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俳優・田村幸士の若旦那と山登り対談|#02「開化堂」八木隆裕&「金網つじ」辻徹

こんにちは、田村幸士です。
みなさん自然を満喫していますか?

前回の小澤酒造23代目、小澤幹夫さんとの山登りでは、登山家やアウトドアの達人とは違った視点から見た自然についてお聞きすることができ、改めて自然の奥深さを感じることができました。

そしてこの企画連載の関連イベント「山サロン」では青梅市の山を登り、小澤酒造が運営するバーベキュー場『煉瓦堂朱とんぼ』で日本酒とBBQで大いに盛り上がりました。

第2回となる今回は、東京を離れて京都・大文字山が舞台です。

5年越しのコーヒードリッパー

今回のゲストは「開化堂」6代目八木隆裕さんと「金網つじ」2代目辻徹さん。

このお二方と“伝説の焙煎人”中川ワニさんとで、5年の歳月を経て作り上げたコーヒードリッパーが完成したとのことで、実際に山で使ってきました。

開化堂といえばスーっと落ちていく蓋。それはまさに芸術

八木隆裕さんは、明治八年創業の日本で一番古い歴史をもつ手作り茶筒の老舗「開化堂」の6代目。

開化堂の茶筒は蓋を筒に合わせるだけで、みずからスーっと下がって閉まる精密さで有名です。銅と真鍮とブリキの3種類を使用し、使い込んでいくと手の脂などで光沢が徐々に深まっていき自分だけの茶筒になっていきます。

そして現在は茶筒だけでなく珈琲缶も製作。また、『Kaikado Café』をオープンさせ、創業以来の手作りの技法を守りながら当代ならではのアイデアや経験を活かし発信しています。

「Kaikado Café」
http://www.kaikado-cafe.jp/

京都人にとって山は身近な存在

八木「僕自身も自然は大好きです。京都はアウトドアのイメージがないですが、フィールドはたくさんあります。あと京都は季節の節目に行事があって、なかでも祇園祭で土砂降りの雨が降ると夏に変わっていくとも言われています。そういう行事で季節を感じていくのが京都かなと思いますね。

それに、千日通夜祭は愛宕山に全員が登るという行事なので、京都人にとって山は本来身近な存在だと思います。京都に訪れたことがあるなら分かると思いますが、市内は山に囲まれています。自然豊かで、以前は住んでいた山科(琵琶湖側)では、田んぼでカエル釣りをして遊んでいました。そのとき空が青から黒くなっていく時間が大好きでした」

『脇役の品格』を守り続ける、金網つじ

金網つじは2代目の辻徹さんが継ぎ、直営店舗をオープン。プロの料理人だけでなく一般個人のお客様にも手作りの調理器具を届けるようにと、『脇役の品格』という初代の言葉を大切にしています。

京金網の起源は、平安時代にまでさかのぼると言われ、豆腐すくいや焼き網、茶こしなど京料理を支える調理道具を中心として作られています。

伝統工芸も自分の好きなように使って欲しい

辻「 伝統工芸って堅苦しいイメージですが、自分の商品を『こう使ってくれ』という気持ちは全くありません。見た感じ、触った感じのイメージで自分の好きなように使って欲しいなと思っています。

山のなかで感じることもみんな人それぞれですよね。同じルートを通って、気になった物や景色を写真に撮って最後に見せ合ったりすると、きっとそれぞれ何を感じたか違うはずです。その感覚というのが物づくりのなかでも大切なのかなと思います」

そんなお二人と京都の山でコーヒーブレイク

蹴上駅にて待ち合わせ、そこから南禅寺へ。
今では「インスタスポット」としても有名ですが、1291年に開創され、日本全ての禅寺のなかで最も高い格式をもつ別格扱いの寺院です。

