鷲ヶ峰のことは、この連載で一度触れたことがある。
タイトルは「山男も思わず駆けだす、絶景の稜線」だった。まさしくスキップするほどに軽やかな稜線ハイクを楽しめる手軽な山だということで、忘れがたい夏山の思い出として綴ったものだった。
【忘れがたいあの道を、もう一度】 #08 長野県・鷲ヶ峰 山男も思わず駆けだす、絶景の稜線

待ちに待った雪山のシーズンを告げる初冠雪の便りが各地から届くと、雪山道具を出してきてウキウキが止まらなくなる。シーズンの始まり、足慣らしとギアの点検に、ほどよい雪道を楽しめる鷲ヶ峰はちょうどよい。雪深くなるとスノーシューの出番となる山域だけれど、そうなる前なら、初心者のアイゼンデビューにもちょうどよかったりする。

ギュッギュッと踏み鳴らす雪道は最高に気持ちがいい。八島ヶ原湿原の登山口からすぐに稜線歩きとなるので、歩けば歩くほどに展望も良くなっていく。すでに先行者たちがつけたトレースを辿りながら、念のために地図でコースを、GPSで現在地も確認する。

この一帯を地図で俯瞰して見て見ると、ここ鷲ヶ峰は八島ヶ原湿原と、となりの車山は車山湿原と、前回に書いたガボッチョは踊場湿原と隣接している。湿原と頂が、まるで山城の曲輪のように並んでいて、これらが「霧ヶ峰」を構成していることがわかる。

とにかく鷲ヶ峰は眺めが抜群だ。八ヶ岳と南アルプスのちょうど中間に富士山が収まる構図は思わず声をあげてしまうし、夏には高山植物と夏雲が印象的だった湿原が雪ですっぽり純白に覆われる様にはため息しか出ないし、北アルプスの白と青の山稜がずーっと続くスケール感には圧倒されるし。標高1798mの山頂はもちろんだけれど、そこまでの短い道のりの所々に微妙なアングルの違いが散りばめられていて、それらをひとつひとつ確かめるように歩くのが楽しい。浅間山、美ヶ原、諏訪湖だってバッチリだ。

ほどなく山頂に到着すると、入れ替わりに二人組のハイカーが下山を始めるところだった。無精ヒゲをたっぷり蓄えた“いかにも山好き!”といった風体の男性は、どことなく“雪男”を連想させる男臭さを漂わせていた。心の中でクスリと可笑しんだ。見た目に似合わない甲高い声で「お先にね!特等席どうぞ!」と言って、ここまで来た道をそのまま戻っていった。

徐々に遠ざかって小さくなっていく“雪男”たちを何気なく目で追うと、ひとりは稜線の途中に立ち止まり、もうひとりは先に行ってしまった。明るい曇天の景色の向こうには、さっきより富士の山容がハッキリと浮かびあがっている。それであの男性は思わず立ちすくんでしまったのだろう。しばらくすると満足したのか、ゆっくりと下山を再開したのだった。

「雪男の心をも奪う、終始絶景の一本道か」

そう独り言ちながら、ぼくも1ヶ月は剃っていない無精なヒゲを、ザラリと触った。

<アクセス>
JR上諏訪駅からバス(雪の状況等、現地事情を要確認のこと)。車の場合は中央自動車道「諏訪IC」から八島湿原駐車場へ。
大内 征

低山トラベラーです。山旅は知的な大冒険!

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大内 征

物語の残る低山里山、ただならぬ気配を感じる山岳霊峰を歩き、日本のローカルの面白さを探究。文筆と写真と小話でその魅力を伝えている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、著書に『低山トラベル』『とっておき!低山トラベル』(二見書房)がある。自由大学「東京・日帰り登山ライフ」教授、.HYAKKEIオフィシャルパートナー。

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