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「山岳事故を無くしたい」業界初の登山学習Q&Aサイト「Sherpa」を立ち上げた30歳男性の熱き想い

それはIT企業出身の30歳男性の挑戦だった。

構想から約2年。登山業界にツテも知り合いもまったくいなかった石井孝典さんが、手探りの状態から“登山学習Q&Aサイト”をリリースしようと思った理由は一体何なのか?

「Sherpa(シェルパ)」の開発背景や、彼が登山業界に注ぐ熱意、ゆるぎない想いについてお話をうかがってきました。

登山業界に「新たな学習基盤」を作りたい

ーー 3月18日に登山学習Q&Aサイト「Sherpa(シェルパ)」がリリースされましたね。まずはSherpaの内容を教えていただけますか?

「Sherpa」は、ユーザーが抱える疑問をプロの山岳ガイドに個別質問でき、気軽に解決できる無料のサービスです。

ほかにも、登山の基礎知識や登山に役立つ情報を配信したり、全国各地で開催される「机上・実地講習会」の日程を一覧化し、ユーザーが自分に必要な講習会を選びやすくしたりと、初心者から経験者まで、山を身近に楽しめる学習サイトになっています。現在はβテスト中で、実地講習などの提供は次のフェーズからリリースを検討しています。

プロの山岳ガイドによる山のQ&Aのほか、「山の基礎知識」「正しい山のファーストエイド」「登山体の作り方」といった各ジャンルのエキスパートによる連載も展開
プロの山岳ガイドによる山のQ&Aのほか、「山の基礎知識」「正しい山のファーストエイド」「登山体の作り方」といった各ジャンルのエキスパートによる連載も展開

お話を伺った「株式会社 Sherpa&Company」代表の石井孝典さん。インターネット広告の営業を経て現在に至る
お話を伺った「株式会社 Sherpa&Company」代表の石井孝典さん。インターネット広告の営業を経て現在に至る

ーー これまでになかった全く新しい発想のサービスですよね。開発にはどんな経緯があったのでしょうか?

僕自身、3年ほど前に登山をはじめたんですが、山を身近に学べる環境がなかったんです。どんな道具を揃えればいいのか分からず、周りに相談できる仲間もいなくて、とにかくどうしたらいいのか分からなかった。自分の力だけでは解決策を見出せない状態でした。未経験者がいきなり山岳会に入ったり、山岳ガイドに依頼したりするのは敷居が高く感じてしまって。それにコストもかかりますよね。

そこで、Facebookに「みんなの登山部」というグループを2014年の冬に立ち上げてみたんです。僕のように悩みを抱える人たちと一緒に、登山にまつわる悩みを解決できたらいいなと思って。

石井さんがFacebook上に立ち上げた非公開グループ「みんなの登山部」。現在は2万5000人以上が登録し、タイムラインは登録メンバーの山行記録や情報で連日賑わい、情報共有の場になっている
石井さんがFacebook上に立ち上げた非公開グループ「みんなの登山部」。現在は2万5000人以上が登録し、タイムラインは登録メンバーの山行記録や情報で連日賑わい、情報共有の場になっている

ーー 反響はどうでしたか?

僕のような同様の悩みを抱えている人たちをたくさん目の当たりにしましたね。「みんなの登山部」では、各々の登山に関するQ&Aや、各地の山行報告、緊急情報を知ることができるほか、交流会や講習会の実施も行っているんですが、これまで4000人以上の登山者と会って話をする中で、「もっと登山について気軽に学べる環境を整えたい!」という想いが自分の中でますます強くなっていきました。

登山の「わからない」を「わかる」に変えたい。多くの登山者が安全で楽しい登山をできるようにしたい。そう思ったんです。

「みんなの登山部」交流会の様子。交流会や講習会は全国23県、180回を超える(写真:石井さん提供)
「みんなの登山部」交流会の様子。交流会や講習会は全国23県、180回を超える(写真:石井さん提供)

ーー その役割を担うのが、今回開発した「Sherpa」だと。「みんなの登山部」では駄目だったのでしょうか?

