11 雨の日 〜野川かさね エッセイ〜
雨の日に山を歩くことは
すこしだけ私を憂鬱にさせる。
まとわりつくような湿気は不快だし、
足元にも気をはらわなくてはならない。
カメラを雨からかばいながら歩くのもわずらしい。
そんな風に言い出したら、
憂鬱の理由はきりがないような気がする。
それでも私は雨のなか、山を歩く。
霧ががった森や山の稜線。
すべての輪郭が滲み、色がまじわる。
土や樹木の香りが濃密に漂っている。
息を吸うと、まわりの風景が
空気と一緒に体の中に入りこんでくる。
その途端、
自分と森との境目がなくなった。
雨の日、私は山の一部になるのだ。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。