• キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。
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山小屋で鍛えた包容力で、全ての人を優しく自然とつなげる/富士見高原案内人・藤田然さん

「川沿いにハンモック張って昼寝しています。」

“取材場所に向かいます”とメッセージを送ったら藤田さんからの返信がこれ。すぐに藤田さんが好きになってしまいました。

今回、お話を聞くのは藤田然(ぜん)さん。幼少の頃から当たり前のように山に登ってきた経験。人と自然のパイプ役になるという強い意志。

その経験と意志を原動力に、障害のある方と自然を楽しむ「アダプテッドツーリズム」の実践者、南八ヶ岳山麓の新たな自然体験の発見/紹介、立場川キャンプ場の管理と多方面で活躍されています。

お話をうかがったのは立場川キャンプ場。ここは、藤田さん主催のスローキャンプが行われる場所です。せせらぎに包まれながら、藤田さんの魅力に迫りました。

自由というか、いい加減というか、でも、そこが大事。

藤田さんの張ったハンモックにお邪魔しました。
藤田さんの張ったハンモックにお邪魔しました。

――ここは本当に気持ちいいですね。やはり、この立場川キャンプ場でスローキャンプをやるのは何かこだわりがあるんですか?

「見てわかるとおり、キャンプ場が綺麗じゃないですよね。だからいいと思うんですよ。だいたい都市近郊のキャンプ場ってテントサイトの区画が決められているじゃないですか。となりのサイトまでもう2メートルぐらいしか離れていない。それだと面白くないよね。」

お話をうかがった藤田然さん
お話をうかがった藤田然さん

――ここだとテントを張る場所を決めるところから、自然との遊びがはじまりますね。

「林の奥のあまり人が入ってこないところに張りたい人。そういう人がテント張れる場所もありますしね。何がいいって、何もない。そこがいい。多少、こういう奥まった所だったら夜まで騒いでも怒られないし、川の音で声も消されますしね。いくらでもハンモック張れるし。」

――自由ですね。

「自由だったり、いい加減だったり、そういうことが大事だと思うんです。こういうキャンプ場は貴重になってきています。」

立場川キャンプ場は直火OKのキャンプ場。焚き火台を使わずに地面で直接焚火ができます。常連のお客さんは焚火の場所が決まっていて、火が燃え広がらないように自発的に焚火周りの草刈りもしてくれるそうです。

キャンプって、何すればいいの?って人にこそ来てほしい。

藤田さん曰く、スローキャンプとは、”敢えて一生懸命なにかをせず、ただただのんびりした時間を楽しむキャンプ”のこと。

――こういう人にこそスローキャンプに来てほしいってありますか?

「キャンプって敷居が高いって思っている人がまだまだ多いんですよね。キャンプって何すればいいの?みたいな。そういう人がただとりあえず来て、あぁ、こんなダラダラやってもいいんだ。みたいに感じてもらいたいですね。」

――ガチガチに準備しなくても大丈夫ですよと。

「新しく準備する道具もいらない。少しやってみて、やっぱりちゃんとした道具が欲しい、自分でやってみたいと思ったら、そこから準備すればいいんですよ。」

――1度、力を抜いて来てみれば?という感じでしょうか。

「キャンプ=バーベキューだと思っている人達も結構いますが、森の中に行って、何したいの?って聞いてみると、新しいことにチャレンジしたいって方向と、ゆったりまったりして元気になりたいって方向の2つに分かれることが多いようです。なので、僕達はその両方のニーズに応えられるように準備します。」

準備は10するけど、出すのは2ぐらい。

「新しいことへの挑戦、例えば、焚き火台やテント、ダッチオーブンなどを一揃い準備はしておきますが、準備したものを10だとすると、実際に提供するサービスは、2とか3の割合になることが多いです。」

――大人の対応ですね。

「最初の方でゆったりまったり十分楽しそうであれば、もう次は紹介しない。ちょっと物足りないな。なんか挑戦したいなってことになれば、準備していたものを使って、その先のことをやってみようかと提案する。そういうやり方がいいんじゃないかなって思っています。」

――主催する側もアドリブ力が求められますね。

「最低限の守らなければいけないこと。安全確保、環境への負荷とか、そこは決めておく。でも、それ以外の部分についてはどこまでも自由でいい。その場、その場であわせていく。それが観光とか余暇を楽しんでもらうためのコーディネーターやガイドの仕事になってくるんじゃないかと思っています。それはネット上の知識とか機械ではできないので。」

山小屋で4年間働いて、染み付いた融通力・包容力

小学校から家族と当たり前のように山に登っていたという藤田さん。高校・大学もワンダーフォーゲル部に入部。グループでの登山を繰り返すことで、自然に入るために最低限準備しなければいけないことを学びました。その後も、大学でアルバイトしていた山小屋で働き続けます。

「最初の4年間はずっとそこで、年間100日ぐらい山に入っていたんです。そこは、とってもいい加減な山小屋で、最初の1週間ぐらいでオーナーが「じゃ、任せた!」って、帰っちゃって、私ひとりになっちゃったんです。」

藤田さんがひとりで任されたのは、岩と雪の殿堂・剱岳の麓にあるクライマーが集まる山小屋。周りには源次郎尾根、八ツ峰、北方稜線、チンネ、六峰。危険な場所がたくさんあります。

