“山の本”に特化した京都の古本屋「軟弱古書店」に行ってきた
もくじ
京都大学の裏にたたずむ、大正初期に建てられた洋館アパート
お店が入っている白亜荘は築100年以上の洋館。大正初期に修道院が女性信者のためにつくった建物だそうです。
同アパートには、女性店主が営む古書店「croixille(クロアゼィユ)」や出版社のほか、撮影スタジオなども入っています。
玄関から一歩足を踏み入れると、館内はまるで当時のままで、時が止まったかのような素敵な雰囲気。2階の25号室が軟弱古書店になります。
「軟弱」でも気軽に山は楽しめる!!
こちらが軟弱古書店の店主、中山幹彦さん。
中山さんは大学卒業後、ホテルに就職。2014年3月に早期退職し、セカンドキャリアをスタートされました。現在は軟弱古書店のほかカヌーのインストラクターなど、これまでの経験や趣味を活かして「好きなこと・やりたいこと」を仕事にされています。
――まず、「軟弱古書店」という店名が気になりました。
大学では探検部に所属していました。体育会系の厳しいノリで、ことあるごとに先輩から「この軟弱者が!!」と怒られていたんですよ。
――山で弱音とか吐くと、怒号が飛ぶ感じですか?
それもありますが、先輩が使用していない道具を使うのもダメで、たとえば防寒用にバンダナを首に巻いただけでも「軟弱者!」、女の子としゃべっても「軟弱者!!」と(笑)
――その言葉が印象に残っていて、屋号になったわけですね(笑)
はい。それと、登山はストイックに挑戦するものだけではなく、気軽に楽しめるコースもありますし、いろんな関わり方や楽しみ方があります。「軟弱」には、そういった意味も込めています。
紀行文から山の小説・写真集・歴史・草花・雑誌など、とにかく山の本ばかり
東京時代に通っていた、“山の本屋”として有名な「茗渓堂」(現在は閉店)のような本屋をやれればいいなと思っていたそうで、「書籍を通じて、山の魅力を伝えたい」という中山さん。
店内には紀行文から山の写真集、新田次郎をはじめとする山に関連する小説など、山関係の本がずらりと並びます。
ロッククライミングなどに本格的に取り組んでいる山好きの人が資料を求めて来店されることもあれば、初心者の方がおすすめの本を求めてやってくることも。
こちらは、山の植物、山岳の歴史に関する書物。
渓流釣りの本も充実。釣り好きの方は必見です!
シリーズ化されているセット本のコーナー。
そのほか、大学の山岳部や社会人山岳会の会報、記念誌なども取り扱われています。
希少な戦前の雑誌をはじめ、『山と渓谷』をはじめとする雑誌のバックナンバーも充実していました。
こちらのトランクの中は、ダメージが大きいものなどの「訳あり品」。
掘り出し品がみつかるかも?!
一冊の本との別れ、再会が古書店をはじめるきっかけに
中山さんが本屋さんを始めたのは2001年。ホテルマンとして働きながら、ネット古書店をオープンさせたのが最初だそう。
その後、2013年11月に京都伏見桃山の納屋町センターに実店舗をオープン。しかし、店舗が入っていた建物の取り壊しが決まり、2016年12月より今の場所に移転し、リニューアルオープンされました。
――本屋さんをやろうと思ったきっかけは?
社会人になりたての頃、『北帰行』(著・渡部由輝)という本を読みました。著者は東大出身の方なんですけど、大学卒業後も就職をせず、プロの釣り師になろうと思って知床半島に渡るんです。そこで人跡未踏のような沢に入り、釣ったイワナを旅館に卸して生計を立てようとするんですけど、全然採算があわなかったとか、そういった話がいろいろ出てくる本で。
――いまだと「情熱大陸」とかに取り上げられそうな話ですね。
ほんとに(笑)その『北帰行』を読了したときにすごく感銘を受け、友人に貸したところ、本が行方不明になってしまったんです。それから、古本屋に行っては同じ本を探したんですけど、なかなかみつからなくて…。
――発行部数が少ない本だと探すのが難しいですよね。
はい。話は2001年に飛ぶんですけど、ようやくインターネットの時代になり、当時Easy Seek(イージーシーク)という中古書籍などを販売するショッピングサイトがあり、そこで探したら『北帰行』がヒットしたんです。
――それは、よかったですね。
Easy Seekは自分でも本を出品できるということで、試しにいらない本を10冊くらい登録しました。そしたらすぐに売れて、これはいいなと思ったのがネット古書店をはじめるきっかけになりました。そういった意味でも思い入れの強い一冊です。
「山の古本屋」店主によるおススメ本
最後に、店主の中山さんにオススメ本をいくつか挙げていただきました。
著者が選んだ29編の紀行と随想を紹介しながら、そこに出てくる山について語られるエッセイ集。
「自身が訪れた山の話などは、よりいっそう楽しく読めると思います」
二見書房から出ていた「山岳名著シリーズ」の一冊。山岳画家である著者が、スケッチを挿入しながら山行の思い出をつづります。
1956年に出版されたガイドブック。当時の山小屋などの環境や、山へのアプローチの仕方など。
「古地図を見るように、今の様子と比較したりしながら読むのも面白いですよ」
まとめ
お店は、京阪電車「神宮丸太町」「出町柳」より徒歩約15分。バスも利用できます。
不定休で(カヌーのシーズンはお休みが多くなります)、営業日はお店のWEBサイトをご確認ください。
山好きやアウトドア好きな方も、そうでない初心者の方も、ぜひ一度足を運んでみてください!
大阪でライターをしています。広告制作会社を経て、2004年よりフリーのライターとして活動。2015年12月に、街の本屋さんを紹介するポータルサイト「読読 よんどく?」を立ち上げる。