【忘れがたいあの道を、もう一度】 #26 山梨県・パノラマ台、手軽だけど大迫力!の富士見ハイク
とにかくド迫力の富士山が見たい!
という時、きっと誰にだってあるだろう。登山をする予定はなかったものの、朝起きて何気なくチェックした天気予報は終日快晴の予報。お昼ごはんでも持って、富士山の間近まで行こうかなあ。などとのんきな思いがどんどん膨らみ、いてもたってもいられなくなる時。
そんな時は、ぼくは真っ先に精進湖へ向かう。湖畔からパノラマ台をピストンする2時間の山行だから、必要なものだけ25Lのザックに詰め込んで出かけるのだ。
中央道はやや混雑するものの、12時までに湖畔の駐車場に到着できれば、山上で遅めの富士見ランチを楽しむことができる。のんびり過ごして16時か17時には下山完了といったところだろう。日の長い夏場ならもうちょっと長居して、夕陽で荘厳な赤富士を眺めてから下りてもよい。ヘッデンを点けて下山してくるのは楽しいし、道を知っている人と一緒ならなお安心だ。道は難しいこともなく、よく整備もされている。
新緑なら木々のパワーが漲っていて、いいエネルギーをもらえるだろう。明るい山道は、時おり木々の隙間に富士山を認めることもできる。真っ青な水を湛えているのは精進湖だ。富士五湖の中でも一番小さな湖だが、もともとは古剗の海(こせのうみ)という巨大な湖だったところ、度重なる富士山の噴火による溶岩流によって段階的に本栖湖、西湖と分断され、精進湖も生まれた。他手合浜の対岸に荒々しい溶岩の名残が見えるのは、そうした経緯によるものだろう。
春が到来し新緑の季節になると湖畔の木花は美しく咲き誇り、残雪の富士を鮮やかに彩っている。晩秋初冬は冷えた空気に浮き立つ大室山が富士に重なり神秘となる。まるでこどもを抱き抱えるようなその光景を「子抱き富士」と呼んで、早朝から写真家たちがカメラを構えるのが風物詩のひとつでもある。
パノラマ台は、そんな湖畔の登山口から根子峠を経て1時間ほどの登りの先にある展望地。とにかく正面にどーんと聳え立つ富士山には心を打たれること間違いない。眼下には青木ヶ原がどこまでも広がっていて、どこまでもプリミティブ。富士山が特別な存在であることを再認識させられる。
本栖湖の向こうにはダイヤモンド富士で知られる竜ヶ岳や毛無山を擁する天子山塊がのびゆき、精進湖の向こうには王岳や鬼ヶ岳といった名山が連なる御坂山地が大きい。これほどのパノラミックな眺めが楽しめる場所にしては手軽なコースで、初心者を連れて訪れるにもよく、ゆえにスタートの遅い軽めのハイクにも適しているというわけだ。
富士山の周辺には富士見ハイクが楽しい手軽な山がまだまだある。しかし手軽にド迫力の富士山が見たいと思うなら、ここを選んで間違いはないだろう。
そうそう、経験者には、信玄や家康も越えたと伝わる女坂峠から三方分山を経由してパノラマ台を目指すコースをオススメしたい。スタートとゴールが同じ駐車場という尾根周回だから、車でも計画しやすい。こちらはジェットコースターのように起伏が富んだ岩尾根が楽しくて、精進湖越しの子抱き富士は素晴らしい。手軽さよりも感動の大きさを求めるなら、きっと満足できるだろう。
電車の場合は河口湖駅より「鳴沢・精進湖・本栖湖周遊バス」で約40分。「子抱き富士ビューポイント」下車。
車の場合は中央自動車道富士吉田線・河口湖インターチェンジから国道139号線(富士パノラマライン)を経て県営精進湖駐車場へ。
低山トラベラーです。山旅は知的な大冒険!
物語の残る低山里山、ただならぬ気配を感じる山岳霊峰を歩き、日本のローカルの面白さを探究。文筆と写真と小話でその魅力を伝えている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、著書に『低山トラベル』『とっておき!低山トラベル』(二見書房)がある。自由大学「東京・日帰り登山ライフ」教授、.HYAKKEIオフィシャルパートナー。