美しい新緑と重要文化財の山門へ続く参道を吹き抜ける風が最高に気持ちよく、これからの登山を後押ししてくれます。

南禅寺の横には、観光名所の水路閣があります。
琵琶湖の水を京都市内に引き込むために、1890年(明治23年)に造られたもので、周囲の景観に配慮したデザインで設計されています。飲料水を運ぶだけでなく、船が通る水路としても重要な役割を担っていました。

ここで「インスタ映え」を狙ってパシャリ(笑)。

山に入ると空気が変わる

京都というとやはり寺院や古い町並みなどが注目されていますが、京都全体が山に囲まれ、自然に富んでいる地域でもあります。

一般的な山とは違い、山に入るとお墓が所々に点在し、お線香の香りが歴史を感じさせます。途中には滝行をされている光景も。どこかピンと張りつめた空間が、この山にはあります。

喋ったらあかんヤツだ!

辻さんが終始盛り上げてくれて笑いの絶えない山行です。
しかしこの二人、はじめはこんなにも仲は良くなかったそうです。

八木「17年前に色々な道具屋さんが集まる会があって、そのときに初めて会ったのですが一言も話してないです。頭つるつる、ピアス、ピンストライプのスーツ、セカンドバッグ。“しゃべったらあかんやつだ”と思いました(笑)」

辻「僕が家業を継ぐと決めたばかりの頃で、当時は伝統工芸の人と価値は合わないなと思っていました。それまでアパレル業界にいて、その名残があったのかもしれませんね(笑)。ちょうど仕入れたものを売ることに飽きてきて、そんなとき家に帰るといつものように物づくりをしている父親の姿がある。それを見たら、今までずっと嫌だった姿が自分で作ってお客さんに売るっていうことが凄く楽しいのではないかと思いはじめた頃ですね」

と、当初はお互い意見が合わず、バチバチしていたとか。

その後、いろいろと偶然の出会いが重なり、いまではクリエーティブユニット 『GO ON』を立ち上げ、伝統工芸を世界に発信し、若い後継者育成など京都発信で世界から職人が集まる環境作りをするまでに。

歩きながらそれぞれの「職人観」についてお聞きしました。

自分の為に作るのではなく、使う人の為に作る

八木 「僕は基本的には職人として作っているけれど営業の動きもしています。継ぐ時に父に、僕らは“職人”じゃなくて“職商人”にならなくてはいけない。作っているだけじゃダメ、売らなくてはいけないと言われ、また伝えるということも大事だと教わりました」

辻「八木さんの言う通り、今の職人は作るだけではダメなんです。お客様の手元にまで届ける、そして傷んだものを修理するその一通りができて職人と言われています。世の中に分業があるように、作る側、売る側がある。そこは否定しないけれど、未来像を持っている人は、しっかりと伝えていかなければならない」

八木「日本には色々な職人さんがいますが、やはり京都の存在というのは特別だと思います。僕らの物作りは、父や祖父など先代を背中に感じながら、自分の為に作るのではなく使う人の為に作っています」

熱い話しを聞きながら、山頂へ到着!

あの『大』まで歩いて登れます

そして今回は大文字山の火床にて休憩です。先日、行われた京都の伝統行事「五山の送り火」。あの「大」の字が灯る有名な場所です。

実際に登れますし、行ってみると大きい!「大」の一画目が80m、二画目が160m、三画目が120m。
これだけ大きいと京都の町からも見えるのが納得します。視界が広がっているので京都の町を大パノラマで眺めることができる最高のスポットです。

山頂でゆっくりコーヒータイム

いよいよ今回のメインイベント、「野点珈琲」。

アジが出ている珈琲缶、ケトルなど、置いておくだけで絵になります。5年の歳月をかけて作られたコーヒードリッパー(写真左から2番目)の美しい佇まい。

辻さんの作る金網はどれも丁寧で見惚れてしまいます。

八木さんが丁寧にコーヒーを淹れます。
その間、辻さんは小休憩(笑)。

このドリッパーは淹れ方で味が大きく変わっていきます。

プロが淹れればプロの味、素人が淹れれば素人の味になる道具を作ろう

八木「8年前に中川ワニさんと出会い、開化堂で珈琲缶をつくったときに“多くの珈琲道具があるけれど、かっこいいのが無い。京都の職人さんなら作れるんちゃいます?”というのがきっかけで、“プロが淹れればプロの味、素人が淹れれば素人の味になる道具を作ろう”という提案から始まりました。

