• インタビュー
  • キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。

天空の食堂 | #2 オリジナルカレーを名物に。星博士の小屋番と楽しむ高見石小屋 /北八ヶ岳・高見石

「2年ほど前から売店で揚げパンしか出なくなっちゃったんです…それだけだと寂しいので、なんか違うものも出したいと思い始めました」

標高2,300m、美しい白駒池と豊かな苔の森を望む「高見石」。その横に建つ高見石小屋の山小屋ごはんのお話です。

高見石から白駒池を望む。雲海の向こうに浅間山と上州の連山が見える。

高見石から白駒池を望む。雲海の向こうに浅間山と上州の連山が見える。

1日100皿売れる看板メニュー

「もともと、朝食用のロールパンが余ってしまい、固くなってくると食べられないので、自分たちのおやつ用に揚げて食べたのが始まりなんです」

揚げパンの始まりについて、そう教えてくれたのは、高見石小屋の小屋番6年目で現在は管理人を務める木村託さん。

高見石小屋管理人の木村託さん

高見石小屋管理人の木村託さん

高見石小屋は、人気観光地の白駒池からわずか40分のハイキングで到着できる山小屋。そのため売店には、ハイカーのみならず、観光客の来店も多いそう。

そんな高見石小屋の名物といえば、「揚げパン」。
6年ほど前にあるテレビ番組で紹介されて以来、メディアの取材が相次ぎ、さらにSNSで拡散されブームに。当初はきなことココアの2種類だったものの、白駒池の苔ブームにあやかって苔をモチーフとした抹茶味、そして4年前からは木村さんが考案したチーズ味も加わり、現在は4種類の中から好きな味を2つ選んで注文してもらうスタイルです。

高見石小屋の揚げパン。手前右からきなこ、抹茶、ココア、チーズ

高見石小屋の揚げパン。手前右からきなこ、抹茶、ココア、チーズ

揚げたてのおいしさはもちろん、1皿(2個)400円という安さも手伝って、多い時では1日に100皿(200個)出ることもあるという揚げパン。

お客さんにとっては嬉しいその金額設定は、大量のロールパンを毎週のように歩荷する時間や注文の度に揚げる手間などを考えれば、課題もありました。

そして、毎日のように揚げパンを提供してきた木村さんの中に、ある想いが芽生えました。

自分が食べておいしいと思うものを。

「“高見石は揚げパンだけじゃなくこれもおいしいよ”と言ってもらえるようなものを出したいな、と思って、試行錯誤して、新メニューを出し始めました。」

食べることが大好きで、休みの日に他所の山小屋へ行った時には、メニューチェックを欠かさないという木村さん。3年ほど前からはオーナーが小屋運営をほぼ任せてくれるようになったことも、木村さんのやる気を後押ししたようです。

ウッドデッキに出された黒板には様々なメニューが。

ウッドデッキに出された黒板には様々なメニューが。

「ありがたいことに、僕がやりたいことを受け入れてくれるオーナーなので色々やれるようになった、っていう感じですね。今いる女性スタッフも料理が得意なので、協力的ですし。」

新メニュー考案のために試作をするのではなくて、もともと自分たちが賄いで食べておいしかったものを商品化するというのが木村流。

例えば、カレー。木村さん自身がスパイスからカレーを作ることにハマり、スープカレーにしたらおいしくて、”売れるかも”と思って売り出したところ予想が的中。

木村さんの好物のきのこカレー。具は玉ねぎと3種類のきのこだけ。

木村さんの好物のきのこカレー。具は玉ねぎと3種類のきのこだけ。

「スープカレーは好評でしたが、やっぱり大量に作るとなると大変なので、時にはルーを使ってキーマカレーにしたり、自分がきのこ好きなので、きのこをたっぷり入れたカレーを作ってみたり。お客さんの多い週末に向けて仕込んでいます」

