【第3回】旅するように、日々を暮らす|「Traveling School – 旅する学校と生徒たち」
この日ほど「教育」のあり方について驚いたことはありません。とんでもない学校、とてつもない高校生たちに出会ってしまったな、と。
もくじ
「Traveling School?」
アメリカからのゲスト、23人の受け入れが終わりました。そのうち、15名は高校生で、なんと「世界を旅する学校」の生徒たち。カップルとかひと家族で来ることが多い普段のお客さんに比べれば、空前絶後の大人数。キャパオーバーな中、京北中より車5台と宿泊3か所を準備して何とか受け入れを遂行しました。
ゲストと出会って驚いたのは、まず、生徒のほとんどは実際「アメリカ」からは来ていませんでした。キャンパスのないこのTraveling Schoolの本部は一応ニューヨークにあるけれど、生徒のうちアメリカ人はたった2名だけ。カナダ、オーストラリアやニュージーランドなどの英語圏はもちろん、ベルギーやらロシア、さらにはタイやブータンからの学生も参加、そして驚くことにアフガニスタンやパレスチナ出身の子たちもいました。
その15名は、3年間共に旅をし続けました。約3ヶ月から5ヶ月ずつ、世界のそれぞれの場所で中期滞在をして、その時々のプロジェクトに関わりつつ、同時に国際バカロレア資格を取るための勉強をします。これは世界版大検のような高校卒業の資格で、世界のどこの大学にも進学が可能です。彼らが学ぶのは、通常の科目に加え、スペイン語や中国語も含まれます。
みんなが、これまでまわってきた国は、スウェーデンやドイツ、オーストラリア、中国、ヨルダン、チリ、UAE、スペイン、ブータンなどで、日本で滞在するのは、5ヶ月。3学年合計で45人。広島のインターナショナルスクールの場所を借り、同行する先生たち自身が複数の科目を教えます。その間に、広島で原子力をテーマにしたドキュメンタリーを作ったり、熊野へ一週間旅をしたり、また今回のような関東関西のエクスカーションが入ります。この後、生徒がいわば卒業旅行(?)で向かうのが、タンザニア。一週間かけてキリマンジャロに登るとか。
5年前にこの学校ができて以来、この15名は初めての「卒業生」となります。生徒たちの中には、アメリカの大学に進学するタイ人の女の子もいれば、UAE・アブダビにあるNY大学の中東拠点に進学するロシア男子、国に帰ってお父さんの旅行業を継ぐブータン女子、ヨルダン川西岸に戻るの、と意を決したように語る女学生がいました(「ガザに住んでた時よりは、西岸の方がまだ暮らしはマシ」)。
広島で行われる卒業式には、150名が参加予定で、その中には文字通り世界中から駆けつける彼らの両親がいます。
「夜のワークショップ」
さて、京北に来た彼らが何をしていたかというと、実は、その卒業式で披露するオリジナルソングを作るため。先生の計らいで、NYからのシンガーソングライターのモリソンを迎え、宿泊施設の茅葺きの徳平庵(とくへいあん)にて、深夜のワークショップを行いました。
26年間瞑想を続け、非暴力トレーニングのコーチでもあるモリソンと共に円で囲んだ場。最初はみんなクスクスふざけあっていたのが、徐々に「この三年は何だったのか」ということを真剣に語り、モリソンは丁寧にその言葉を汲み上げて、歌詞を作っていきます。ストンプのように、皆が手拍子をしたり、ボイスパーカッションをしながら、音を出し言葉を発し、共に曲を創りあげていくのにはワクワクしました。茅の屋根は中にいると、ネイティブ・アメリカンのティピのような不思議な空間でした。
京北遠足・キリマンジャロ前哨戦
翌日、早朝から叩き起こされた彼らと、京北・滝又の滝へのトレッキングへ。京北特有の杉木立の中を歩く、往復1時間半ほどの短いトレイルですが、いわばキリマンジャロの前哨戦です。興味深かったのは、5名先生がいたのだけど、どうも役割分担が完全にあるようで、「あのね、私たちはむしろお寺に行きたいの」と他の先生からご相談。2名の先生が滝行きの世話をして、他はご自由に京北を満喫していました。
逆に、レストランでのオーダーなどは、一人の先生がしゃにむに動きまわっていて、他の先生たちはかまわず談笑。日本のみんなで頑張っていきまっしょい系の、スクラム・チーム体制と違って、責任持って各自でやろうぜ、というスタイルも徹底してて興味深いです。そしてそういう先生に対して、生徒は個々に極めて協力的でした。
入学するには
ちなみに、気になる授業料は航空券代抜きにして、年8万ドル。そう聞くと目玉が飛び出そうになりますが、実際世界の紛争地からの生徒が来ていることからわかるように、理念に共感し応援してくれる人は絶えないそうで、、潤沢な学費援助の仕組みがあります。
ただし、まずは面接でお互いを知ることから。3年の旅行生活に耐えられるか。そこに対する深い興味があるか、をじっくりと問われます。英語に関しては、日常会話ができることが条件。ちなみに15名の子たちは、誰が英語圏から来たのか見分けがつかないほどに英語に堪能でした。卒業生たちのこれからが楽しみです。
「日本からの生徒はまだいないよ。ぜひとも!」という先生たちの声。中学生のお子さんがいるご両親方、ぜひともどうぞ!
*Think Global School
http://thinkglobalschool.org/
山や自然をただ訪れるだけではなく、そこを住処とした仕事と暮らしを紹介します。
京都の山奥・京北(けいほく)を拠点とする、編集者・日英同時通訳者。
2014年春より、外国人向けインバウンド事業 “Discover Another Kyoto”を立ち上げる。
サバイバル式に、日英中西仏の5言語を話す言語狂い。現在はロシア語学習中。
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