東京・御岳、中古アウトドアギア専門店を立ち上げた店長が語る「ギア愛」:maunga
中古のアウトドアギアを扱うショップとして、2012年にオープンした東京・御岳の「maunga」。JR青梅線・御岳駅から徒歩1分、ボルダリングやカヌー、登山などアウトドアの前後で立ち寄る客が多い。
オープン当時はメルカリもまだなく、アウトドアギアを中古で売買するというスタイルは、ユーザーには画期的に映ったものだ。
「登山用品の中古を専門で扱うなんて、こいつら何言い出すんだよっていう雰囲気(笑)。せいぜい、ヤフオクでビンテージの高価なギアを売買するとか、リサイクルショップの一角にほんの少し置いてあるとか。当初は『ずいぶん珍しいことを始めるね』という目で周囲から見られてました」
こう話すのは創業チームの中心人物、遠藤浩史(ひろふみ)さん。このビジネスのキッカケは、もともと仲間内で行っていた物々交換にあったとか。使わなくなったギアをそれぞれが持ち寄り、欲しいものを交換し合うという習慣が、maungaのオープンにつながっていった。
自然を愛する者として、セカンドハンドの有効性も伝えたい。
中古のお店をはじめたのは、友人同士の習慣だけが理由ではない。多くのギアを使用するアウトドアでの遊びにおいて、無駄をできるだけ減らしたい、という思いが遠藤さんを突き動かしているという。
「アウトドアで遊ぶためには多くのギアが必要。その半面、いろいろな理由で所有しているギアを使わなくなることも多い。せっかく入手したギアを使わずに放置するのは資源の無駄。だから使わないのであれば、ほしい人の手に渡るような仕組みをつくりたいと考えたわけです」
たとえばジャケット・テントの裏面に防水のためによく使われるポリウレタンコーティング。このコーティングは購入した時から劣化が始まってしまうもの。放置しておくとベトベトに劣化してしまい、本来の強度や防水性を著しく損ねる。正しいメンテナンスをすればまだ使えるのに、もう使えないと捨ててしまう人も多いそうだ。
「よく考えれば、すべてのギアは貴重な自然の資源を使って作られています。僕らがメンテナンスし、再度、使える状態にして、中古売買などでできるだけ有効活用することは資源のロスを減らすことにもなっていく。資源の無駄を減らすことは、大自然を守ることに繋がると信じています。
素晴らしいフィールドがあってこそ、アウトドアでの遊びを僕らは楽しめるんだってことを多くの人に再認識してほしいですよね」
山好き&ギア好きだからこそ、自分で『お買い上げ』も。
高山から低山、沢登りからラフティング、海に行けば波乗りにも勤しむという遠藤さん。総合的アウトドアフリークであると同時に、もちろんギアマニアでもある。長年、愛用しているmacpacのバックパックに触れながら、自身のギアへの偏愛ぶりについてこう説明してくれた。
「これはもう7,8年使ってますけどまだまだ全然いける。一本づつワックスをかけたコットンの糸とポリエステルを編み込んだアズテックという素材なんです。
劣化もしにくいし、とにかくタフ。だからたとえば、ヤブとか岩場とかバックパックが擦れそうな場所へ行く時はこれを持っていく。
高い山へ、長く歩くような時は別の軽いバックパックを選ぶ。
僕はこうやって、どこかへ遊びに行く前日に、どんなギアを持っていくかを考える時間がメチャクチャ、大好きなんです。雪がありそうだからどうしようとか、サクサク歩きたいからこれだなとか。天候や環境、状況にあったギアであればあるほど、自然のなかでの遊びは充実度が増す。だからギア選びには熱が入るし、経験を積めば積むほど適切なギアを選べるようになっていきます。遊びに行く前日の夜、酒飲みながら明日はこれで決まりだ、なんて一人で言ってる(笑)。これが超、楽しいんです。」
