御岳渓谷遊歩道:いろんな外遊びが見られるさんぽ道|チルトレイルGUIDE|#2
外で裸足になったのは、 いつ以来だろう。
それだけじゃない。外を一日中歩いたり、水遊びをしたり、初めて会う人たちと心から笑ったり。そんなこと、大人になってからはめったになかった。
木々のみどり、陽射しのまぶしさ、水の流れる音。それらがいちいち美しくて、ちょっと笑ってしまうくらいに楽しい。
ふと、「大人なのに、こんなにはしゃいでいいのかな」と思う。
そして気づいた。私はふだん、「大人」をやりすぎているのかもしれない。無意識のうちに、肩に力を入れて。
だけど、大人だってはしゃいでいい。もっとゆるんでいい。
大人たちにこそ、チルトレイルが必要だ。
もくじ
カヤック、ボルダリング、釣り、散歩……自分なりの楽しみ方を見つけよう
御岳渓谷は、東京都青梅市の御岳山の近く。日本名水百選に指定されている渓谷だ。
川沿いには遊歩道が長く続き、カヌーやボルダリング、釣りなど、さまざまなアクティビティを楽しめる。
今回は、比較的整備された遊歩道をのんびりとお散歩することにした。
最寄りはJR御嶽駅。都心からは1時間半ほど。
駅から道路を挟んですぐのところに、御岳渓谷の入口がある。想像以上にアクセスが良くて驚いた。
階段を下りるとすぐ森の中。陽射しが木々に遮られ、肌に触れる空気が少しだけひんやりしている。水の音にかき消され、車の走行音も届かない。
急に外界から隔てられたように感じる。東京の、それも駅のそばとは思えない。
カヤックを漕いでいる人がいた。みんなで立ち止まって眺める。
水の流れが激しく、バランスを保つのが難しそう。もっとのんびりしたものだと思っていた。
遮るもののない橋の上では、降りそそぐ陽射しがまぶしい。ぼんやりと川や木々を眺めてるだけで、とても満ち足りた気分になる。
「水の流れって、ずっと見ていられますよね」
私がそう言うと、皆さん頷いてくれた。
ちなみに、この日の参加者はみんな、お互いにほとんど初対面。けれど、歩きはじめてわずか数分でぎこちなさがなくなっていた。
「あの鳥可愛い!」「この実ってなんだろう?」と、それぞれが見つけたものを口に出すうちに、いつの間にか話がはずんでいたのだ。
「この葉っぱ、何か知ってる?」
参加者のひとり、陽子さんが言う。
正解はマタタビだそう。猫がごろにゃんと酔っ払ってしまうことで有名な、あのマタタビだ。実物は初めて見た。
とても可愛い声で鳴く鳥の名前がキセキレイであることも、陽子さんが教えてくれた。
サワガニを探したけど、残念ながら見つけられなかった。夏になると出てくるそう。
沢の水は、蛇口から出てくる水道水とは“手触り”が違うような気がした。
大きな岩でボルダリングをしている人がいた。
話しかけて、見学させてもらう。見ているだけで、掌に汗がにじんだ。
川を眺めながら休憩。陽射しが川に反射し、きらきらと輝いている。それぞれに持ってきた軽食を食べたら、まるでピクニックみたい。
地元の方なのか、レジャーシートを敷いてひとりでのんびりとお弁当を食べているおじいさんがいた。
いいなぁ、私も近所だったら、仕事の合間にふらっとお昼を食べに来るのに。
肌に太陽の温かさを感じる川沿いから一転、林の中は涼しい。景色にバリエーションがあるのも、このルートの魅力だ。
木々が音を吸収しているかのように静かで、緑のしっとりした匂いがする。この空気を肺いっぱいに吸いたくなり、思わず深呼吸をした。
林を抜けると、釣りスポットに出る。たくさんの釣り人がいた。ヤマメやニジマスが釣れるみたい。
岩に座って、ぼんやりと釣り人たちを眺めた。
こうしていると、仕事のこともプライベートのモヤモヤも、すべて頭から抜け落ちてしまう。歩きはじめるまで頭の中を占めていた悩みごとも、そういえばここ数時間は忘れていた。
木苺を見つけた。食べてみると、少し酸っぱい。子供の頃に食べた桑の実を思い出す。
遅めのお昼ご飯は澤乃井園で。
テラスで渓流を眺めながら食事ができる。お蕎麦やおでん、湯葉にお豆腐。お水が美味しいからか、どれも美味しい。
澤乃井園の奥にある階段を降りると、川に出る。
靴を脱ぎ、川に入ってみた。水の冷たさも、石が足の裏にあたる感触も、どこか懐かしい。
水が冷たいというだけでなんだかおかしくて、「冷たい!」と言いながら笑った。みんなも、水をかけあったりして遊んでいる。
ウクレレに合わせて歌った。なんだか子供の頃に戻ったみたい。
ゆっくりと流れるこの時間が、ずっと続けばいいのに。
大人にもこういう時間が必要だ。いや、「大人にこそ」必要なんだと思った。
チルトレイルGUIDE | #2 御岳渓谷遊歩道
オススメ立ち寄りスポット 清流ガーデン澤乃井園
きき酒処では、澤乃井の日本酒が買える。少し大きめのおちょこ1杯で200~500円なので、数種類を飲み比べることも。おちょこは持ち帰りOK。
営業時間 : 10時〜17時 (軽食11時〜16時)
定休日 : 月曜日(祝日の場合は火曜日)
場所 : 東京都青梅市沢井2-770
電話 : 0428-78-8210
webサイト : http://www.sawanoi-sake.com/
もっと楽しむために。
※気が向いたらすぐに水に入りやすいよう、アウトドア用の歩きやすいサンダルがおすすめ。けれど、舗装されていない道もあるので、初心者は歩きやすいハイキング用の靴を履いてこよう。
※今回の取材は晴れたけど、念のためにレインウェアを持っていくこと。
アクセス
◯車:中央自動車道八王子ICを降り、国道411号経由で45分。駐車場は御岳交流センターにありますが小さく休日はすぐに埋まるので公共交通機関利用がオススメ。
◯公共交通機関:JR青梅線 御岳駅より徒歩3分
(写真:藤原慶)
北アルプスの山小屋で10年間働いていたライター。都内在住の30代。疲れない登山が好き。
北アルプスの山小屋で10年間働いたのち、2018年からライターに。著書に『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』がある。疲れない登山が好き。普段はあまり家から出ない。