始めは僕の言葉も軽かったせいもあったのか“文化にならん”と断られまくりましたが、辻くんに相談し『道具』としてのドリッパー製作をお願いしました。

ドリッパーの構造が5mm違うだけで味は全く変わっていきます。
このドリッパーはお湯がまっすぐ下に抜けていくように作られ、自分でドリッパーの中に“お湯を溜めていく”という意識を持ってお湯を注がなくては中の味がしっかり出ない。 そして途中から自分がお湯を抜きたいタイミングで抜けられるように作ってあります。

道具を道具として使わないといけないようになっています。それが僕ら作る意味ですからね」

辻「道具は本当に奥が深いです。 問題をひとつ消したらひとつ直って、でもひとつ消したらまたひとつ新しい問題ができる。この繰り返しですね(笑)。

“トレンドではなく、ずっと残って使い続けられる道具を作ろう”と言われ、ハードル高いこと言いはるなあと思いました(笑)。何回も何回も作り直し試行錯誤して5年、ようやく中川ワニさんが『これイイね』って言ってくれました。今は1人前分ですが、まもなく2~3人分のドリッパーも作っていきます」

田村 「突然ですが、アウトドアグッズ作れませんか!?」

八木「できると思いますよ!茶筒は2重構造になっていてそこに水分が入ってしまうといけないのですが、2重にしなければ良い。ウォーターピッチャーも作っているし色々可能性があると思います。

また新ブランド【k】を立ち上げるために動いています。様々な職人がいろいろな物を作ることができる工房をつくりはじめています。

じつは伝統工芸の学校で鍛金を習っている人たちの働く場所がないのも現状です。そういう人たちが働ける場所や職人としての社会の流れの仕組みをしっかりと作り上げたいですね。そうすることで工芸の価値を世の中に伝えられ、職人になりたいという人が全国、全世界から集まってくるかもしれません」

八木「だから工房には泊まれる場所を用意して、この工房で情報を共有してそれぞれが持ち帰ったりするサロン的になものにもなれば良いなと思っています。そのなかにはアウトドアアイテムを作る職人も出てくるかもしれません。【k】は、そういうことをやっていきたく、僕だけでなく若い職人の意見もどんどん取り入れていきたいです」

辻「島国だからこそ横の繋がりを大事にして、僕らがやっている『GO ON』は職人にとってのお寺みたいになれたらいいなと思います。先日、淡路島のお寺に行ったときに、おじいちゃん、おばあちゃんが集まって、一生懸命手を合わせていました。そこには亡くなった人の魂もあって、人生の喜怒哀楽がお寺を通して共有しているように見えました。その寺は思いを寄せて合うことができるとすごく分かりました。

八木「そういうこともあって“I”ではなく“WE”の感覚です。横軸では使ってくれる方との“WE”、縦軸では先代や子孫との“WE”。でもその二つの“WE”だけじゃなくて、小さい“I”が無いと、今の時代のアジャストできていないという感覚もあります。“W”と“E”のあいだに小さい“i”があるくらいの感覚の「WiE(ウィー)」だと思います」

田村「お二人の活動や志しが詰まったコーヒードリッパーなんですね。また今回で京都の自然のポテンシャルは高いと感じました。街からすぐに行けるし琵琶湖も近い。今度【k】キャンプもやりましょう!」

八木「是非!」

「継ぐこと・守ること・変化すること」

田村「数年前から八木さんや辻さんとお話させていただいて、伝統工芸や職人へのイメージが大きく変わりました。結局、生きているのは今。その今をあらゆる角度、視点から体験して、感じる。そしてそれに『伝統』と『らしさ』を融合して物づくりをされているなと。なんか矛盾した言葉になりますけれど『最先端伝統工芸』みたいですね(笑)。

