山の天気を学ぼう!気象遭難を防ぐために知っておきたい入門知識
もくじ
山の天気は麓とちがう?
「天気予報では晴れだったのに、いざ登山口にきてみたら山頂が曇っていて、登ると雨が降って来た…」
そんな経験をしたことはありませんか?
一般的な天気予報で伝えられるのは麓の天気なので、
いざ山に入ったら雨だった、なんてことはよくあるケースなのです。
そして、予想外の悪天候は、気象遭難事故を起こす引き金にもなりかねません。
山の天気を学ぼう!
では、気象遭難を防ぐために、どんなことに気をつければいいのでしょうか?
今回取材したのは、高尾山からエベレストまで(!)国内外の幅広い山岳気象予報を行う“山の天気予報”株式会社ヤマテン代表取締役の猪熊隆之さん。
長野県富士見町の入笠山で行われた、毎日新聞旅行「まいたび.jp」の登山教室「お天気実技講座 入笠山 猪熊講師と歩く」で紹介された“気象遭難を防ぐためのポイント”の一部をお届けします。
天気図を読んでみよう
まずイベント前半の座学では、実際の天気図や資料を参考に、天気図の読み方や雲についての基礎知識、冬型の気圧配置が山地にどのような影響を与えるかなどについて詳細に学びます。
気象遭難の原因トップは…
ここで押さえておきたいのは、気象遭難で最も多いのが予想外の悪天候や風の強さによって起きる「低体温症の事故」であること。
人の体温を下げる一番の原因は「風」で、“風が1m/s吹くと、体感温度が1℃下がる”と言われているほど。つまり、それほど風が与える体温への影響は大きいということですね。
40分間の座学を終えたあとは、いよいよ実際に入笠山をハイク開始。
なんのために風をチェックするのか?
風の強さ=低体温症へのリスクにつながるため、登山中はたとえ晴天でも、要所要所で風の強さをチェックしながら進む必要があります。
風の強さを調べて、ウエアを着て防寒対策をしたり、危険な場合は撤退したりするなど、リスク管理に役立てましょう。
登山口で風の強さをチェック
歩き出す前に、早速風の様子を見ましょう。
登山口は風が弱い所にあることが多いので、頭上の雲を見ると良いそう。
「風の強さは、雲が動くスピードを観察することで推測できます。登山口ではまず、山頂や真上の雲が速く流れているかどうかをチェックしましょう。さらに、雲の形が凸レンズのような形の『レンズ雲』や、山の上を丸く覆うような『笠雲』がかかっている場合は要注意。これらの雲が現れるときは、上空にかなり強い風が吹いていることを示しています」(猪熊氏、以下同)
コルで風を読んでみる
山の稜線上の凹んだくぼみを「コル」や「鞍部(あんぶ)と言い、これらは風の通り道になっているので、風の強さをチェックするのに適しているそうです。
「例えば窓をひらいたとき、全開にするより小さく開けたほうが風が強く吹き込むのと同じ原理です。稜線で一部だけ凹んでいるコルには、両側が高く、コルの所が低くなっているので、そこが風の通り道になり、強い風が吹きます」(同)。
山頂よりもコルのほうが風が強いことも多いので、こうした所で強風時に休憩を取らないようにしましょう。
森林限界直前は“引き返しポイント”
森のなかでは風が弱くても、周囲に木がなくなると一気に風が強くなる恐れが。
そのため、森林限界直前で風をチェックする必要があります。
「樹林帯のなかにいても風の音や木々の揺れなどを観察すれば、ある程度は上の状況を予測できるでしょう」(同)。
また、リーダーが先に行って確認をしたり、ウエアをさらに着たりするなど工夫します。
風がかなり強い場合やパーティーの体力に不安があるときなどは、そこで引き返すのが賢明ですね。
入笠山の場合は、山頂で森林がない開けた場所に出るので、山頂直下で風をチェックします。
この日は風が弱かったため、晴れて山頂からのパノラマを味わうことができました。
北アルプスも中央アルプスも、八ヶ岳も富士山まで! 入笠山の山頂からはあらゆる山脈を一望できます。
まとめ
イベント中、ふと立ち止まりあらゆる気象について解説してくれる猪熊気象予報士。
風の音、雲の流れ、雪の結晶のかたち…これらは全て、私たちに山の天気を教えてくれるヒントでもあるのですね。
いつも通り登山をしているだけでは、全く見えてこない世界があるのだと思い知らされました。
山岳気象は登山のリスク管理をする上で大切な知識。これを機に、筆者も“まずは天気図を読むこと”から勉強していこうと思います。
麓の神社で参拝してから、山頂を目指すのが好きです☆
ライター。アウトドア誌、評論誌等で執筆。北アルプスの山小屋に勤務、のち3ヶ月かけて屋久島中のトレイルを練り歩く。最近は島登山にハマっています。