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俳優・田村幸士の若旦那と山登り対談#01|「小澤酒造」23代目小澤幹夫

はじめまして。田村幸士です。普段は役者業をしております。
今回より.HYAKKEIさんとご一緒させていただくことになりました。

テーマは「伝統工芸・産業とアウトドア」です。

一見、日本が誇る職人とアウトドアって縁遠いイメージがあるかもしれませんが、よく考えてみると伝統工芸・産業は電気が生まれる前から存在しています。つまり四季や気候の影響を受け、職人たちが試行錯誤し、自然と共存・活かしながら伝統と言われるものになってきました。そして木、土、水など自然そのものを素材としているものがほとんどです。

東京にも酒蔵は9箇所もある

第1回目のゲストは小澤酒造、小澤幹夫さん。

「澤乃井」で有名な小澤酒造は東京都に9つある蔵元のひとつ。小澤さんで23代目となります。
小澤さんとは昨年の秋より仲良くさせていただいていますが、それまで澤乃井が東京で作られていることも知りませんでした。そして東京に蔵元が9つあることも知らず……小澤さん、ごめんなさい。

今回は小澤酒造からほど近い御岳山に登ります。
奥多摩エリアは関東平野の西端、秩父多摩甲斐国立公園内に位置し、50を超える山があります。そして多くの渓流が存在し、東京のオアシスとして東京近郊以外からも多くのハイカーや観光客が訪れます。

御岳山の麓、滝本駅からケーブルカーで一気に登ります。

幼少時代、山で秘密基地を作る

関東一の急勾配ケーブルカー。山頂が近づくにつれ自然とテンションが上がります。
ここで、小澤さんが山と触れた古い記憶について聞いてみました。

「住んでいる場所がこんな感じなので、登山というよりも裏山に遊びに行く感覚で学校帰りに男友達と秘密基地を作りにも行っていました。その後、ある程度大きくなってからは家族でも登山をするようになりましたね。父と姉と登って道に迷って遭難しかけたり(笑) 。姉は結構ストイックなので、本格的な雪山にアイゼンを履いて登り、山泊もしています」

やはりこの辺りの山を登ることが多く、お気に入りは雲取山。景色が目まぐるしく変わるので飽きず、東京で一番高いので達成感もあるそうです。

御岳山駅に到着。低山ながらも気温が一気に下がります。

江戸時代初期、1600年頃にできたと言われている御師集落を抜けていきます。

武州御嶽山神社の創建は崇紙天皇の時代と伝えられ、盗難除け、魔除けの神「おいぬ様」として親しまれてきました。じつはお犬様のモチーフはニホンオオカミ。現在では愛犬を連れて訪れる方も多くいます。ケーブルカーには大型犬も同乗できるのでオススメです!

参道に並ぶ売店。こういうレトロな眺めは素敵です。

登山道に入る前に、手水舎で清めて鳥居をくぐります。

この写真だと完全に本殿のほうに向かっているように見えますが、今回は境内へ進まず、その先から伸びる山道を進みます。

登頂が目的ではなく、お酒との関りが深い『水』のある場所へ向かいます。まず最初に目指したのが七代(ななよ)の滝。この周辺は真っ直ぐ高く伸びた木々が多く、雰囲気が抜群です。

撮影当日は、東京にいるとは思えないほど気温が低く、陽が当たらない場所は残雪が多く残っていました。登山靴でも滑る場所が結構あるので、残雪期は軽アイゼンを持ち歩くのが良いです。

そして七代の滝に到着。
落差50mの大小8つの滝で構成されていて、ここで見られるのは下から4段目の滝です。
滝の所々が凍っていることで、とても美しく輝き、滝壺に落ちた水は濃くも透明な青色に。

時が止まったかのように、二人はしばらく沈黙し、ただただ景色を眺めていました。

日本酒と水の深い関係性

日本酒の原材料は水、米、米麹です。なかでも水は割合の半分以上を占めています。それだけ水は重要で、味や香りなどにも影響を与えます。

「もし使っている井戸が枯れてしまい別の水を使ったとしても、日本酒は作れても全く違うものになってしまいます。つまり澤乃井ブランドは一旦終わらせなきゃいけない。そして井戸が枯れる可能性はゼロではありません。もしかしたら来年そうなってしまうことだってありえます」

奥多摩湧水仕込みの日本酒を奥多摩で飲めることは、この上ない贅沢です。
よくよく考えてみると、普段飲んでいるものってどこの水が使われているかって知らないですよね…

ロックガーデンで休憩。
澤乃井は運動後でもスーっと飲めてとても美味しかった!

