小さい頃からの宝もので、お客さんが喜んでくれる。ネイチャーガイド熊崎さん
200の大小さまざまな滝があり、「小坂の滝めぐり」としてツアーが行われる岐阜県下呂市小坂町。
今回お話をうかがったのは、会社員を経て、慣れ親しんだその小坂町でネイチャーガイドを行う飛騨小坂観光協会の熊崎潤さん。一度は大学進学のために外に出た熊崎さんがガイドを行う理由、それは、地元愛とこの地の自然の魅力に心奪われているからこそでした。
もくじ
沢のぼりへと導かれた一冊の写真集
大学を卒業後、家具メーカーを経て2012年から滝めぐりのツアーガイドを行っている熊崎さん。かなり異業種への転換ではありますがそのきっかけはなんだったのでしょうか?
「この町も高齢化が進んでいて、ガイドと言ってもおじさんばかり。先々の担い手がいなかったんですよね。僕は小さい頃から滝が大好きで、休日はそればっかりやっていました。観光産業でこの地を盛り上げたい!と思って、僕が飛び込んだんです。そしたら周囲も『どうにかしなきゃ』ということで、今まで存在しなかった事務局長というポジションができあがり、今の僕の仕事になっています」
熊崎さんが滝に興味を持つきっかけとなったのは、過去に小坂町の全世帯に配られたという小坂の滝の写真集。偶然にも自分が生まれた年に発刊されたこの写真集を父親の友人に見せられ、その魅力にとりつかれたそうです。そこから、まだ見ぬその滝にたどり着くためには沢のぼりの技術が欠かせず、その技術を身につけていくことになります。
その先を登らないと見えない景色がある
沢のぼり。一度はやってみたいというアウトドア好きも多いとは思いますが、登山やキャンプなどに比べるとまだまだマイナーなアクティビティ。熊崎さんはどんな点に惹かれたのでしょうか?
「山登りの魅力のひとつに絶景の稜線歩きっていうのがあると思うんですけど、沢のぼりはそれと真逆の世界なんです。スリルと激しさがあるし、閉じ込められた空間の美しさっていうのがあるんですよね」
沢のぼりの舞台となる場所は谷。空はほとんど見えず、薄暗い。開放的な稜線とは全く異なる自然の世界に足を踏み入れることになります。そこに魅力があると熊崎さんはいいます。
「稜線はずっと向こうまで続く景色が本当に爽快ですよね。逆に谷の場合は、一寸先は何があるかわからないんです。どうなっているかわからないところに向かって登って、その先に見えた景色が何とも言えないんですよね」
当たり前の光景が感動を生む
沢のぼりの地は全国的にもたくさんありますが、熊崎さんが活動されている巌立峡には独特の魅力があるんだそうです。
「巌立峡はじめ小坂の谷は、かつて御嶽山の噴火で流れ出た溶岩流でできた峡谷なんですが、だから谷の形相が独特でおもしろくて、すべて趣が違う3つの水系があるんですよね。ここの攻略だけでもすごく大変なので、今では他は全然回れてないです」
小さい頃は行けないところばかりでしたが、今はだいぶ開拓が進んでいるそう。ただ、一度開拓しても次も同じとは限らないんだそうです。自然が相手、変化の激しい過酷な谷が相手のため、景色が変わっていることも少なくないのです。
「もともとは自分が楽しむために登ってましたが、今は、お客さんの喜んでいる姿を見る方が楽しいですね。自分が小さい頃から心奪われた地ですから、自分の宝物を見せて喜んでもらっているようなものです。そうやって喜んでもらうために、わたしとしても提供できるものの厚みを増すために、沢のぼりを続けています」
お客さんの反応は鑑。自分にとっては宝物で当たり前の光景で喜んでくれる姿を見て、自分自身も改めてこの地に感動するんだといいます。ガイドをする上で気をつけていることは何かあるのでしょうか?
「道が壊れたり、事故が起きたりしたらツアーとして終わりですよね。お客さんも来てくれなくなってしまいます。自然よりも人の方が怖い、という気持ちで安全には配慮しながらガイドをしています」
人も景色も一期一会
この地が好きで、この地を訪れるお客さんのためにも日々自然と向き合っている熊崎さん。この日は紅葉はまだまだこれからというタイミングでしたが、いつ、どんな時期に、どのエリアで、どんな紅葉が見頃か、というところまで把握しているんだとか。どのタイミングで来ても、その時にベストな景色を見せに連れて行くことができるそうです。
「僕みたいにランドスケープが好きなガイドもいれば、別のことに詳しいガイドもいます。ガイドによってそれぞれですし、自然だって日々変化します。だから同じ体験は二度とできないんですよ。一期一会、それを楽しんでますし、お客さんにも楽しんでほしいなって思いますね」
今では小坂だけではなく、飛騨エリア全域の自然観光を行う「飛騨の森ガイド」も担当されている熊崎さん。大好きな地元の自然を、国内外問わず多くの人に楽しんでもらうライフスタイルも、アウトドアマンのひとつのかたちですね。
(写真:藤原 慶)
LIFE WITH NATURE!
コースタイムの1.5倍はかかる写真大好きハイカー。登山はカメラ3台、キャンプはミニマルに、自分らしい自由なアウトドアを楽しんでいます。フィルム登山部メンバー。.HYAKKEIファウンダー&初代編集長。