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山グルメを制すれば、登山がもっと楽しくなる!山小屋の食探検 – 北八ヶ岳・黒百合ヒュッテの場合 –

美味しい山ごはんは登山の楽しみのひとつ。

北八ヶ岳・黒百合平に建つ山小屋「黒百合ヒュッテ」もその例外ではありません。天狗岳登山の拠点としてもアクセスしやすく、通年営業ということもあり、夏だけでなく雪山シーズンにも天狗岳を目指す登山者で賑わっています。

黒百合ヒュッテの看板メニュー

「看板メニューのビーフシチューは多い時だと1日およそ100食注文される時もあります」。そう話すのは、黒百合ヒュッテオーナーの米川岳樹さん。

黒百合ヒュッテの歴史は古く、小屋が建てられたのは1956年のこと。70年近くもの間、登山者を見守ってきました。

現在黒百合ヒュッテでは、ランチメニューに主にご飯類・麺類・軽食や甘いものを提供。看板メニューのビーフシチューは、この山小屋で1番売れているメニューだそうです。

「セットでご飯かパンが選べるが、お客様の注文が重なるとお米が足りなくなることも。ご飯は40〜50食分程度しか用意していないため、売り切れたら、パンに切り替えて対応しています」。

ビーフシチューを販売し始めたのはおよそ10年前。

「当時、いろいろなランチメニューを考えていた中で、ビーフシチューが1番美味しそうだなと思い、採用しました。最初は試しで提供して、お客様にウケたら通常メニューに、そうじゃなかったらやめようとも考えていました」。

ただ、ここ最近SNSが流行したおかげですっかり有名に。

「黒百合ヒュッテへ来たら、ビーフシチューを食べる。そのイメージが定着しましたね。黒百合ヒュッテのメインは宿泊業であり、合間で飲食をやっているので、ここまで反響が大きいのは正直嬉しいです」と、嬉しそうなご様子の米川さん。

それ以外のメニューに目を向けてみると、カレーやうどんなど、山小屋定番のメニューが並びます。そのほかには、甘いスイーツも提供しています。

山小屋にいることを忘れる絶賛スイーツ

「手作りマフィンもビーフシチューに負けず劣らず人気がありますよ。下で焼き上げてから山へ持ってきています。作って1日目は出来立ての状態を提供していますが、それ以降は冷凍して保存しています。提供する際は再度温め直して、生地がふわふわの状態でお出ししています。疲れた体に甘いマフィンが染み渡りますよ(笑)」。

セットにはコケモモソースもあり!

山小屋を忘れて、まるで街中の喫茶店で寛いでいるようなリラックス感を味わえます。

「ふわふわの生地に甘酸っぱいソースが合うんですよ。このマフィンを作っているのは、うちの妻なんです。企画段階で甘いものを提供したいと相談したところ「わたしが作ってあげる」と言われて、それ以降は妻が作るようになりました。元々製菓の学校へ行っていたこともあり、大量のお菓子を作ることに抵抗はなかったみたいです」。

奥様の手作りということもあり、優しい味がすると、訪れる登山者にも好評のようです。

「私たちの自宅は長野県茅野市にあり、そこでオーブン2つをフル稼働させて焼き上げています」。

その数、1回あたり34個。焼き上げたら、奥様が山へ登って運んでくれるそうです。季節限定のメニューなどは特別ないと話す米川さん

年中通してほぼ同じメニューを提供しているというが、どの時期でも美味しい食事を提供できる工夫をしているのがこだわり。

「宿泊の夕飯メニューで提供している煮物やお味噌、おつけものは手作りです。あと梅干しも。妻の実家である千葉県九十九里で、一気に1年分の梅干しを作っているから、合計したら10キロほどを毎年山小屋へ持ってきています。あとは、目立ったところではないけれども、野菜はうちの両親が育てた無農薬を使用しています。安心で美味しい食事をお客様には提供したいので」。