(↑酔ったワケではありません)
登山と日本酒。日本人として最高の組み合わせ。

「お酒づくりは自然が相手で誤魔化しが効きません。自然ありきの商売と登山はどこか似ているのかもしれませんね」

赤穂浪士討ち入りの年に創業する

下山後、小澤酒造にお邪魔しました。

(蔵元の歴史の話)
創業はなんと元禄15年(1702年)!
元禄15年といえば、忠臣蔵の赤穂浪士討ち入りです。教科書レベルの歴史ですね(笑)。もともと小澤家は林業を生業とし、材木を江戸へと多摩川を使って流していました。そんななか7代目が新規事業を起こします。この地域の水が綺麗ということもあって酒造りを始めたのです。いまでいう「カリスマ経営者」です。ここ青梅市沢井というところは、綺麗な水がたくさんあるから沢井という地名となったそうです。小澤酒造のアイコン的な日本酒「澤乃井」はこの地名が由来です。

蔵の入口。「平成蔵」、「明治蔵」、そして創業当時の元禄時代に建てられた「元禄蔵」の3つがあります。見学ツアーも毎日開催されています。

蔵内に保存されている古酒「蔵守」。圧巻!!!
日本酒は無色透明に近いですが、時が経つと綺麗な琥珀色になります。熟成の度合いが分かるように透明な瓶を使用しています。

お酒の仕込水として2種類(軟水、硬水)の水を使っているのは、日本でも珍しい酒蔵です。

「ひとつは、170年ほど前に酒蔵の裏に掘られた140mにもおよぶ横井戸から引いています。高水山の秩父古生層を伝って出てくる石清水は<腐造知らずの水>と呼ばれ、ミネラル分の多い中硬水で酒造りに適しています。<東京の名湧水57選>のひとつにも選ばれています。
もうひとつは、多摩川を挟んだ山あいの中から水を引いています。小澤酒造はもともと林業やっていたので山も持っていました。そこに水が湧いているのを知り、調べてみたら良質な軟水。小澤酒造の可能性を広げられるのではと25年前くらいから引いています」

ひとつ川を挟んだだけでもお水の質って全く変わるんですね。

「ミネラル豊富な硬水は日本酒を作ると発酵が早く進み、重たいお酒、しっかりしたお酒になります。昔ながらの伝統製法、『生酛造り』という菌まかせの作り方も硬水の方がハマります。軟水だと発酵経過が緩やかなので非常に透明感がある綺麗なお酒に。女性っぽい、艶っぽい味になる傾向があるのでオシャレなグラスで飲むと雰囲気も増して、お酒が進みます」

もともとは硬水のみで作っていましたが、現代の嗜好に合わせて軟水にシフトしてきたそうです。

酒蔵販売のみの日本酒も並ぶ

澤乃井園では「きき酒処」もあり、1杯200〜500円で常時10種類程度のお酒を用意しています。新酒の時期は種類も豊富で、ここの売店でしか買えない「亀口酒」がありました。こりゃ絶品です。

昔は流通網がないので、遠く離れた土地の料理を食べることはできませんでした。そもそも日本酒は、その土地の食材のみで作った料理に合うように作られています。地産地消というワードをよく耳にしますが、本来は地産地消に地飲を付け加えものがあるべき姿なのかもしれません。
また東京蔵元の特徴として、中辛・すっきりな傾向があります。これはマグロのヅケ、佃煮、醤油ベースの塩味を利かせた料理が多い東京の食文化に合わせたからだそうです。

利き酒では写真のような底に青い丸が書かれたお猪口が使われます。
この青い丸はデザインではなく、お酒の透明度や着色の様子を確かめるためです。注いだお酒を通して、この青い丸がどのように見えるかでお酒の出来を判断するのです。

小澤さんに効き酒の仕方を教わりました。


1. 色を見る
2. 香りを嗅ぐ
3. 口に含み中で転がして、粘り気や味を感じる
4. 口に含んだまま空気を吸って、香りの抜けを感じる

この<4>をやってみると鼻で嗅ぐよりも香りが口の鼻の中に広がって凄いです!これは居酒屋でも是非やってみてください。

自然と一緒に300年、歩み続ける

小澤さんにとって小さい頃と今では、山との関係性が変わってきているのではないでしょうか?

