• キャンプや登山に関わる人々へのインタビュー記事一覧です。自然に魅せられたアウトドアフリーカー、自然と共に生きるアスリート、熱い信念を持つオーナー等、その想いやヒストリー、展望など、写真と共に丁寧にお伝えします。今後の人生の選択肢のひとつとなるヒントが、見つかるかもしれません。
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自然は全てがつながり、そこに存在する理由が必ずある。/葉っぱ先生・田中智さん

「一本一本の木には、なぜこの斜面のこの森の中に生えているのか、必ず理由があるんです。」

そう教えてくれたのは田中智(さとし)さん。小さな頃から自然が大好きで、今では南八ヶ岳の山麓で在野の植物学者として活躍しています。

田中さんの自然の世界、自然との生活はどう深められていったのか。お話をうかがいました。

田舎が楽しくて、帰りたくなくて、涙が出た。

「生まれは神奈川県横浜市。その頃は横浜にもオオムラサキがいましてね。学校の行き帰りにはクワガタムシを取りに行きました。わたしが住んでいたところは横浜市でもまだ自然が残っているところだったんです。」

子供の頃は、よく夏休みに長野県小諸市のお祖父様のところに預けられた田中さん。夏休みも終わり頃になると涙が出てしまうほど、田舎や自然が大好きだったそうです。

「田舎に行って、まず星が好きになりましてね。天文ガイドという雑誌を読み出したんですけど、その中に読者の投稿写真ってコーナーがあって、自分でも写真を撮ってみたいと思うようになったんです。それに載ることが、その頃の天文ファンの夢だったんですよ。」

「中学生の頃、撮影機材は何も持ってなくて。兄が買ったNikonの一眼レフを借りました。それを持って山に入り、最初に流星群を撮影したのが載ったんです。その投稿写真のコーナーに。」

――小さい頃にそんな経験をしたら、熱も加速しますね。

「その頃若い世代で申し込んでくる人もいなくて、おそらく応援の意味で載ったと思うんですけどね。それで野辺山天文台の近くに通うようになりました。高校からは夏休みに友だちみんなで写真を撮ってね。そのうちには中央アルプスの千畳敷っていうところにテントを張って。そこで高校の頃は二回ほど星空を撮りに行ったんですよ。」

ゲンゴロウを探し求めて、自分を見つめ直す旅に出た。

高校を卒業した田中さん。時代はバブル。まわりに流されるまま、横浜で会社員になりました。しかし、やはり自然の中での生活が忘れられず、まったく仕事に身が入りません。

「それでね、ゲンゴロウを探しに旅に出たんです。」

その頃、横浜近郊で見られるゲンゴロウは小さなものでした。お祭りの屋台で見かけた絶滅危惧種のゲンゴロウ。田中さんはそのあまりの大きさに衝撃を受けます。それほどのゲンゴロウが棲息できるところにはきっと素晴らしい自然が残されているに違いない。その自然を見に行こう!仕事を辞めて田中さんはゲンゴロウ探しの旅に出ます。

「滋賀の甲賀の里に大きなゲンゴロウがいると聞いて行きました。小さなバイクで。でもね。いなかった。」

――悲しいですね。素晴らしい自然も残ってなかったってことですからね。

「帰ってきてから道志村のクレソン畑にゲンゴロウがいるって聞いて、またそこに行ってみました。そしたら、そのクレソン畑の方も脱サラした人が運営されていたんです。君、いま何もやってないんだったらウチで働かない?となって、そこでしばらく働かせてもらったんです。」

「そこでもいろいろあって。でも、今さら都会の横浜に帰りたいとは思えなくて、どうやったら自然の近くで生きられるのかなって思っていたら、ここの八ヶ岳の別荘地で別荘の管理で住み込みで働ける口があったんです。そこで住み込みながら山に入って植物の研究をしはじめました。でも、わたしは、たくさんの人が研究しているものにはちょっと興味がわかないみたいで、植物の中でも「花」の研究は違うかなと思い始めて。」

