なぜ彼女は「獲って食う」のか? 狩りガール交流会潜入レポート
東京都あきる野市養沢のフリースペース「苔庵(コケア)」。今日はここで狩りガールの交流会が開かれます。メンバーは狩猟漫画「獲って食う」の作者・阿佐ヶ谷みなみさんご夫妻と、静岡県の狩りガールズです。
私の狩猟に携わる方のイメージは「厳しい」「寡黙」「近寄りがたい」でした。「どんな方々なんやろか…」と緊張しっぱなし。大きなバンが到着し、聞こえてきたのはそんな気持ちとは裏腹にワイワイと賑やかに話すメンバーの声でした。
「こんにちはー!よろしくお願いしますー!」と黄色い声。一気に場が華やぎます。私の緊張の糸も切れ、気分は女子校モード。みなさんと和やかに挨拶を交わしたのでした。
早速ジビエ料理に取り掛かる彼女たち。その手際の良いこと早いこと。インタビューの準備をしている間に一品完成。鹿肉のコンフィができあがりました。
「うまー…。ジビエってこんなんやったっけ」
私が今までに食べたジビエ料理は香りがきつく、お肉が硬かったのですが、自分の中のジビエ料理のイメージがあっさりとくつがえされました。コンフィを頬張りつつ、調理の合間を縫ってインタビュー開始です。
もくじ
「肉嫌い」が「肉好き」に
まずは今回の交流会のオーガナイザー阿佐ヶ谷みなみさん。漫画「獲って食う」の作者でもあり、銃と罠の免許を持つ猟師さんでもあります。
――なぜ狩りをはじめたんですか?
「近所に猟をしてる若い人たちの団体があって、狩猟にまつわるいろんな体験ができるグループだったんですよ。ちょうどその時アクティブなことがしたいと思っていて、『お気軽にどうぞ』とTwitterで告知していたので参加してみたんです。そうしたらすごい楽しくて。実を言うと、それまでお肉が好きじゃなかったんです。でも自然に囲まれてそこを駆け回ってから獲って食べるお肉は本当に美味しかった。」
「そこからお肉に興味を持って、自分でも獲って食べられたら楽しそうだなぁと思ったので狩猟を始めたんです。」
――180度お肉への価値観が変わるほどの経験だったんですね。
「2018年の秋頃に狩猟デビューしてからは、毎日ジビエを食べてます(笑)」
――みなみさんの狩猟スタイルは?
「私は銃猟から始めました。今のところ、鳥をメインにしてます。一人でもサクっと猟に行けるし一人でさばけるので。今日は残念ながら獲れなかったんですが、今後は鴨にも挑戦したいです」
猟に出たきっかけは、子どものため。
お話を伺っていたら、猪肉をシンプルに塩コショウで味付けした料理が登場しました。以前食べた猪肉がかなりクセのある味だった記憶がよみがえり、おそるおそるいただいたのですがこれも「うまい」。あの時、味わったけもの臭はどこへやら。時間がお昼時だったことも手伝いお箸が進みます。
と、ここでこの猪肉の提供者・野田康代さんにお話をお伺いすることに。
野田康代さんはNPO法人で伊豆の地域活性や人材育成をしながら、副業で料理のケータリングをしています。
「イタリア料理レストランでの修行時代、副料理長が狩猟をしていたんです。それを知って、高級食材として扱われるジビエを自分でも獲ってみたいと思ったのがきっかけですね。」
「狩猟免許を取ってから1年間はペーパー猟師だったんですが、ある日、子供が泣いて帰ってきたんです。学校の裏の畑で大切に育てた野菜が、いのししに食べられて全滅したって。“よし、母ちゃんがいのししを成敗してくれるわ!”と立ち上がったのが、実際に猟に出るきっかけ(笑)。」
――獣害がそんな身近にあったんですね!
「そうですね。今はくくり罠で鹿と猪を狩っていますが、今後は地域の畑での被害が多いハクビシンを獲ろうと思っています。とても美味しいと聞きますし。」
――得意なジビエ料理はありますか?