「小さい頃は山はただ楽しいという感覚で遊んでいました。しかしこの仕事を始めてから思うことは、日本酒作りにおいて水、気候、湿度、気温は発酵経過に大きく影響されます。300年間、この沢井という地の自然を受け入れ、理解し、共存することで『澤乃井』というお酒が生まれました。
だから、とりまく自然環境を守っていかなきゃいけないという蔵元としての使命感はありますし、自然を守ることは、巡り巡って小澤酒造の歴史と蔵を守ることになると思っています。そのためには頭で理解するだけでなく、こうやって実際に自然の中に身を置かないとダメですね」

300年続いている小澤酒造です。それだけ歴史があると守ることばかり気にしてしまい、新しいことに挑戦するのに不安や障壁はあったりしませんか?

「伝統を守るということは大切です。しかしビジネスとして流行に乗ることも大切です。その中でいつも大事にしていることは、“流行に乗ったとしても、流行に迎合はしない”ということです。流行を敏感に察知して取り入れたり反映することは大切ですが、頼り切る、依存することはよくないと思っています。小澤酒造としては酒屋さんとの関わりが大半ですが、それに縛られず、日本酒が好きなお客様と、そして今回のように自然が好きな皆様とも直接関わっていきたいです」

自然と街を繋ぐことが大切

僕自身、常日頃思うのは「街の周りの自然があるのではなく、自然の中に街がある」ということです。
だから街は自然の影響を受けるのは当然ですし、これからだって想定外のことが起きる可能性は充分にあります。
しかし自分たちが心地よく過ごせるのは当たり前と思い込み、それを邪魔する大雨や大雪を自分にとって「害」と見立てて、見て見ぬ振りをして受け入れない。そして結局同じ過ちを繰り返しているように思えます。

東京には奥多摩という簡単に行ける自然の宝庫があります。
東京近郊のみなさんは是非仲間と訪れて自然を感じてみてはいかがでしょうか。

いま大切なことは、街と自然を繋ぐこと。
小澤酒造がその拠点となる日が楽しみです。

あの時のワンカップを忘れない

僕自身の話になってしまいますが、以前、武尊山でバックカントリースキーをしたときの話です。雪に埋もれた避難小屋を掘り起こし一泊することになりました。決して遭難ではないです(笑)。そのとき、お湯を沸かし、ワンカップを入れて熱燗にしました。お茶やスープとは違う「温かさ」を芯から感じて、本当に美味しかったです!また今回の撮影で、自然のなかで日本酒を飲む楽しさを再認識しました。この日本酒のポテンシャルをもっとアウトドアに広げることはできないだろうかと思います。ビールや焼酎にはない可能性を秘めています。

そこで、小澤酒造さんご協力のもとイベントを開催いたします。
日本酒ファンだけが集まる場所じゃなく、自然が好きな人も集まり、日本酒と自然が交わる場所となれば楽しいことがたくさん生まれると思います。

本企画をより深掘る『山サロン』Vol.1を4/21(土)に開催決定!

.HYAKKEI「山」サロン ~文化から触れる山のこと~

▼コンセプト
自然の中で文化とともに生きる人を通し、触れて感じる、山の話。
産業やカルチャー、芸能などから知る、山や自然のあれこれ。
少数限定の特別なひとときを、特別な場所で過ごします。

▼第一回
「雪解けの季節、酒解きの山神を語る(桜と酒と山の神と)」

酒造家:小澤幹夫(若旦那)
芸能家:田村幸士
山旅家:大内征(兼進行)

酒蔵の若旦那、俳優、低山トラベラー。
活動領域が異なる3人の「自然ビト」たちとともに、酒を酌み交わしながらゆるりと山の話をしませんか。桜咲く東京の奥座敷で、お待ちしております。

▼日程
4/21(土)
0930 沢井駅集合~即清寺、八十八カ所巡り
1300 朱とんぼで日本酒とお昼ごはん
1500 終了、解散

▼参加費
4000円(以下Peatixページから事前申込み)
https://yama-salon1.peatix.com/
日本酒振る舞い、おつまみ(酒にあう肴)付き

▼定員
20名限定
(少数のサロンのような感じで、特別な時間を)

===link@お申込みはコチラ@https://yama-salon1.peatix.com/===

<澤乃井>

・所在地
〒198-0172
東京都青梅市沢井2-770

・TEL/FAX
0428-78-8215

・公式サイト
http://www.sawanoi-sake.com/

・公式Facebookページ
https://www.facebook.com/sawanoi.sake

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