黒百合ヒュッテでは、食料や資源を月に1回、専用ヘリで山小屋の玄関前まで運搬しているという。

「それ以外に、不足している資源や食料を週に1〜2回。重い時だと50キロを担いで歩荷担当が持ってきてくれています。基本的には男性スタッフが担当しますが、場合によっては女性スタッフが軽めの20キロほど担いで登ってくれています。

スタートは近くの登山口から。夏は唐沢鉱泉、冬は渋の湯登山口を使用。もしお会いしたらエールを送ってあげてください(笑)」。

食事の提供はスタッフ全員で取り組む

山小屋の食事提供は米川さんの父親の代にはすでにあったといいます。

「カレーやラーメン、うどん、そばなど定番メニューは昔からありました。その中で日持ちするものを厳選したり、冷凍食品を導入したり。昔の冷凍技術は発展していなかったせいもあり、あまり美味しくありませんでした。

最近になり冷凍技術が発展したおかげで、だいぶ味も改善されてきています。冷凍でもレトルトでも美味しい商品があったら導入してみたり、例えば調理をする上で部分的に冷凍食品を取り入れてみたり、作る側としても概念が変わってきています。山小屋の施設としても提供できるものが制限されるので、お客様に美味しい食事が提供できるのは嬉しいですね」。

基本的にスタッフ全員が、調理からホールまで担当できる体制になっている「黒百合ヒュッテ」。人数は、長期住み込みで3人、短期のアルバイト2人の計5人。料理が好きな女性スタッフが調理担当をする時もあれば、男性が作ってくれることもあります。

さまざまなスタッフがいながら、意外にも全員が山好きというわけではないそうです。

「山が好きな人はあちこち登るのが好きだから、山小屋では働きたくないと思います。どちらかといえば自然が好きだったり、接客が好きだったり、タイプはさまざまですね。出身も前職もバラバラ。スタッフは随時募集しているけど、年々減ってきていますね」。

スタッフへの調理や食事提供の研修は、基本的に先輩から後輩へレクチャー。

「どちらかと言えば「見て覚えろ」スタイルかなと(笑)。年齢も比較的近いので、分からないことがあると率先して聞いているスタッフが多いです。調理をする上でチームプレイが必要になってくるので、より連携の意識を高めてスタッフに働いてもらっています」。

黒百合ヒュッテは登山者とともにあり続ける

調理の手間を考えるとこれ以上メニューを増やせないのが現状かな……。そんなふうに米川さんは話すが、最近は新しいメニューへの意欲が沸々と湧き上がっているようです。

「雑誌や登山者の口コミで他の山小屋の食事情報を知ることが多いのですが、ちょっと気になったら私自身赴いて実食することも。実際に食べたり、工夫している競合相手を見ると「よしっ!うちも頑張ろう」と思いますね。いい刺激をもらっています」。

また、黒百合ヒュッテでは、フルートの演奏会やジャズのコンサート、南米音楽など、多岐にわたるジャンルで音楽イベントを定期的に開催。

「前のオーナーが「みんなが歌える歌で盛り上がろう!」とコンサートを始めたことがきっかけで、今では常連の音楽好きな登山客が集ってイベントを楽しんでくれています。コロナ禍なので、正直厳しい声もありますが、食事とは別に「団欒を楽しむ」ことを大切にしていきたいですね。今後も音楽イベントは続けていくつもりです」。

最後に、これから初めて訪れるへ登山者へ向けてメッセージを尋ねてみた。

「山の楽しみ方はお客さん、そして時代によっても変わるんだなと、長年山小屋オーナーを勤めていて感じています。楽しみ方はそれぞれですが、ケガには十分に気をつけて楽しんでいただきたいですね。その際は黒百合ヒュッテにも立ち寄ってくれたら嬉しいです」。

名物のビーフシチューをはじめ、さまざまな楽しみが用意されている黒百合ヒュッテ。北八ヶ岳へ行かれる際は是非訪れてみたい山小屋です。

黒百合ヒュッテ
住所:〒391-0013 長野県茅野市宮川8065-1
事務所Fax兼用TeL:0266-72-3613
小屋直通TeL: 090-2533-0620
http://www.kuroyurihyutte.com/

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