「なぜ人は山に登るのか?」

「そこで人は何を見て、何を感じるのか?」

登山好きな仲間で集まって、ひとたびそんな問いを投げかければ、一晩中語り明かせるのではないでしょうか。山登りにおける永遠のテーマであろうこの問いに対し、独自の視点で山登りを楽しんでいるのが.HYAKKEIライターの弥山ひかりさん。いつも登山レポートを寄稿してくれている彼女の考える「自然、山の楽しみ方」とは何なのか?第3回となる自然ビトはそんな彼女の頭の中と実体験に迫ります。

■弥山ひかりさんプロフィール
フリーのライター。1986年生まれ。
編プロ勤務のち独立後、北アルプスの山小屋に勤務、屋久島に3ヶ月滞在し島中を練り歩く。
渋谷区に住みながら、全国の島や神社、山をふらりと旅している。

奈良の山奥で育まれた自然信仰とアウトドア



——弥山さんにはたくさんの登山レポートを中心に寄稿頂いていますが、弥山さんが自然に触れたきっかけは何だったんでしょうか?



弥山さん(以下弥山):7歳まで奈良県の天川村という山深いところで暮らしていたので、物心ついたときには裏山で木登りや山歩きをしていました。4〜5歳のころには、近所の弥山(1895m)という山で一泊登山をしたり、富士登山をしたりしています。

——え、めちゃくちゃ早くないですか!幼稚園とかでそういう行事があったんですか?



弥山:いえ、父も母も、特に「アウトドアやろう!」という意識もなく飄々と山に入る人だったんです。母はジーパンで登山をしていましたし。それと、当時父が天川村の天河弁財天という神社で禰宜(ねぎ)をやっていました。だから、山と神社が自分の遊び場でしたね。

——父親が神官だったのですか、しかも山奥で。



弥山:このあたりは山岳信仰の歴史が深い山域なんです。今でも、山の谷間に響く法螺貝の音とか、幼稚園の帰りに山伏さんとすれ違うのがすごく怖かったことをよく覚えています。

——幼少期から成年するまで、ずっと天川村で過ごしたんですか?


弥山:小学校に上がるころ、新潟県に引っ越しました。10代のころは、夏は部活帰りに友達と体操着のまま川にダイブしてよく遊びましたね。結構高い崖から宙返りしたりして。冬はスキーしかやることがなかったし、中学校の授業では谷川岳や苗場山も登りました。そう思うと、幼少期から神社や山がすごく身近にあったんだなあと思います。

——信仰という点で何か思い出すことはありますか?


弥山:木や土や風にも全部に神様が宿っている、いわゆるアニミズムな感覚は子供の時からありました。親戚の話では、いつも宙や木に話しかけている変わった子どもだったそうです。見えない何かを敏感に感じていたのでしょうね。うんと山奥で暮らしていれば、誰でもそうなるものだと思いますけどね。

奈良の山奥で育まれた自然信仰とアウトドア|「【自然ビト03】目に見えない世界を見に、山へ/.HYAKKEIライター弥山ひかり」の14枚目の画像

——まさに自然の申し子ですね。東京に出て来たのはいつごろなんですか?



弥山:18歳で上京して、大学生活をめいっぱい謳歌しました。大学生から20代前半くらいまでは、自然とはめっきり離れていましたね。「都会イエーイ!」みたいな感じで(笑)。

–—いわゆる都会的な暮らしをしていたんですね。



弥山:それが、震災を機に、またすごく山を登るようになったんです。

会社を辞め、山小屋生活。山のいろはを学ぶ



弥山:震災の翌年くらいには会社を辞めて、無我夢中で山を登り、山小屋でバイトしたりしていました。



——急展開ですね!何があったんですか?

弥山:勤めていた会社が編集プロダクションだったので、ずっとデスクワークだったんです。辞めたとたんにPCに触れるのが嫌になったのと、無性に体を動かしたくなったこともあって。一時は新宿歌舞伎町の「ロボットレストラン」でダンサーをしていたこともありました(笑)

会社を辞め、山小屋生活。山のいろはを学ぶ|「【自然ビト03】目に見えない世界を見に、山へ/.HYAKKEIライター弥山ひかり」の4枚目の画像



——ロボットレストラン、ですか。意外過ぎますね。



弥山:「歌って踊ってお金もらえるなんて最高じゃん!」って。まだギャルギャルしていたころでもあったので(笑)。でも怪我をしてすぐ辞めちゃったんですけどね。そうこうしているうちに行き詰まってきて、「いっそ東京を離れようかなあ」と思い立ったんです。一度、頭の先からつま先までどっぷり自然のなかに浸かりたくなって。そこで、友人の紹介で北アルプスの黒部五郎小屋で小屋番のバイトをさせてもらうことになりました。