さらに、今年の夏は、揚げパンと一緒に冷たい飲み物を楽しんでもらおうと、オリジナルジュース「八ヶ岳産いちごのソーダ」を販売しました。こちらも“山で飲む炭酸はおいしい”という木村さんの“好き”から生まれた一品です。

八ヶ岳マーコ農園の規格外いちごをシロップ漬けにして炭酸で割ったジュース。甘酸っぱさが魅力

八ヶ岳マーコ農園の規格外いちごをシロップ漬けにして炭酸で割ったジュース。甘酸っぱさが魅力

せっかく作るなら、八ヶ岳の果物を使ったものをと、桃やぶどう、ルバーブも試した結果、安価で継続的に仕入れができ、発色や味もよかったいちごを商品化することでオーナーも合意。650円という高価格にも関わらず、予想以上の売れ行きだったと、木村さんは嬉しそうに話してくれました。

夕食は旬野菜をたっぷり煮込んだシチュー

夕食は旬野菜をたっぷり煮込んだシチュー

星博士の山小屋で。

小屋暮らしを満喫している木村さんですが、高見石小屋に来たきっかけを尋ねると、少し意外な返事が返ってきました。

「もともと星が好きで、星がきれいに見えるところを探しているうちに、ここに来たという感じです」

高校生の頃から星に興味を持ち、プラネタリウムに足繁く通って星座を覚え、そのうちに星がきれいな場所を探して、山に登るようになったという木村さん。大学を中退し、違う環境で暮らしてみようと思い立って高見石小屋へ。そこは「星博士」と言われるオーナーの小屋。星好きなお客さんも多く、大きな望遠鏡で毎日のように星空観察会が行われているのも魅力でした。

食堂の壁は常連さんが撮影した写真のギャラリー

食堂の壁は常連さんが撮影した写真のギャラリー

オーナーの原田さんが紹介された1990年代のJRの中吊り広告

オーナーの原田さんが紹介された1990年代のJRの中吊り広告

長野県内でも、空気中の水蒸気が少なく、星空が美しく見えることで有名な八ヶ岳近郊。特に、森林限界を超えない位置に建つ高見石小屋は、森の木々が遠く街の光を遮ってくれることから、星空観察には最高のロケーションだといいます。

Vixenの屈折式フローライト望遠鏡(左)とお客さん手作りのドブソニアン式望遠鏡

Vixenの屈折式フローライト望遠鏡(左)とお客さん手作りのドブソニアン式望遠鏡

そして、メインで小屋番を務めるようになってからは、毎晩星空観察会の解説者も担っている木村さん。

「プラネタリウムを参考に、なるべくわかりやすく、僕なりに変えるところは変えて。僕よりも星好きで詳しい常連さんもいるので、色々教えてもらっています。」

本棚には星に関する資料もいっぱい

本棚には星に関する資料もいっぱい

客室は2階。晴れていれば天窓から星空を眺めながら。

客室は2階。晴れていれば天窓から星空を眺めながら。

***

おいしい料理と美しい星空と。自分自身の「好き」を追求し、山での暮らしを楽しむ木村さんが、高見石小屋のほのぼのとした雰囲気を生んでいるのだと感じました。

空気が澄み渡り、星が一層きれいに見える季節、料理好きな小屋番が腕を振るう温かな料理と満天の星空が愉しめる高見石小屋へ、出かけてみませんか?

高見石小屋から望む天の川(提供/加倉井厚夫)

高見石小屋から望む天の川(提供/加倉井厚夫)

(写真:and craft 臼井亮哉)

高見石小屋

<住所>
長野県南佐久郡小海町

<TEL>
090−4705-7051(小屋直通)

<ウェブサイト>
https://www.yatsu-akadake.com/takami-k.html

<宿泊概要>
参考価格:
1泊2食付き 8,500円
素泊まり 5,000円(冬季は暖房代として+500円)
※カード利用 不可
定員・収容人数:100人
テント設営数:10
営業期間:通年(11月〜4月不定休)

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