家具発キャンプ使い。なぜ「INOUT」はトレンドの先を行ったのか?
キャンプギア、という考え方もここ最近随分と変わってきた。
かつては軽量・コンパクトが中心だったキャンプギアだったが、最近では家でも使える、そもそも家具だったような道具をキャンプに持ち込むおしゃれキャンパーたちが増えてきた。中でも、自然と一体となるような質感と温もりのある、木材を中心とした家具はその中心核だ。
「INOUT」はその名の通り、部屋とフィールドをシームレスにつなぐファニチャーブランド。Instagram等でキャンパーたちがこぞってその新しいスタイルを投稿する前から、家具をキャンプに持ち込むスタイルを提案してきた。
なぜ、「INOUT」はそのようにブームを先取りすることができたのだろう?ブランドとしての哲学とは?代表の小林卓さんにお話をうかがった。
もくじ
はじめたのは「自然の流れ」
23歳で店舗の設計・施工の会社、TAKU KOBAYASHI Design studioを立ち上げた小林さん。容易に想像がつく通り、会社自体はアウトドアの会社ではない。ではなぜINOUTを手がけるようになったのだろうか?
「キャンプ自体を自身ではじめたのは10年前くらいだったかと思います。子供が生まれたのがきっかけですね。その頃からテーブルなどは作っていたんですよ、キャンプ仲間たちの間でこんなのあったら良いよね、というものが話に出ればそれを形にしていました。設計が仕事だったこともあり周りの家具屋さんに作るのをお願いしていたので、いわゆるDIYではなく精度の高いものでした」
そうしている間に、「これはお店にできるんじゃないか」と思い始め、店舗を構える東日本橋で良い物件が空いたのをきっかけにINOUTをオープンすることになったんだそう。
オープン当初から、今と同じようにウッドの家具を販売していたINOUT。「よしやってろう」と思い立って始めたものではなく、小林さんにとっては“ごくごく自然の流れ”だった。
「僕らはキャンプ屋ではないんです、あくまで家具屋。だから“外専用”というわけでは決してないんです。先ほどお話した、昔作っていたテーブルなども家で使うことを前提に作っていましたから。家の家具はすべてオリジナルのもので、作ってきたものを皆さんにも見てもらえる、買ってもらえるようにしようか、という流れで始めたんですよ」
家でもキャンプでも使うと思えば、決して高くない
今でこそinstagramなどでおしゃれな家具を使用したキャンプスタイルが数多く投稿されているが、2年前となるとまだまだそのようなスタイルは浸透していなかった時期。当初と今ではだいぶお客様の心理的ハードルが下がっているそうだ。
「当初は、キャンプで使うテーブルひとつに6万円、というお客様の発想だったので高い買い物だったわけですが、おかげさまで今ではINでもOUTでもというスタイルが浸透してきているので変わってきました。家使いも意識してくれるので、家具と思えば決して高くないんですよね」
こういったスタイルはこれまでのスタイルを経験していた人たちの発展という形で、玄人が好むものかと思いきや、そうでもないらしい。メディアで情報発信されるようになり、初心者でもはじめから揃えたいという方もおり、INOUTを愛用してくれる層は広いそうだ。
家はくつろぎの空間、それが起点
INOUTというとウッドのプロダクトが中心であるイメージを持つ方が多いだろう。このウッドというところに小林さんのこだわり、考え方の起点が反映されていた。
「僕らは家具屋なので、家のことを第一に考えるんです。家といえばくつろぎの空間だと僕たちは捉えていて、かつグリーンに合うもの、というものを大事にしています。そうするとメタル調のものというよりかは、ウッドというのが絶対的に必要だと思っています。これもごくごく自然の流れで、あえてウッドを使っている、というよりも、くつろぎということを考えたらウッドだったということなんです」
外をベースに考えると色々と制約が生まれてくる、濡れた時のことを考えたり、軽さを追求したり。したがって、ある程度は持ち運びを想定しつつもベースは家の中で使えるもの、というのがINOUTの考え方なのだ。
「僕もしょっちゅうキャンプに行っていると思われがちですけど、家にいることの方が多いんです。どんなにキャンプが好きな人でも、1年を通すと家の中で過ごす時間の方が多いですよね、おそらく。そう考えると、家で使うもの、というのをベースに考えるべきだと思うんです」
「テーブルは特に家使いしてくれている人が多いと思いますね。instagramなどを見ていると大事に使ってくれている人がたくさんいます。下にちゃんと敷物をしてくれている人もいたりするんですよ、たぶん家でも使うからって汚れないようにしてくれていると思うんですけど。ただ、もっとガシガシ使ってもらって良いと思ってます、汚れが味に感じるのがウッドの魅力のひとつでもありますから」
実体験をベースにしているから共感が生まれる
ひとつひとつ大事に使ってくれている方が多いので、Turtle Table・Just right Chair・Stack Boxという代表的な3つのプロダクトを軸に、それらを活かす周辺のものを新たに展開していく考えだという小林さん。新しいアイディアというのはどのようにして生まれるのだろうか?