——山小屋で働いていたんですか? また一気に環境を変えましたね。



弥山:当然、ケータイ電波もテレビもないですし、お風呂も4日に1度。都会生活から一気に山小屋生活になったので、どんどん感覚が研ぎすまされていくし、何をしてもありがたみを感じるようになりました。登山のリスクから、山で生活する知恵まで、山のことをここでたくさん教わりましたね。例えば山小屋ではお皿を洗うのに洗剤を使わず、油はお米のとぎ汁で落とし、湯煎して殺菌しているんですよ。手間だけど、山を汚すわけにはいかないですから。自然への感謝と畏れが根底にある生活が、すごく肌に合いました。

小屋番を辞めて下山する前に、1週間かけて雲ノ平や高ノ原、水晶岳あたりをのんびり縦走したんです。今思えば、その経験はかなり大きかったですね。1人でも縦走できることがすごくうれしかった。

ただ登るのではなく、文化に触れる



——北アルプスの下山後はどちらに?



弥山:「山もいいけど、次は海も見たい!」と思い、屋久島へ。住み込みで働きながら、3ヶ月間かけて島中のトレイルを歩き回りました。そこでの生活を通して、土地の信仰や、目に見えない世界に触れることができたなぁと思います。

——屋久島の信仰ってどういったものがあるんですか?



弥山:屋久島は俯瞰すると丸い形をしていて、海岸線沿いに集落があり、中央が山岳地帯になっています。中央の山は前岳と奥岳という2階層になっています。

ただ登るのではなく、文化に触れる|「【自然ビト03】目に見えない世界を見に、山へ/.HYAKKEIライター弥山ひかり」の5枚目の画像

奥岳は、前岳にさえぎられて集落からはほとんど見えません。すると、奥岳は神格化され、そこに神様が宿ってると考えられるようになる。そのため、ある時期まで奥岳は女人禁制だったそうです。

屋久島では今も、毎年春と秋になると、各集落の青年団が、山へお参りをしにいきます。これを「岳参り」と呼びます。

これは五穀豊穣のお祝いや感謝をするもので、早朝から浜へ海水や砂などをとりにいき、山へ登り、山頂付近にある祠へまいてお参りをします(※お参りの形式は集落ごとに差があります)。「海の恵みは山のおかげ」、という感謝の気持ちが表れていますよね。

これを聞いたらいてもたってもいられず(笑)町長さんに直接お願いしにいき、永田という集落の、秋の岳参りに取材を兼ねて参加させてもらいました。一泊登山なのでハードですが、気合いを入れて地下足袋で参加しましたよ。完全に浮いてましたけど(笑)。



——屋久島っていうと縄文杉を見に行くとか、もののけ姫の舞台だから、とか単純に登山をしに行くイメージが強かったですが、もともと山岳信仰が深い島なんですね。



弥山:そうなんです。このときに、私は単に山を登るだけでなく、土地の人や民俗文化、信仰に触れるのが好きなんだなって気付きました。

これは屋久島に限らずですが、どの山を登るときでもだいたい登山口近くに神社があるんですよね。そこでちゃんと「ありがとうございます」とお参りしてから登ると、最後まで晴天に恵まれたり、無事に下山できたりする。これも親のまねごとからはじまったようなものなので、幼少期から自然とやってきたことです。山に入る人はみんなそうするものだと当然のように思っていましたが、意外とそうでもないみたいですね。

子供のころの素直な気持ちを取り戻しに、旅に出る



——弥山さんの自然の楽しみ方は、綺麗な景色を見るとか、そういうのではないんですね



弥山:結婚してからは東京の恵比寿で暮らしていますが、相変わらず1〜2ヶ月に1週間くらい、島や神社どころを旅をしたり、山を登ったりしています。
なので、私にとってはメインは旅なんです。そのツールが登山、神社巡り、島巡りですね。


——なぜそんなに旅をするんですか?



