超ド級!という表現がぴったりの景色だ。

足元には広大な青木ヶ原の樹海が広がっていて、地を這う木々が雪をかぶった富士の頂に向かって駆け上がろうとしている。これ以上ないくらいの広大なスケールの眺めだけど、人工物なんてほんの少しも目に入らない。ここ竜ヶ岳の山頂から眺める世界は、地に森と山、天に空と雲だけが存在している。それはもう、ため息しか出てこない絶佳だ。

竜ヶ岳は、大量の笹で覆われている。例年12月になると、新雪に埋め尽くされた笹の緑色が少しだけ顔を出す、真っ白な山頂になる。ちょっと風が強めだけど、この新鮮な冬景色が好きで仕方がない。何度か登ったのも、決まって冬だけなのだからよっぽど気に入ったのだろう。雪をぎゅぎゅっと踏みしめると足裏に気持ちよくて、アイゼンのザクザクした音は耳に心地よい。

この山の名の由来となった“竜”が棲んでいたという本栖湖は、冬になると一層静謐で、人間にとって神秘となる。その畔から日陰の樹林を歩き、やがて明るい尾根道になると、木々の間に富士の姿が現れる。ここからはじまる、竜ヶ岳の山容を見上げながら歩く冬の日向道は、最高に気持ちいい。笹に覆われたふくよかな山腹をジグザグに登る道には、白い雪がついている。あそこを歩いていくのかと、ワクワクするのだ。

単純な道だけど、振り返る度に遮るもののないむき出しの富士山がある。日本人にとっては見慣れたはずの富士山なのに、冬にこの山から見る霊峰は、なんだか崇高な空気を身に纏っていて、いつもとは違った雰囲気が漂うのだ。

竜ヶ岳は、毎年新年になると、ダイヤモンド富士で盛り上がる。富士山頂のど真ん中から昇る正月の朝日を写真に収めようと、多くの人でひしめく。

ぼくはそのタイミングをややはずした、クリスマスから年末にかけた静かな山頂に目がない。人のいない竜ヶ岳の、一面雪の山頂を独り占めできる贅沢。富士山と樹海と自分だけが存在している特別な世界。

年始の朝日もいいけれど、暮れゆく年末なら西日が気分だろう。いつだったか、沈みゆく太陽が富士と樹海を黄色に染めあげる中、無人の竜ヶ岳の頂で一年の振り返りをしたことがあった。大自然に身を置くと、悩ましいアレコレが小さく感じられるからよい。

そういえば、今年最後の山旅をどの山にするか、まだ決めていなかった。こんなことを書いていたら、久しぶりに竜ヶ岳で締めくくるのもいいなと思いはじめている。そうだ、そろそろアイゼンの準備もはじめておこう。

<アクセス>
おすすめする交通手段は車です。中央自動車道「河口湖IC」から本栖湖キャンプ場の駐車場へ。夏季は高速バスあり(要確認のこと)
大内 征

低山トラベラーです。山旅は知的な大冒険!

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大内 征

物語の残る低山里山、ただならぬ気配を感じる山岳霊峰を歩き、日本のローカルの面白さを探究。文筆と写真と小話でその魅力を伝えている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、著書に『低山トラベル』『とっておき!低山トラベル』(二見書房)がある。自由大学「東京・日帰り登山ライフ」教授、.HYAKKEIオフィシャルパートナー。

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