05 夜明けの月 〜野川かさね エッセイ〜
夜明け少し前に目が覚める。
山小屋の人が朝食の準備をしている音が聞こえた。
布団のわきに置いたメガネに手をのばし、
時間を確認すると、勢いよく体を起こす。
朝、どんなにまわりが暗くても分かるように
カメラはいつも寝る前に
手袋と一緒に枕元に置いておく。
フィルムも前の晩に新しいものに交換しておいた。
さっと身支度をすませると、
登山靴に履き替えて外へ出る。
気温はマイナス。
でも、不思議と寒さを感じない。
まだ体に布団の温もりが残っていた。
吐いた息が白くなるのを確かめながら
何度か深呼吸をしていると
空の色が少しづつ黒から濃い青色に変化してきた。
そして、どんどんと青色は薄められていき、
とうとう夜明けが来た。
真上を見上げると、月がまだ残っていて、
それを今日のはじまりの一枚として
写真におさめた。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。