はい。「みんなの登山部」だけではカバーしきれない問題点が見えてきたんです。

たとえば、悩みを抱えている人が質問を投げかける。すると、多くの方々が回答を書き込んでくれるんですね。でも、その人の主観や経験値あってこその回答もなかにはあって、回答者同士がコメント欄で言い合いになる事態が起きてしまいました。

それを目の当たりにして、自分を筆頭に、アマチュアだけで2万人以上を束ねるグループを運営していくには限界があると感じはじめました。また、グループ内のメンバーが山岳事故で亡くなってしまったこともあって…。

そういった経緯があり、プロから学べる学習機能が必要だと、痛切に感じたんです。それも、今の時代に合ったインターネットを最大限に活かすという方法で。

ウェブサイト上から簡単に質問を投稿できる。回答してくれるのは「日本山岳ガイド協会」、「信州登山 案内人」に登録しているプロのガイド。すでに10名が賛同し、スピーディーかつ適格な回答環境を作っている
ウェブサイト上から簡単に質問を投稿できる。回答してくれるのは「日本山岳ガイド協会」、「信州登山 案内人」に登録しているプロのガイド。すでに10名が賛同し、スピーディーかつ適格な回答環境を作っている

ーー 昨年11月から12月にかけて、クラウドファンディングも行っていましたよね。

はい。目標額に達することはできませんでしたが、総勢134名の方が賛同してくださり、総額982,664円もの支援をいただくことが出来ました。このご支援いただいた金額はSherpaの開発費用に充てさせていただいています。

「CAMP FIRE」を介し、Sherpa開発の賛同・支援を呼びかけた。クラウドファンディングの挑戦にあたり、株式会社として現在の会社を立ち上げたそう
「CAMP FIRE」を介し、Sherpa開発の賛同・支援を呼びかけた。クラウドファンディングの挑戦にあたり、株式会社として現在の会社を立ち上げたそう

ーー 「sherpa」の開発は石井さんおひとりで?

最初は僕ひとりで構想していましたが、ある時Facebookに投稿したんです。「山をもっと身近に学べる環境を作りたい」「山岳事故を無くしたい」「登山業界を変えるにはもっと抜本的にやらなきゃ駄目なんだ!」って。

そしたら、「みんなの登山部」に登録していた窪から共感のメールをもらって、じゃあ今度会いましょうよってなって。ちょうど窪も僕と同じ30歳だったこともあり気が合い、今ではほかのエンジニアをまとめてくれるリーダー的な存在です。

左から石井さん、角田睦美さん(27 歳)、升一元吾さん(30 歳)、窪宏二朗さん(30歳)。石井さんを除く3人はプロのエンジニアとして働くかたわら、仕事の合間を縫ってSherpaの開発に協力している
左から石井さん、角田睦美さん(27 歳)、升一元吾さん(30 歳)、窪宏二朗さん(30歳)。石井さんを除く3人はプロのエンジニアとして働くかたわら、仕事の合間を縫ってSherpaの開発に協力している

インターネット上でのやり取りはもちろん、都内の会議スペースを利用して月に1、2度顔を合わせてミーティングしている
インターネット上でのやり取りはもちろん、都内の会議スペースを利用して月に1、2度顔を合わせてミーティングしている

ーー 「みんなの登山部」が引き合わせてくれた、素敵なご縁ですね。

窪とは「Sherpa」の方向性を決めるにあたって衝突もしばしばありますが(笑)。みんなには本当に感謝しています。

登山学習のプラットフォームを目指して

ーー どんな風に「Sherpa」を活用していってほしいですか?

山のことを気軽に学ぶ場、相談できる場として、初心者から上級者の方まで利用してほしいです。僕のように、これまでSNS上で質問をしたことがある人は特に共感してもらえると思うんですが、「今さらこんな質問をしたら恥ずかしいかな」とか、「馬鹿にされちゃうんじゃないかな」「叩かれちゃうかもしれない」っていう恐怖心みたいなものも少なからずあったと思うので、「Sherpa」ではそんな風に気負わず、何でも質問してください!

ーー 行き場のない悩みを解決できる場所がもっともっと身近に増えれば、石井さんが言うように、増加の一途をたどる山岳事故を少しでも減らすことができますよね!

はい。それに、登山者が知識を増やすことは、結果、山岳事故を無くすことに繋がるだけでなく、登山業界全体の再燃にも繋がっていくと感じているんです。

たとえば、学習を通じて、モノ(登山道具)の価値が分かる人が育ち、モノを買うようになる。そして、その人はもっともっと学ぼうと思って実地講習に行くようになる。するとガイドさんたちにも仕事が増えるし、プロの知識を一般登山者が知る機会も増えていく。

そういった流れがどんどん巡っていくことによって、最終的には業界全体が潤い、山岳事故を無くすことに繋がっていく。登山が生涯スポーツとしてみんなのライフスタイルの充実に一役買えるよう、「Sherpa」は登山学習のプラットフォームを目指していきます。

業界に人脈もない、利益が生まれるかも分からない状況の中、「人の役に立ちたい」「山岳事故を無くしたい」という石井さんの熱意と周囲の支えによって、ようやく形になった「Sherpa」。筆者もいち登山者として、今後多くの人にとって学びの場となるよう願っています。

3/18にリリースされた登山学習Q&Aサイト Sherpa(シェルパ):
https://sherpajp.com

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