「そこで20代そこそこの兄ちゃんが50~60才のおじさんに対して、あなたマズイから引き返してくださいみたいなことを言わないといけない。言わないと、その人が滑落したり、道に迷ったりするかもしれない。そうした時に、プライドを傷つけずに、どう引き返してもらうか、その人でも行ける場所に誘導できるかということを考えて、実行していたので、山での対応は相当、鍛えられましたね。」

――それは融通力・包容力が鍛えられそうですね。藤田さんの原点を作ったと言っても過言ではなさそうです。

「そうでしょうね。原点の一つと言っても間違いないと思いますね。」

都会と田舎の家族がつながれば、それぞれの地域の良さに気づく。

藤田さんが案内人を務めるスローキャンプは、長野県富士見町・原村を中心としたエリアの自然と暮らしがSo-net(ソネット)の「いきつけの田舎touch」で体験できます。「いきつけの田舎touch」では、野菜収穫体験、ナイトサファリ、富士見町特産の赤いルバーブを使ったジャムづくりなどの体験が目白押し。なぜ、そのなかで藤田さんはスローキャンプを始めたのでしょうか?

「移住してきた人間にとって子供たちの教育上の課題が一つあります。それは、地方だと子供が他人と出会う機会が限定されるということ。保育園、小学校、中学校までずっと同じ顔ぶれ。クラス替えもありません。」

――なるほど。子供たち同士の出会いのために始めたんですね。

「地方の子供たちも都会の子供たちと遊ぶことによって自分の地域の良さをまた再発見することもあると思うんです。もともと子供たちにとってみたら、こういう山がある状態で生活しているから、それが特別いいとは思わない。でも、都会から来た家族がこれいいね、なんて言ってくれたら嬉しいですよね。」

――ちゃんと自分の地域に誇りを持てるようになりますね。

「えぇ、なるかもしれないし。自分達のやっている遊びが実はとてもおもしろいことに気づくかもしれない。」

(提供写真)
(提供写真)

――やはり、都会の子供たちはこういうところに来るとだいぶ様子が変わりますか?

「変わりますね。最初のうちは適応できないというか、どうすればいいんだっていう様子なんですが、放っておくうちになんとなく自分のやりたいことを見つけてくる。石投げてみたり、枝拾ってみたり。なんか投げてみたり。」

――なにか、自分で遊びを生み出していく。

「そうですね。じゃあ、焚き火するから枝集めてきてって言ったら喜んで集めてくるし。
みんな一緒になって、都会からの家族と一緒に遊ぶ。それで今度はその逆パターンができるかもしれない。じゃあ、横浜行くから案内してよって。そうなったらもう、理想ですよね。」

――血のつながりはないけど親戚みたいな関係になりますよね。

「願いとしては一方的に地方側が都会の人を迎えるのではなく、一緒に楽しい時間を作っていくカタチができるかどうか。いわゆるおもてなしではないとは思ってます。まだまだ試行錯誤の途中ですけれど。」

(提供写真)
(提供写真)

「私もここに来て、やはり地域の良さ、森の良さ、山の良さがあると気づきました。でも、なかなか使えていないのが現状です。それは情報発信が下手とかそういうことじゃなくて、使いたい人にそのチャンスを提供できていないからだと思うんですね。そこがうまくマッチングできれば、また来たいと思える場所になっていくはずです。そして、そこにプラス『人』ですよね。あの家族に会いに行こうって来てくれるようになっていくといいなと。」

――それがまさに、「いきつけの田舎」ということでしょうか。

「そう、そのコンセプトにも近くなっていく。私も横浜出身で田舎はなかった。だから田舎に遊びに行くことはなくて、親と一緒に西湖とか千葉のキャンプ場とかに夏休みに遊びに行くっていう感じでしたから。そういう家族は、これからもっと増えているだろうなと思うんです。そうした時に、同じ世代の家族の知り合いがあれば、休みの日に行ってみようとなるのではないかと。子供たちがこういう環境が面白いねっていうことになっていくのがとても大事だと思っているので、そんな取り組みを続けていけたらと思います。」

――なぜ子供たちがそう思うことが大事なのでしょう?

「こういうところで楽しめるようになることで、先程の融通力とか包容力がつく。やはり、自然の中というのは、決めた通りにいかないケースが多いので。それに対する対応力とか、前向きに考え直す力とか、そういったものは教室の中では勉強できないと思いますから。」

「おおらか」。藤田さんの第一印象です。

お話すればするほど、その「おおらかさ」は大きく感じられていきました。でも「いいかげん」な訳ではなくて、「良い加減」で1人1人のことをきちんと受け止めて、なにもひけらかすことなく、自然とその人達のニーズを満たしていく。

長い山小屋生活で、いかんともしがたい自然の脅威に振り回されてきた人間の命のドラマをしっかりと見つめ続けてきたからこそ、その包容力と融通力とやさしさは身につけられたのでしょう。

電車が3分遅れただけでイライラしてきたら、とりあえず、藤田さんに会いに行くことをお薦めします。立場川のせせらぎを聞きながら、ゆったりまったり過ごしましょう。

(写真:藤原慶


■「さわる ふれあう 感動する」 いきつけの田舎 touch
体験一覧:
https://www.so-net.ne.jp/touch/feature/

■「ネットにつながる、世界が広がる」ソニーのネット ソネット
https://www.so-net.ne.jp/access/special/sony_so-net/

■「“つながる”から未来を創る」 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
https://www.sonynetwork.co.jp/

■立場川キャンプ場
http://www.town.fujimi.lg.jp/kanko/data/pl11.html

■富士見高原リゾート
http://fujimikogen-resort.jp/

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