23 いつもの道で 〜野川かさね エッセイ〜
いつもの道を歩く。
昼前だというのに陽はかなり傾いている。
立ち止まって息を吐くと白い煙になって空中に消えた。
「歩くことが好きだ」頭のなかにそんな言葉が浮かぶ。
その言葉は声となって、森の静けさのなかに響いたような気がして
すこし照れくさくなった。
歩くことが好きなのは小さい頃からで、散歩好きの両親の影響かもしれない。
写真を撮ることを目的に山を登りはじめたとき、
「歩いては撮る」という行為やそのペースになぜか心地よさを覚えたのは
子どもの頃のリズムと一緒だったからなのか。
ぶらぶらと歩いて、立ち止まり、撮影をして、
また歩く。そんなことを繰り返しているうちに
頂上にたどりつく。そして、また歩きだす。
登山中、目に止まり記憶に残る景色は決して派手なものではなく、
言葉に表すと、とてもささやかな瞬間だ。
そして、そんな瞬間は山だけではなく、街にもあふれていて
いつも目の前の風景は私の心を山と街の両方へと向かわせる。
街で山を、山で街を。
そんな風に心を漂わせながら
今日もいつもの道をのんびりと歩く。
写真家。
山と自然をテーマに作品を発表。著書に「山と写真」、共著に「山と山小屋」「山小屋の灯」「山・音・色」など。ホシガラス山岳会としても出版、イベントに携わる。