弥山:うーん。たぶん、目に見えない何かを感じにいっているんだと思います。小さいころ、当たり前に見ていたのに、大人になって抑えてきていたものを。あのころ見えていた素直な気持ちを取り戻したくて、旅をしているんだと思います。

屋久島から東京に帰って来てからは、自然のなかで再び開いた感性が、都会生活によってまた閉じていく気がして嫌でした。でも、夫や周囲の温かい理解のおかげで旅をし続けられていること、東京にもたくさんの緑や神社があることを知ったこと、旅と登山で得た知恵を生活にアウトプットできるようになってからは、東京にいながらでも、ちゃんと見えない何かを感じることができるようになりましたね。

本来、その感性は人間誰しも持っていると思うんですよ。ただ、閉じているのか開いているかの違いがあるだけで。感性が開いてくると、山に登ったときに感じる自然の色彩がより鮮やかに見えてきますし、太陽の光をすごく眩しく感じるようになるんです。「山に行くとリラックスできる」くらいの感覚で見ている世界では、自然から受け取れるものの4割程度しか受容できてないと思ってもいいくらいです。

子供のころの素直な気持ちを取り戻しに、旅に出る|「【自然ビト03】目に見えない世界を見に、山へ/.HYAKKEIライター弥山ひかり」の6枚目の画像



——登山のスタイルにもそういった考えが表れていそうですね。



弥山:登山で何かを極めたいっていう気持ちはないんですよ。登山のスタイルを、上を目指すアルパイン系と遠くを目指す縦走系で分けるとしたら、私は断然縦走タイプ。何日も山にこもって、旅するように山を歩いていたいです。

今年は海外に挑戦、アウトドアの本場へ



——その中で好きな山はあるんですか?



弥山:先日取材で登った神津島の天上山はすごく良かったです。標高は600メートルも無いんですが、景観は北アルプスや屋久島の宮ノ浦岳を彷彿とさせるような、秘境感が満載で。山上の砂漠が雪のように白くて、島なので海もあるし。「不動池」という龍神様が祀られているところにいったら、いきなりパーッと陽がさして、鳥肌が立ちました。そういう不思議な巡り合わせの多い山でした。

今年は海外に挑戦、アウトドアの本場へ|「【自然ビト03】目に見えない世界を見に、山へ/.HYAKKEIライター弥山ひかり」の3枚目の画像
今年は海外に挑戦、アウトドアの本場へ|「【自然ビト03】目に見えない世界を見に、山へ/.HYAKKEIライター弥山ひかり」の4枚目の画像



あとはやっぱり、黒部五郎岳ですね。コバイケイソウという、4年に1度だけ咲く花があるんですが、私が山小屋に入ったのがたまたま「50年に1度」と言われる大当たりの年だったんです。常連のお客さんにも「あんたこんな年にいられるなんて運がいいよ」とよく言われて、なんだかご縁を感じました。

今年は海外に挑戦、アウトドアの本場へ|「【自然ビト03】目に見えない世界を見に、山へ/.HYAKKEIライター弥山ひかり」の6枚目の画像



——弥山さんは、やっぱり何か自然と深い繋がりがある人なんですね。海外とかは特に考えていないんですか?



弥山:今年は行きたいなと思っています。

——めちゃくちゃアクティブですね、どちらに行くんですか?



弥山:カリフォルニアの「ジョン・ミューア・トレイル」を歩いてみたいんです。友人が歩いたときの話を聞いてからずっと行ってみたくて。それに、海外のアウトドア事情も気になる。今の日本のアウトドアカルチャーってどうなんだろうっていう疑問がずっとあるんですよ、モノに溢れた印象が強いのと、ルールに縛られすぎているというか、せっかく山のなかにいるのに人目を気にするような雰囲気がある。かつてアメリカから「アウトドア」が輸入されたときの思想ってどうだったんだろう、今はどんな空気なんだろうって気になっているんです。

あとはクリスタルガイザーでも有名なシャスタ山。ネイティブアメリカンの聖地と言われていて、ここもずっと気になっています。ご縁のあったほうに行くでしょうね。

自分が体験した感覚を、伝えて、繫げていきたい



——最後に、山を登る時に常に持って行くものってありますか?



弥山:いくつかありますが、小さなスケッチブックを必ず持っていきます。日記をつけているのでその記録もありますし、文章では表現できない情景とか感覚を絵に起こしておくようにしています。.HYAKKEIでもイラストや漫画を寄稿していますが、これまでお話したような私の感覚や体験はなかなか文字だけでは伝わりづらいので、絵にして伝えていけたらなと思いますし、そういう世界を繫げていきたいと考えています。

弥山ひかりさんの記事はこちら!

弥山ひかりさんの記事はこちら!|「【自然ビト03】目に見えない世界を見に、山へ/.HYAKKEIライター弥山ひかり」の1枚目の画像

山を登るだけでなく、スピリチュアルな側面を持つ弥山さん。
登山時の起こったご自身の貴重な体験やインタビュー内で話に出た天上山についてなど、たくさんの登山レポートを寄稿して頂いてますので是非ご覧ください。

▶︎弥山さんの記事はコチラ

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.HYAKKEI編集部

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