山の上の珈琲屋『豆岳珈琲』に気づかされる、暮らし方のヒント
「豆岳珈琲」は大分県にある山の上の珈琲屋、決して山小屋ではありません。
珈琲豆の焙煎を行い、小さなカフェスペースもある珈琲屋。
この「豆岳珈琲」には地元の方々はもちろん、
九州の各エリアから、ひいては全国からお客さんが足を運んできています。
山奥の小さな珈琲屋は、なぜこうも多くの人を惹きつけるのでしょうか?
そこにはただ珈琲が美味しいだけではない、日々を楽しむ暮らし方のヒントがありました。
田舎の良さを再発見
「豆岳珈琲」は夫婦二人で2007年にゼロからはじめた小さな珈琲屋。お店のある大分県中津町耶馬渓町は、旦那である大岳さんの故郷。大岳さんは一度は故郷を離れ、長く東京で勤めていました。
「田舎もいいところだけど、東京の方が良いと思っていました。けれども、妻が一緒に実家に帰った時に良いところだと言ってくれたんです。小さい頃はなんとも思わなかったんですが、私と違ってずっと東京で暮らしていた妻からそう言われて魅力に気付かされました」
東京ではCM関連の制作の仕事をしていたという大岳さん。CM制作と珈琲屋、そのギャップが気になるところ。
「CMは億というお金が動くのに対して、珈琲は一杯300円ですからね(笑)。CMで使った珈琲が美味しくて興味を持っていたんですが、仕事の業界の傾きと珈琲への興味がクロスしていきました。石川県の友人の珈琲屋も田舎で成り立っていたので、地元でもできるんじゃないかって」
そう思い立ってからは、その友人のお店で予行練習の意味も含めて修行。何もないところでお店をやるということの良さを認識したんだそうです。
夢は山のように大きく、けれども足元はコツコツと
田舎の山の上という立地でも、豆岳珈琲には日々幅広い層のお客さんが足を運びます。
「耶馬渓町は九州の主要都市からアクセスが1.5時間程度で、来やすい方なんです。都市の方々にとってはそういう意味でも魅力的なところなんだと思います。そして、このあたりの田舎はインスタントコーヒーや缶コーヒー文化だったので、しっかり淹れた珈琲がすごく珍しかった。だから老若男女、どんな人でも来れるし実際に来ていただいています。 山の上ということで、自転車乗りのお客さんがお店をゴール地点としてやって来ることも多いですよ」
「岳」という言葉入っているだけで、山好き、アウトドア好きを惹きつけるものがあります。実際、編集部もお店に辿り着くまで美しい耶馬渓の自然を堪能、その後にいただく珈琲は格別でした。それにしても、前述したが珈琲が一杯300円という価格設定はチェーン店でもないのに非常に安いと感じます、ここにご夫婦の考え方が反映されていました。
「最終的な目標は高いですが、そこまでの設定は低くするようにしています。そうすると小さいことが楽しくなってきます。それをお客さんも感じて楽しくなってくれますし、気持ちがそうなると美味しいと感じてもらえるんです。300円という価格もそう、わざわざ交通費をかけて来てもらっているわけなので、トータルのハードルを下げるためにこの価格にしています。近所の人にも気軽にフラッと来てもらいやすいですしね」
「小さなことが楽しくなる」というのは生きていく上での知恵とも言えます。日々の生活で楽しさを感じることができるかどうか。楽しければ笑顔になり、笑顔でいれば何事もポジティブに考えられる。その連鎖が自分自身のみならず周りの人たちをも幸せにする。「ここに来ると、ここの珈琲を飲むとなんだか幸せな気持ちになれるんだよな」と思える場はそう多くはないでしょう。
もうひとつ、「豆岳珈琲」という店の名前もそんな考え方を象徴しています。
「名前が大岳なので、大岳珈琲でも良かったんですがちょっと壮大過ぎて。けれども目指すところはまさに大岳、大きい山を目指して登っていきたいと思っています。そのためには長く続けなければいけません。だからまずは小さいところからコツコツ、という意味を込めて『豆岳』としました」
どんなに高い山でも、山頂に登るには一歩一歩、少しずつ歩んでいくしかない。そのプロセスが楽しく、幸せに感じられるなら登山は全体を通して素晴らしい時間になる。そんなことを登山をされる方は感じることがあると思いますが、それは登山に限らず、日々の生活においても言えること。驚いたことに、豆岳珈琲からは標高600メートルの「大岳」という山が実際に見えるのだそうです。
生活のまんなかに
「『無理をしない』というのも大事なテーマとして掲げています。例えばお店の営業時間ですが、この営業時間はお店の営業時間でもあり、私たち二人の営業時間でもあるんです。だから営業時間外は極力私たち自身もお休みしています。逆に、どんなに天気が悪かろうが、お客さんが来そうもない日でも、営業時間はお店を開けているようにしています」
豆岳珈琲が多くの人を魅了するのは、珈琲自体が美味しいことはもちろん、ご夫婦二人のブレない軸によって作り出される空気感、居心地の良さなのでしょう。「自分もこんな風になれたら」と思って通うお客さんもいるのではないでしょうか。
「自分たちが楽しくいること、これがとても大事だと思っています。スイーツだって自分たちが食べたいものを作ります、食べたいものじゃないとそれがお客さんにも伝わりますから」
「豆岳珈琲」という店の名前には前述したもの以外にも意味があります。
Mametake
Coffee
それぞれの単語の頭文字の「M」と「C」は、「Mid(中央の)」「Center(中心)」の頭文字でもあります。名刺やお店の紹介には「コーヒーがまんなかにある生活を」という想いが込められ、この「MC」が強調されて表現されているのです。
ただ、今回の取材を通してまんなかにいるのは珈琲だけではないと感じました。自分たちの考え方でお店を運営し、日々を楽しんでいるお二人。そんなお二人が作り出す豆岳珈琲というお店自体が、人々のまんなかにいる憩いの場であり、ひとつの心のよりどころ、多くの人が生きるヒントを見つけに来る場なのではないでしょうか。
ぜひ美味しい珈琲を飲みに、暮らしのヒントを見つけに訪ねてみてください。
その際は、道に迷う前にお早めにお店にご連絡を。
〒871-0431
大分県中津市耶馬渓町大字大島3818-1
TEL&FAX:0979-56-2508
e-mail:coffee@mametake.com
URL:http://www.mametake.com
営業時間:10:00-17:00 月曜・火曜定休
(写真:小澤彩聖)
LIFE WITH NATURE!
コースタイムの1.5倍はかかる写真大好きハイカー。登山はカメラ3台、キャンプはミニマルに、自分らしい自由なアウトドアを楽しんでいます。フィルム登山部メンバー。.HYAKKEIファウンダー&初代編集長。