムチェンジ」に結びつけ、海と山が繋がる地球全体の環境保護をライフワークとして活動されています。
今回は、武知さんの個人的な体験と哲学に基づき、パタゴニアの新たな挑戦との重なりを掘り下げていきます。
もくじ
ホームである徳島の海と教育への情熱
武知さんは徳島県阿南市出身。四国で指折りのサーフポイントで、父親が営む創業45年を超えるサーフショップでの影響を受け、幼少期から海に親しんできました。
「両親と共にサーフィンをし、9歳ぐらいで自発的に『真剣にやってみたい』と思うようになりました。毎週末、家族で海に通い、高校3年生の時にプロになりました」

プロ転向後、武知さんは「受験の時期だった」という高校3年時に、地元の徳島大学に進学。英語教育を専攻した。この時以来、彼女の活動には2つの軸が生まれたという。
「一つはサーフィン、もう一つは教育です。この二つをどうかけ合わせて、どれだけインパクトを出していけるかが、自分の活動のベースになっています」
武知さんが教育に深く傾倒するのは、サーフィンが持つ計り知れない可能性を感じているからだ。
「海というオーシャンフィールドから発せられるエネルギーが、人に与える影響は非常に大きい。それをいかに広く伝えるかと考えた時に、一つは”研究(エビデンス)”が必要だと思いました。」
大学および大学院では、学部・修士を通じてサーフィンに関する研究に従事。サーフィンが地域に根差したスポーツであるという認識から、地域や行政との対話の重要性を痛感したといいます。
「海」から「山」へ繋がる武知実波の環境保護の哲学と使命感
パタゴニアが「サーフ」を「オーシャンズ」と捉え直すことは、活動フィールドを海全体、そしてその源流である周辺環境へと広げる意思の表れです。また武知さんの環境保護の哲学は、普遍的な自然の繋がりから生まれています。
「私自身、サーフィンを通して、健全な海がないと私たちはサーフィンが成り立たないことを知っています。だから、海を守ることは、サーファーとしての当たり前の責任なんです」
さらに、武知さんは日本サーフィン連盟の副理事長という枠組みの中に入り、システムチェンジを試みています。
「システムの枠組みに入って、政策策定に携わる立場に就くことは、日本における環境課題を改善する一つの方法だと考えています。 様々な活動を経験する中で、上からルールを変えていくことも必要だと感じたので、茨の道だとわかっていても、行くしかないと思って入りました」
この行動力は、「海を介した地球全体を守る」というパタゴニアの使命に強く共鳴しています。
「ローカル」と「環境」の守り方
「入学直後の教室で、県内出身の学生が『徳島は何もない』と話しているのを聞き、衝撃を受けました。何もないことないよ!と思ったけど、彼女にはきっかけがなかっただけだと思います。このままでは、故郷に愛着を持たない子や進学で徳島に来ても徳島の魅力を知らない子がマジョリティになってしまう」
「サーフィン部は、学生たちが“地元に愛着を持ってもらう”ためのきっかけとなりました。車で2時間かけて波の良いポイントに通う学生たちの姿を見たとき、「交通費や時間を費やす価値がある」とサーフィンが認められたことに感動を覚えました。実際、サーフィンをきっかけに徳島の企業に就職し、地元に残った卒業生もいます。」
武知さんが行うローカルな活動は、「自分の地を本能的に守っていく」という、環境保護の最も強固な基盤を作ります。「サーフ」から「オーシャンズ」へと視界が広がる中で、このローカルな活動の価値こそが、世界的なパタゴニアのミッションと繋がっていくと確信しています。
武知実波が体現する次世代のウォーター・ピープル
プロサーファーとして頂点を目指してきた武知さんが、いかにして「サーフィン」という枠を超えて「ウォーター・ピープル」全体を牽引するアンバサダーへと意識が変化したのでしょうか。
その一つが、自身の経験から得た「自己効力感」を伝える活動です。学校でのサーフィン体験授業を通じて、彼女は子どもたちに「不安でもやってみたらできた」という成功体験を養ってきました。
「みんながやったことがない、スタートラインが同じというスポーツが今少ない中で、サーフィンはそういうスポーツです。これを経験した子どもたちに、『初めてのサーフィンだったけど、挑戦してみたらできたよね。この経験を絶対に忘れずに、これからもいろんなことを挑戦してね。』と話して締めます」

この教育は、単なるスポーツの普及ではなく、生きる力を教えるものです。また、彼女は日本サーフィン連盟の副理事長として、サーフィンという枠を超えて、地域コミュニティと行政との連携を推進しています。医療従事者の全国大会をサーフィンコンテストとして開催するなど、「サーフィンをツールとして活用してもらう」関係性を構築することで、「オーシャンズ」という広い枠組みの中で、遊びと社会的な責任を繋げています。
海と教育、そして未来:武知実波が蒔く、次世代の自然保護活動家の種
教員免許を持ち、教育現場に深く関わる武知さんが最も情熱を注ぐのは、未来を担う子どもたちに「海」や「自然」の価値を伝えることです。
彼女が目指すのは、「地域の子どもたちの、メンターになったり、彼らがサーフィンを通して一緒に成長したりすること」です。現代では、一人の子どもに対し親世代だけの価値観が強く影響しがちですが、彼女はサーフコミュニティという複数の大人の優しい知恵の中で育つことの重要性を説きます。
「子どもたちを地域で育てることに期待しています。親の考え方だけじゃない考え方を、メンターとして受け入れられることはすごく大きい。このコミュニティが、子どもたちにとって第三の頼れる存在であってほしい」
「オーシャンストア」の新しい役割は、単なる販売拠点ではなく、まさに環境問題に関する「情報発信のハブ」であり、コミュニティの交差点となることです。武知さんの教育実践は、子どもたちが地域に愛着を持ち、「本能的に自分の土地を守っていく」
という、未来の自然保護活動家の種を蒔いているのです。

.HYAKKEIを運営する会社の代表
.HYAKKEIではディレクター兼フロントを担当。仕事中心の生活で、煮詰まった時に行くソロ登山が趣味。
ストレス度合いに応じて登るコースの難易度が変化し、日帰りの丹沢ハイクから、厳冬期のエベレスト街道まで経験。