「猪のレバーペーストは我ながら絶品。鹿をローストしたものも大好きですね。」
と、ここで鹿肉のカツが完成。こちらの鹿肉は、野田さん提供の2歳のメス鹿のシンタマ(内腿あたり)という部位だそう。
一斉に「うまそー!」の声が。ソースは赤味噌ベースとコケモモベースの2種類。早々に一口いただくと…「うんまー!」。同様のリアクションがあちこちで起こります。
お肉が苦手だったみなみさんも「今まで食べたジビエの中で一番美味しいかも」と絶賛。野田さんも嬉しそう。
狩りガールパワーで獲物も可愛く。
お次は調理場で次々とお肉の解体と調理をしている武本奈々さんの手が空いたところを見計らいインタビュー。
武本さんは静岡県伊豆の国市の地域おこし協力隊員。彼女の「獲って食う」きっかけは中学生までさかのぼります。
「『スーパーのお肉って、もともとは動物なのでは?』と思って食肉についてインターネットで知らべました。その時に自分で肉を獲って食べる「狩猟」の世界に憧れてたんです。
その後しばらく、猟師への思いも忘れてたんですが、協力隊員になって役場の方から鳥獣害の被害を聞かされて、自分の中でスイッチが入ったんでしょうね。数か月後には試験を受けて免許を取得して、猟友会に入りました。」
――すぐ猟の現場に出たんですか?
「はい。鳥獣被害対策のために狩りをするのはもちろんですが、自分が食べてみたいから狩るって感じですね、私の場合。」
―― 一般の方に売ったりします?
「販売するには正式な許可を受けた解体処理施設を通さないといけないんです。でもお金がかかるので、施設が足りない。これも問題なんですけどね」
――飲食店で食べられるジビエは数少ない施設を通った貴重なものだったんですね。驚きです。
続いて「これ、鹿の角を輪切りにして作ったんですよ」と見せてもらったのが、手作りの可愛いネックレス。
偏見を恐れずにいうと「これは女性ならではのワザだ」と思いました。
自ら解体した動物を可愛いものや使えるものに変身させるこのパワー。そういえば気になる言葉も飛び交っていて、解体しているお肉を「この子」と呼んだり、「アナグマちゃん」「猪ちゃん」と呼んだり。
狩猟をするみなさんは動物が大好きで愛おしいのが大前提です。「この子がね~」「こないだ獲れたメス鹿ちゃん…」と楽しそうに話す狩りガールズを見ると、あたかも愛おしい我が子について話しているようで、「狩猟は残酷」なんて言葉とはほど遠い世界です。ちなみに後日、武本さんから「100キロ(!)のオス鹿ちゃんをゲットしました!」とのメールが届きました。狩りガールズの動物愛強し!
初心者の方は、わな猟から始めるのもいいかも
会も中盤、「狩猟女子会を野田さんと(武本さんと一緒に沼津で開いて、そこでチーズケーキのバーみたいな骨付きのイノシシの肉にかぶりついたんですよー。それが美味しくて!」と盛り上がっているのはタレントの増田智美さん。
「罠猟の免許を持って1年くらい経つんですけど、まだ実際に狩りをしたことはないんです。」とのこと。
――じゃあここは増田さんにとってけっこう刺激的な場ですよね。
「はい。康代さんや奈々ちゃんにアドバイスをもらったので、さっそく県の猟友会に連絡を取って近くの猟友会に参加してみようと思ってます。で、今からくくり罠の仕掛け方を教えてもらうところなんですけど、見てみます?」
外でくくり罠のレクチャーが始まりました。先生の野田さんも生徒の増田さんも真剣。
「罠って刃がギザギザしてて怖そう」とイメージが先行していましたが、実際の罠は人間には安全なものでした。試しに罠にかかってみます。罠の上を歩いてみるとバネが作動してワイヤーの輪が足にひっかかって取れません。
ちなみに野田さんも増田さんも銃での猟には手を出すつもりはないとのこと。
「猟銃を鍵をかけて置いていたとしても、子どもが誤って触るかもしれません。夫とも銃を使った猟はやらないと約束しています。」
「狩り」といえば「猟銃」というイメージがありましたが、罠猟であれば「私にもできるかも」と思っちゃいました。
美味しいから広がっていく狩猟の世界。
狩猟免許の中でも銃猟免許を持つ人が大きく減る一方、わな猟の免許を持つ人が増加しており、新しく狩猟免許を取る人は7年ほど前から増加傾向にあります。(※)
それは今回の交流会のようにジビエを囲んでワイワイ楽しみ、狩猟の世界に触れる機会が増えているからかもしれません。
それぞれの「獲って食う理由」に共通することは、釣りや山菜採りと同じように「狩り」も「美味しいから食べたい。食べたいから知りたい。知りたいから獲る。」ということ。この純粋な気持ちが食と狩猟の世界を大きく広げています。
最後に私から一つ言わせてください。ジビエは「うまい!」。
(写真:村上岳)
(※鳥獣被害の現状と対策)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/kensyuu/koremade/1_tyoujyu.pdf
山と海と旅と音楽が生きがいです
.HYAKKEIアンバサダー。ライター。世界で死ぬまでに行きたい場所を訪ねる旅、日本百名山の踏破を継続中。道の駅で地場の野菜と地ビールを見かけたら猛ダッシュ。そんな三十路半ばを生きています。