――高山植物、山に行くと詳しい方たくさんいらっしゃいますもんね。

「そうなの。だから樹木に行ったんです。お花もスミレに特化して。今だと樹木とお花の自分なりに集めた標本が1000種ぐらいあります。」

「そこでヤツガタケトウヒの調査も手伝いましてね。南八ヶ岳の西岳あたりとか、天女山の方に見つけました。そこから少しずつ植物研究会とか、森林総合研究所で学者さんのお手伝いをするようになって、学校の林間学校の自然ガイドもやるようになりました。」

葉っぱを通して、まだ知らない自然を見つけてほしい。

そんな田中さんが自然体験を案内しているのが、「いきつけの田舎touch」。インターネット接続サービスのSo-net(ソネット)が、長野県富士見町・原村を始めとした自然豊かな地域の人々と交流しながら作り上げた、本物の自然やその土地の暮らしが体験できるサービスです。

その中でも好評な体験の一つが「八ヶ岳の樹木でオリジナル葉っぱ図鑑作り体験」。田中さんが案内人を務めています。

――「八ヶ岳の樹木でオリジナル葉っぱ図鑑作り体験」とはどのような内容なのでしょうか。

「午前中は八ヶ岳自然文化園の中を歩きまして、色々な木を参加者の皆さんと一緒に観察します。その中で気になった葉っぱを参加者さんは集めていきます。午後は、文化園の作業室に入りましてね。集めた葉っぱの標本でいよいよ自分だけの図鑑作りです。」

「これは僕の図鑑でしてね。これの簡単なものを参加者と1日で作るんです。葉っぱって木を見分ける時の顔なんですよ。樹皮だけ見てもわかりにくいのですが、葉っぱを見ると分かりやすい。その葉っぱの特徴を書いた絵を添えてもらったりもします。大人がやるとこれまた面白そうにやっていますよね。お絵かきなんか大人は滅多にしないですしね。自分だけの“生きた図鑑”ができていくんです。」

「参加したお子さんは学校で褒められることが増えたそうです。自分の足と手で集めたものを、標本にして、しっかりと観察してまとめる。そういう経験がとても貴重。観察する時の視座をアドバイスするのですが、その視点もかなり学習の役に立つようですね。」

おもむろに田中さんが顕微鏡を取り出しました。調節してくださった顕微鏡で覗いた葉っぱの中心には、たくさんの小さな毛が生えていました。肉眼ではまったく見えないレベルの小ささです。葉っぱのカタチが似ていても、毛が生えているものと生えていないもので区別ができるそうです。本屋さんで買う葉っぱ図鑑ではこの小さな毛は見えないことでしょう。まさに「生きた図鑑」。

――これから「いきつけの田舎touch」に参加される方に一言ありますか。

「木も花も必ず理由があります。そこにいる理由が、地質だったり、天候だったり、周りの環境が全て、まるでその花がそこで咲くためのように用意されている。自然を観察しているとそういうことが本当によくわかるようになります。」

(提供画像)
(提供画像)

「自然ってほんと全てがつながっているんです。自分もその一部なんだよ。絶対離れては生きていけないよ。そして、その自然の一部として自分はどう生きていくのか、きちんと選択していくことが大切だよって伝えていきたいです。」

自然。「おの(自)ずから、しから(然)しむ。」

「自然」とは、何も着飾ってなくて、気取ってなくて、そのものがそのままの姿であること。田中さんにとっての自然とは、田中さんご自身が自然の中で生きることを意味していて、それを人生で一番大切にして生きてこられた。お話しているとその純粋さや田中さんご自身の自然をおすそ分けしてもらえる気がします。

(写真:藤原 慶)


■「さわる ふれあう 感動する」 いきつけの田舎 touch
https://www.so-net.ne.jp/

■「ネットにつながる、世界が広がる」 ソニーのネット ソネット
https://www.so-net.ne.jp/access/special/sony_so-net/

■「“つながる”から未来を創る」 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
https://www.sonynetwork.co.jp/

■信州原村 八ヶ岳中央高原 八ヶ岳自然文化園
http://www.yatsugatake-ncp.com/

■「K」COFFEE & BOOKS DELI & BAR
住所:
〒391-0115長野県諏訪郡原村原山17217-1613
電話番号:
0266-74-2684

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