あの美しさが忘れられない栗駒山を、今年もまた歩く予定だった。紅葉の絶佳は国内屈指と名高いこの山は、歩きやすい宮城県側がメジャーなのだけれど、岩手県側の「須川コース」の方が個人的には好みだ。

しかし現在、火山ガスの濃度が高いため、自然観察路分岐の苔花台(たいかだい)から天狗平(てんぐだいら)の区間が立入禁止になっているので注意したい。この通行止めの道を、いつかまた歩けるようになる日が来たら、自分もまた歩きたいし、みなさんにも歩いてもらいたい……そんな応援の気持ちを込めて、今回は取り上げようと思う。

栗駒山の紅葉は、例年9月末から10月の前半あたりが見ごろとなる。それ以降も、冬支度を進める晩秋の薄れゆく色彩が味わい深い。宮城県側の「いわかがみ平」の登山口からスタートする中央コースが人気で、ぞくぞくと山頂に上がってくるハイカーの多くはこのコースから登ってくる。

須川コースのある岩手県側の「須川高原温泉」から登る場合は、現在、昭和湖を迂回する「産沼コース」をとれば山頂まで登ることが可能だ。岩手県のHP「栗駒山須川コースの一部立入禁止のお知らせ」に最新の情報が出ているので、訪れるなら必ずチェックしておきたい。
https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/shizen/shizen/oshirase/1019888.html

忘れられないほど美しい“あの道”こと須川コースでは、山肌からガスが噴出する様子をあちこちに見かける。この山がまさしく火山であることを再認識させられる、いささか緊張を強いられる道のりが続くのだ。現在は通行できないけれど、いつか解除されたら、火山とは対照的な神の造形たる紅葉美を堪能することができる。

岩手県側は黄色と赤色が濃く“神の絨毯”とも形容され、その美しい紅葉をえぐるように剥き出した岩の裂け目は白く、強い色彩の中に映える。錦秋の大地に真っ白な傷口のような、荒々しさよりも生々しさを感じさせる自然美だ。

途中、振り返ると、岩手県を走る奥羽山脈の山々が北によく見える。あの山の向こうには、八幡平から三ツ石山をつなぐ「裏岩手縦走路」がある。栗駒山とともに“本州で最も早い紅葉”を楽しむことができる山域として知られている。もちろん向こうも絶景中の絶景だ。

夜明けから登り始めれば、早朝の若い陽射しが錦秋を照らすトレイルを、気持ちよく歩くことができるだろう。澄んだ青空に映える絵具のキャンバスのような山肌に、ひと筋の道がずっと続いている。これがたまことのほか美しい。

一方で、宮城県側はグリーンとオレンジが強い。山肌は滑かで細やかな織物、まさしく敷物がどこまでも広がっているようだ。これが“神の絨毯”と呼ばれる理由なのだろうか、岩手県側の紅葉とはまた異なった色彩に見惚れてしまうのだった。

ぼくにとっては故郷の名山でもあり、高校生のときに登って以来、たびたび訪れた山でもある。近くには、これまた紅葉の名所「鳴子峡」があり、鳴子温泉をはじめとした名湯がビッシリとひしめき合っている。登山をせずとも観光だけをメインにのんびりしたくなる、贅沢な遊び場の広がるフィールドだ。

岩手側と宮城側の紅葉、それぞれ特徴のあるふたつの“神の絨毯”をいっぺんに味わえる最高の山、栗駒山。実は歩く予定だった週末は台風19号の上陸が予想されていた日で、大事を取って中止となったのだった。大雨の猛威が河川や山岳を蹂躙し、主に東日本各地の山域で被害を出している。これから降る雨も再び土壌に染み込んで、いつ落ち着くのか知れないという難しい状況だ。無理な登山は控えたいところではある。

とはいえ、安全が確認された山には、また遊ばせてもらいに訪れたい。自然の猛威とともにある山域の地域経済に貢献し、賑わいを取り戻す一助になれれば――そんなことも思って、東北の山から栗駒山を選んだ。復活を願い応援の意を込めて、今夜も“あの道”に思いを馳せている。


<アクセス>
東北新幹線「くりこま高原駅」から車利用、約1時間。東北自動車道「若柳金成インターチェンジ」または「築館インターチェンジ」からおよそ1時間。期間限定の運行バスは要確認。
大内 征

低山トラベラーです。山旅は知的な大冒険!

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大内 征

物語の残る低山里山、ただならぬ気配を感じる山岳霊峰を歩き、日本のローカルの面白さを探究。文筆と写真と小話でその魅力を伝えている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、著書に『低山トラベル』『とっておき!低山トラベル』(二見書房)がある。自由大学「東京・日帰り登山ライフ」教授、.HYAKKEIオフィシャルパートナー。

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