そんな話をしながら、今度は店の奥から商品のガソリンストーブを持ち出してきた遠藤さん。愛おしそうにそのストーブをなでながら、ギア好きだからこそ感じる日々のジレンマについてこう語りだした。
「ガソリンストーブっていまやマイナーですけどメカっぽくておもちゃっぽくて、僕は好きなんです。ガスより火力が強く、安定してますしね。だけど、火がつかなくなってるものも持ち込まれてくるのでそういう場合はしっかりメンテナンスする。それで、ようやく火が付くようになると、いよいよ販売するために店内に置く。それを見たお客さんが買っていく。その時の感情が、ちょっと複雑だったりもするんです。売れてくれて嬉しい、でもちょっとさびしい(笑)。
あれだけ手をかけたのにとか、すごく良い商品だから自分も欲しいとか(笑)」
そんな葛藤を経て、時には商品を自分で購入してしまうことも。欲望にまかせていては欲しいものだらけになってしまい、ビジネスにならない。それゆえ目一杯の自制心で物欲をコントロールし、それでも我慢できないものは自身で「お買い上げ」ということにしているそうだ。
最近購入したのは、沢やアルパインで使用する短いバイル。頭のなかにイメージしていたフォルムのバイルが突然、目の前に現れたのだという。
「ちょっと見るとなんの変哲もないバイル。だけどヘッドの部分がちょっと短めで、引っ掛けた時のバランスも絶妙。ありそうでなかった、まさにイメージ通りのバイルが入荷して、まさにこれじゃんと(笑)。お客さんが買い取ってほしいと持ってきた直後に、いろいろ試して使ってみて、やばい、俺の私物だ、ということで自分が購入してしまいました。だけど、自制してるので3ヶ月に一度くらいですよ、こうやってどうしても我慢できずに買ってしまうのは。そうじゃないと、店に置くものがなくなっちゃう」
極上の肌触りが魅力のシュラフシーツ。オーストラリアに住んでいたこともある遠藤さん。オーストラリアのマニアックなこのブランド名を発見し、物欲が呼応した。シーツと袋が繋がっているので袋がなくならない。こういったメーカーの小さな心遣いにギア好きは惚れるのだ。
自分にどれだけフィットするか。それがギア選びの楽しみ
どこまでも、ギアへの愛情を隠さない遠藤さん。
ギア選びの極意について聞いたところ、こんな答えが返ってきた。
「ブランドで選ぶっていうのももちろんアリだし自由。だけど僕は何でも試す派。使ってみていいのかどうかがすべて。逆に考えると、誰かがダメだと言っても自分には最高だっていう場合もある。重いけどタフとか、軽いけどヤワだとか、メリットとデメリットがそれぞれのギアにはあってそれを見極めて、自分にとってどれだけフィットするのかを考えるのがギア選びの楽しい部分なんです。だからあんまり先入観を持たない方がいいのかな。いろいろなギアを幅広く使って、自分なりの感覚を積み重ねていくっていうのも楽しいギア選びにつながっていきますよね」
フィールドでの活動をより快適にしてくれるギアの存在。そんなギアを有効に活用しつつ、資源の無駄遣いには加担したくない。だから、山道具の二次利用を強く意識したい。いつまでも野山で遊び続けるために。ひとりひとりがやるべきことはまだまだあるのだ。
東京都青梅市御岳本町359
TEL:0428-74-9235
e-mail : info@maunga.jp
営業時間:9:00~19:00(平日)/8:00~19:00(土日祝日)
定休日:無休(休業のお知らせはHPに掲載)
一日30点前後は新商品が登場するというマウンガのウェブサイト。
中古の一点ものは、迷ったら即買いが基本かも。
https://www.maunga.jp
編集と文章と写真。
宇都宮浩、曽田夕紀子による編集チーム。企画立案から編集、ライティング、撮影までを行う。奥多摩と御茶ノ水に拠点を持ち、TOKYOハイブリッドライフを体感しながら、本づくりを実践。奥多摩ローカル紙『BLUE+GREEN JOURNAL 』は、年2回、春と秋に発行。