役者は『継ぐ』という必然性はないのですが、わたしも30歳目前にして父、伯父、そして祖父と同じ仕事をすることにしました。そのなかで役者としての『田村家らしさ』と個人としての『僕らしさ』との差を感じることが多々あります。そして『田村家らしさ』を裏切らないように「僕らしさ」を出さないようにしていることもあります」

八木「田村さんもそうですが、我々は背中に大きなものを背負っています。
前にジャンプしても後ろに引っ張られるようなことが内因的にも外因的にもよくある。だから全力で思い切りジャンプして、引っ張られて着地した地点がちょうど良いくらいだと思います。だからつねに思い切りジャンプしようと決めて活動をしています。

けど、ふと気づくと父や祖父と同じ事を考えたり同じ行動をとっていたりします(笑)。
ジャンプしても結局同じところに勝手に戻ってくる。そうやってちゃんと戻れる自分があると分かったら、安心して思い切りジャンプして見える景色や経験が広げたほうが良いと思っています」

田村「そうですね。職人とか俳優だと『らしさ』というのが見えやすいけれど、全ての家族に『らしさ』があると思います。たとえそれがフワっとしたものだとしてもそれを感じることができれば、ちゃんとそこに自然と戻ってくることができる。そうすれば思い切りジャンプすることが不安になれずにいられるような気がします」

八木「戻る場所に気づけるかどうかなんだと思います。誰でもその家の『らしさ』は絶対にあります。その『らしさ』というのは地域にもあって、京都市にもあって、日本という国にもある。
そして『自分らしさ』と向き合い感じられるようになると相手のことが認められるようにもなる。そして辻くんのことも尊敬できるようになった。だから今があります」

遠い未来の人にも使ってもらいたい

八木「色々な取材を受けるようになって、メディアでは良い面ばかり取り上げてくれます。でもそうすると伝統工芸というものが神格化されてしまっているような感覚もあるんです。

僕だって父親とも喧嘩するし失敗することもある。その中での積み重ねがあって今があるわけであって、だから僕はそういう失敗やダメな部分を話すようにしています。なぜなら伝統工芸品は目の前に置かれるものであって神棚に置かれるものではありません」

八木「みなさんと日常と我々の日常は一緒。我々は『らしさ』というものをすごく考えるけれど、みなさんも同じように考えるときもあるはず。で、そういう考えはこれからの時代とても大切なんじゃないかなと気づいてくれたら嬉しい。

そして職人を『伝統の技法を使って作る』という視点ではなく『今まで積み重ねられてきたものを、遠い未来まで世の中に残していく』ということに対して一生懸命考えてものを作っているという風に見てもらうことによって、職人の価値というものがきちんと伝わるのではないかと思っています」

取材を終え、思うこと

伝統工芸品というと<古い><機能的では無い><使いづらい>というイメージを持っているかもしれません。

しかし、八木さんや辻さんのように伝統を守りながら現代にアジャストしていく発想や受け皿を持つ職人が増えてきていると思います。大量消費・使い捨て社会の今、長く使えば使うほどアジや価値が出てくる伝統工芸品を使うことは自然環境に対してひとつの思いやりにもなります。

そしてなにより、日常の身の回りに「本物」があることで心が豊かになることは間違いありません。開化堂の茶筒から茶葉を出す。その作業からすでにお茶の時間が始まり楽しくなります。金網つじの焼き網で食パンを焼いているときも、網目状の焼き跡が綺麗にできるのを楽しみながら待つ。そんなひとときが僕にとってとても大切な時間になっています。

伝統工芸品は飾って眺めるものではない。
使うもの!

もし行ったお店で伝統工芸品がありましたら是非手にとってみてください。

(写真:羽田 裕明

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