20 森の欠片 〜野川かさね エッセイ〜
苔の森を歩いていると
ところどころに雪が残っている。
すこしまえ、東京でもぐっと気温が下がった日があった。
このあたりの山では雪が降ったのかもしれない。
雪は溶けかかり、分断され、欠片のように
苔の上にちらばっていた。
欠片のふちは氷のように透きとおっていて
まわりの苔の緑を自分のなかにとり込んで、
ぼんやりと淡い緑色にひかっている。
今日は晴れの予報。
陽に照らされれば、
欠片はあとかたもなく消えてしまうだろう。
自分自身が森のなかにすいこまれていくことも知らずに、
雪の欠片はつかのまの輝きを見せる。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。