「基本的にはキャンプに行った時の実体験がベースです。不便だなぁと感じたものを解決するものを作りたいですね。一般的な家具屋のような、今はこのトレンドだから、とかこのシーズンだからといった商品開発はしていなくて。実際に自分が感じていること、考えていることを作りたいと思った時に作るようにしています。実体験をもとに作っていて僕らが自然に取り入れているものだから、お客様も取り入れやすいし共感してもらいやすいんだと思います」
オンラインショップもやっているが、家具屋ということもあって最終的には見て買いたい、と店舗まで足を運んで買ってくれるお客様が多いという。お客様もつながりが濃い方が多く、お店に来たらついつい話し込んでしまうそうだ。
「うちの家具があれば、どんな空間でもおしゃれになるように家具の力を磨き上げたいと思っています。やり過ぎもダメだし、力が無さすぎてもダメ。ちょうどいいバランスのものを作れるように。どんな箱であろうと、家具で良い空間は作れると思っていますからね」
コーヒーとINOUTはワンセット
店内を見渡すと、驚くほどにコーヒー関連の商品が多いことに気づく。キャンプとコーヒーの相性が抜群であることは周知の通りだが、ブランドとしてここまで力を入れるのはなぜなのだろうか。
「どんなに夜に酔っ払っても、朝コーヒー飲むじゃないですか、キャンプって。それがいつも気持ちいいからコーヒーにこだわっているんです、ただそれだけですよ(笑)」
コーヒー関連で代表的なプロダクトといえば、このダブルのドリッパースタンドだろう。これも小林さんの実体験をもとに作られたそう。5人くらいでキャンプに行った時にドリッパーが1つだと1〜2杯くらいしか淹れられず、順番待ちになってしまう。それが嫌だったのでダブルのスタンドを作ったんだそうだ。
「もっともっとコーヒー周りは充実させたいんです。うちの空間をコーヒーの香りにしたい。だからこのお店もコーヒーのテイクアウトができるようにキッチンを作っているところなんですよ。あとはコーヒーと言えばマフィンなので、コーヒーとマフィンとINOUT、みたいな形にしたいなと思っています」
販売しているコーヒー自体もブレンドはオリジナルだという。プロのブレンド屋に「キャンプで美味しく飲めるように」ということで、香りが強くて味の濃いブレンドを開発してもらったそうだ。編集部もこのブレンドを購入、試しに家で飲んでみたが室内だと確かに香りの強さが分かりやすかった。この香りと共にキャンプでの朝を迎えたらまたキャンプにハマってしまいそうだ。
これからも「自然の流れ」で価値を提供していく
最後に今具体的に進めようとしている新しいプロダクトの話をうかがった。
「キャンプ限定のものは絶対作らないです。その中では、コットは作りたいと思っていますね。仕事柄、徹夜などもすることあるのでそういう時にあったら良いなと思いますし、僕らが作っているようなテイストでのコットはまだ世の中に少ない。家でもベンチとして使うこともできますから」
これからも「自然の流れ」で無理せず、実体験や今あるプロダクトをベースに作っていくという小林さん。昨今のブームもあってか、キャンプブランドの新商品リリースが後を絶たない中、腰を据えて家具屋として長く使ってもらえるプロダクトを作る姿は気持ち良さすら感じる。
今回お話をうかがって強く感じたのは、自然に生まれたものは心地いい、ということだ。キャンプの醍醐味の一つに、都会の喧騒を忘れて自然の中でゆったり過ごす、というものがあると思う。その時間の担い手であるブランド自体がゆったりと作ったものは、きっと使い手にとっても心地の良いものになるのだと思う。
INOUTがトレンドよりもいち早く家具発キャンプ使いを提案できたのは、そういった心の余裕とそこで生まれた実体験をベースにしたからではないだろうか。キャンプも家と同じく、くつろぎを与えてくれるものなのだから。
『INOUT』
〒103-0004 東京都中央区東日本橋3-11-10 ユタカビル1F
TEL:03-6661-7227
営業時間:12:00〜20:30(土・日・祝は18:00まで)
休業日:火・水
WEB:https://inout.tokyo/
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(写真:小澤彩聖)
LIFE WITH NATURE!
コースタイムの1.5倍はかかる写真大好きハイカー。登山はカメラ3台、キャンプはミニマルに、自分らしい自由なアウトドアを楽しんでいます。フィルム登山部メンバー。.HYAKKEIファウンダー&初代編集長。