住んでいるから味わえる。雲海と赤い山肌を眺める朝
もくじ
標高1100メートルの住まいから見える雲海
山の近くに住むということ。それは自然がより身近になるということです。
草花が咲いては枯れたり、木々や葉の色が変化したりといった自然現象はもちろん、都心では見られない、山ならではの自然現象を日常的に目にすることができます。
その一つが「雲海」。
雲海とは、山などの高所から下界を見下ろした時に、雲が海のように広がって見える状態のことを言います。
雲と言えば、普段は自分の目線よりも高い位置にあるものですので、雲海を目にするのは、当然高所に来ないと目にすることはできません。また、雲海が形成される条件は限られているので、高いところであればどこでも見ることができるわけでもありません。
僕が住む富士見町の立沢という地区は標高が1100mあり、八ヶ岳を背にする形で、南アルプス側に形成される雲海を、自宅から眺めることができます。
雲海の起こり方
雲海の発生メカニズムは、夜間、風の流れがあまりない条件下で、地表の空気が放射冷却によって冷やされ続け、さらに山間部に留まり続けることで、空気中の水分が霧状態になります。それを上から見下ろした状態が雲海です。
ここではちょうど国道20号が通る、八ヶ岳と南アルプス山脈の間に雲海が形成されます。夜明け前から形成され、朝日と同時に徐々にその姿が現れ、7時台には南に吹く風によって徐々に押し流されていきます。(もちろん日によって違いますが)
自宅のダイニングにある窓はちょうど南アルプス側に面しているので、早く起きた朝は、甲斐駒ヶ岳や入笠山の手前に漂う雲海を、自分の目線よりも少し低い位置で見ることができます。
山肌を赤く染め上げる「モルゲンロート」
さらに雲海と同時にもう一つ眺めることができる自然現象が、「モルゲンロート」。
モルゲンはドイツ語で「朝」。ロートは「赤い」という意味。朝日が山肌を照らし、赤く染まる状態のことを言います。
高い山であれば、日の出の際に太陽光を水平、もしくは少し下から受けることになるので、その照らされ方は山肌を独特の色合いに染め上げます。
雲のない快晴でないと山肌をはっきりと見ることはできませんし、さらに当然、早起きしないと見ることはできません。
八ヶ岳と南アルプスの合間に雲海が浮かび上がり始める時、雲海から顔を出す山脈の山肌は赤く燃え上がり始めます。特に甲斐駒ヶ岳は山頂付近の岩肌が白色なので、赤が特に引き立ちます。
そしてその照り返しを受けているのか、下を流れる雲海の表面も、少しだけピンクに染まります。
自然風景が感じさせてくれること
高い山に登り、そのまま朝を迎えないと見ることのできない景色が、自宅から眺められるのは、とても贅沢なことかもしれません。
僕が仕事で東京へ行く時は朝5時起きですが、ストーブのスイッチを入れ、窓のブラインドを開け、目の前に雲海とモルゲンロートが広がっているのを見ることができた時は、ちょっと得したな、という気分になれます。
自然に囲まれた生活を始めたことで、今までなかなか観ることのできなかった風景が、日常的に観ることができるようになりました。
窓を開けた時、そこで目にする風景に感動する。都心に住んでいた頃、そんなことはあまりありませんでした。もしかしたら10年も経てば、こんな感動も風化していくかもしれません。だとすればこの感動は、これを“普通の風景”として受け流すことのないよう、自分自身の感覚を研ぎ澄まし続けておかなくてはいけない、という“気づき”なのかもしれません。
八ヶ岳と東京を行き来しながら、山と都会の暮らしについてレポートします。東京のメーカーに勤めながら、長野県富士見町で個人のプランニング会社を立ち上げ。現在は週の4日を八ヶ岳の麓、3日を東京で過ごしながら、「富士見町テレワークタウン計画」などのプロジェクトをサポートしている。
趣味は山と音楽。