【忘れがたいあの道を、もう一度】#27 長野県・双子池、山上のお池巡りで気分も上々!
ピークを目指さず、今日は“底”を目指す――。
八ヶ岳に点在する“池”を巡る山上散策は、苔生す原生林と歩きやすいトレイルとで、とても気分がいい。中でも北八ヶ岳に位置する双子池と亀甲池は初心者でも挑戦しやすく、上級者にとっても調子を整えるには打ってつけのコースといえる。
スタート地点となる大河原峠の標高は2093mもあるから、平地が暑い季節でも歩きやすく、いい具合にスタートがきれる高度だ。この峠を起点に、双子池、亀甲池、天祥寺原と時計回りに周回するコースは3時間ほど。手軽でありながら、見どころに事欠かない。
晴れれば絶景が楽しめる双子山の頂で濃霧に見舞われたぼくらは、お互いの顔を見合わせながら、まあこんな日もあるよねと笑い合った。この日集まったのは、なにを隠そう.HYAKKEIの企画した講義で南八ヶ岳のことを学んだメンバーたち。植生や動物を中心に山のことに触れ、編笠山の中腹をフィールドワークした仲間と、久しぶりに山へ行こうということになったのだ。編笠山は八ヶ岳の南端に位置する美しい山容の山だったから、じゃあ今回は北八ヶ岳方面にしようとなったわけだ。
双子山からほどなく“底”にたどり着くと、そこに雄池と雌池からなる双子池があった。周辺を八ヶ岳らしい原生林に囲まれた静かな水辺。雄池の畔に建つ双子池ヒュッテは食事が美味い。せっかくだからここでお昼をいただいて、のんびり湖畔散策の時間をとる。コーヒーとケーキで食後の時間を彩る人もいる。各々が自由に過ごす時間を楽しむ。
もしテントを持っているなら、ここでテント泊するものおすすめだ。それなら気兼ねなくビールが飲める。そういえば、ちょうどぼくらが訪れた時、長野の地ビールのフェアをやっていた。山とビールは最強のタッグだけれど、後の行程を考慮して、ぼくはグッと我慢したのだった。なにせ、飲み始めると1本では終わらないだろうから。
静寂の雌池の畔から原生林へと身を投じる。プリミティブな雰囲気をもつ山道は“ザ・八ヶ岳”といった風で、苔生す岩も木花もみな非常に古い。生命の大先輩たちに取り囲まれた小さなぼくらは、嗚呼、と言って、森を見上げるしかないのだ。山そのものが偉大すぎて、そこに首を垂れると足元に絨毯のような苔がこれでもかと波打っている。苔好きにとっては歓喜のトレイルだろう。中に苔フェチなメンバーがいて、1歩進んでは3歩下がっているようで可笑しかった。実にのんびりした無理のない山行に、少しずつ身心が整っていく。
亀甲池まで来ると、山が開けて空が眩しくなる。なんだか久しぶりに太陽を浴びたような気分になり、メンバーたちは思い思いに池の畔に陣取って休みはじめた。ピタリと動かぬ鏡のような水面には、周囲の木々が美しく映えている。ちょうど正面に『もののけ姫』のワンシーンに登場する水辺の小島みたいなところがあり、いまにもシシ神さまが現れそうな雰囲気が漂っている。まさに神を秘す、山深き神秘の様相。
池を離れてしばらく歩くと、天祥寺原へと向かう山間のトレイルが目に焼き付くだろう。やや雲隠れした蓼科山に向かって、山間の“底”を縫うようについた道が印象的で、ぼくは足を止めて前を眺めた。前を歩く仲間たちは、両の手を挙げながらスキップでもするかのように楽し気に歩いている。このコースを“時計回り”で歩いてきた理由が、まさにこれ。池巡りを仕上げる気分上々の道が待っている、これがこのコースの真骨頂だと思う。
中央自動車道・諏訪インターチェンジから国道152号を経て、県道40号「大河原峠」駐車場へ。
低山トラベラーです。山旅は知的な大冒険!
物語の残る低山里山、ただならぬ気配を感じる山岳霊峰を歩き、日本のローカルの面白さを探究。文筆と写真と小話でその魅力を伝えている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、著書に『低山トラベル』『とっておき!低山トラベル』(二見書房)がある。自由大学「東京・日帰り登山ライフ」教授、.HYAKKEIオフィシャルパートナー。