アウトドアで飲むのが好きな仲間と一緒に、SOTONOMOという酒飲みユニットを細々と運営している。四季折々の自然を感じられる最高のロケーションに出かけ、その時の季節や天気、時間帯にフィットする極上のお酒を選び、グラスを重ねる。ただそれだけを追求するユニットだ。
 だって、バーで飲むのもいいけれど、アウトドアの一杯は格別だ。夏の夕暮れどきは、茜色から群青色へと見事なグラデーションを描く夕焼け空をグラス片手に楽しめるし、寒い冬は焚き火にあたりながら、パチパチと爆ぜる薪の音に耳を傾け、お湯わりやホットカクテルをいただく。ふと見上げれば頭上には満点の星。あまりの星の数に酔いが回ったら、ほんの目と鼻の先に設営したテントに潜り込めばいい。虫の鳴き声、風の音、大地の硬さ、シュラフの中の暖かさ、テントと自分を丸ごと包みこむ宇宙を感じながら、いつの間にか眠りに落ちる。

 アウトドアで飲むことが好きな仲間が集まっているので、「打ち合わせ」あるいは「視察」と称しては山や海、渓谷、島に出かけ、テントを設営し、あとはただひたすら飲んでいる。そんなことを続けるうち、ユニットを運営するための大義名分が必要になってきたので、たまにイベントも開催するようになった。私たちはお酒とロケーション選びのセンスはあるのだが料理に関してはからきしなので、イベントに際しては料理上手な誰かを招いてとっておきのペアリングを披露してもらう。イベントといってもただそれだけの内容なのだが、アウトドアとお酒というキーワードで興味を持ってくれた人たちと少しずつ繋がってきた。

そんな、SOTONOMOの良き理解者にして協力者の一人が、マルスウイスキーのマスターブレンダー、竹平考輝さん。マルスウイスキーは中央アルプスの木曽駒ケ岳山麓にあるマルス信州蒸溜所で造られるウイスキーだ。

ちなみにマルスの生みの親は、『マッサン』で知られる竹鶴政孝さんをスコットランドに送り出した岩井喜一郎さんである。ジャパニーズウイスキーは、マッサンが岩井さんに提出した通称「竹鶴ノート」を基に開発されたものだが、その竹鶴ノートを手にした岩井さん自らがポットスチルを設計、それで蒸留した原酒を元に誕生したのがマルスウイスキーなのだ。

以前、マルス信州蒸溜所を見学した時、木曽駒ケ岳を見上げるロケーションに惚れこんだこともあり、竹平さんほかマルスウイスキーのスタッフを誘ってキャンプを企画した。題して、「マルスキャンプ」。場所は蒸溜所にほど近いプライベートな敷地で、今回のために特別に使用許可をいただいた。目の前には木曽駒ケ岳が悠然とそびえ、それを水源とする太田切川が滔々と流れている。太田切川で水遊びをしながらテントやタープを設営し、駒ケ岳の向こうに夕日が沈むのを眺めながら焚き火を起こす。

 SOTONOMOではお酒を飲む際のテーマに「その土地の風土、気候」を掲げているので、主役のお酒も副材料も料理も、可能な限り地ものを揃えるよう心がけている。「マルスキャンプ」のすごいのは「キロメートル・ゼロ」を謳えるほどの風土感を味わえること。まずは、ウイスキーと「モルトつながり」ということで、ビールで乾杯する。蒸溜所内にあるブリュワリーで造られている「南信州ビール」は中央アルプスの雪解け水を含む地下水を使って醸す地ビールで、ラインナップはゴールデンエール、アンバーエール、デュンケルヴァイツェンなど。ビールに続く主役のウイスキーは、中央アルプスに連なる越百山から名付けられた「越百」と、「岩井トラディション」のワインカスクフィニッシュ。どちらのウイスキーも中央アルプスの自然をモチーフにしているのが、このエリアならではと言えるだろう。

縦走時のテントで、キャンプで、普段からお世話になっている「越百」はタイプの異なるモルト原酒を合わせたヴァッテド・ウィスキーで、ほのかなスモーキーフレーバーとハチミツを思わせる甘い香りのコンビネーションが楽しめる。これを水割りやロックでいただく。今回は仕込み水に使っているという中央アルプスの伏流水を分けていただき、水割りを作る。たったそれだけで、慣れ親しんだ味がとてつもなく贅沢に感じるから不思議。

併せてテーブルに並べたのは、「岩井トラディション ワインカスクフィニッシュ」と甲州ワインの「甲斐ノワール」。「岩井トラディション ワインカスクフィニッシュ」は、ブレンデッド・ウィスキーのレギュラー商品「岩井トラディション」を、赤ワインの熟成に使われた樽で一年以上追加熟成したもの。柔らかい口当たりのウイスキーに、赤ワインのタンニンや旨味が深い余韻を醸し出す。こちらはロック、水割りに加えてホットウイスキートゥディでも楽しめる。一方の「甲斐ノワール」は、山梨県にあるマルス山梨ワイナリーの赤ワインで、ブラック・クイーンにカベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせたブドウ品種、「甲斐ノワール」で醸造、樽熟成させたもの。「岩井トラディション ワインカスクフィニッシュ」とは、同じ樽が育んだ、いわば義兄弟のような間柄にあり、樽つながりの飲み比べをしてみたかったのだ。

「いいスープは、いいぶどう酒のようにいろいろな味が次から次へと少しずつ滲みだしてくる」と言ったのは開高健だが、いいウイスキーもしみじみと味わっているうち、いいスープのようにさまざまな味が絡み合ってくる。モルトのおおらかな甘み、熟した果実のようなふくよかな香り、寝かせているうちに樽からウイスキーに沁みだしたスモーキーなフレーバー。アウトドアで飲めばこそ、そうした味わいや香りの情報をダイレクトに受け止められるよう。

 そうしてグラスを片手に、焚き火を囲んで竹平さんのウイスキートークに耳を傾けるのだが、その焚き火にくべたのはなんと、廃棄処分になったウイスキー熟成用の古樽!竹平さんが蒸溜所から特別に持ってきてくれたものだ。現在は樽自体が入手困難で廃棄樽は滅多に出ないというから、なんとも贅沢な焚き火である。焚き火からは心なしかウイスキーの芳しい香りが漂ってきて、その香りだけでほんのり、酔い心地に誘われる。

眼前には夜空にくっきりと浮かび上がる駒ケ岳のシルエット。BGMは太田切川の水の流れ。星空の下、焚き火とスモーキーなウイスキーの香りに包まれた夜。こんな奇跡のようなマッチングが生まれるから、アウトドアで飲むお酒は最高なのだ。

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この記事を書いた人

倉石 綾子

フリーライター。旅、お酒、アウトドアを主軸にした記事を雑誌やウェブメディアで執筆する。飲み友だちと共に、アウトドア×日本の四季×極上の酒をコンセプトに掲げる酒呑みユニット、SOTONOMOを主宰。現在の遊びは夏場のトレッキングとマウンテンバイク。冬はバックカントリースノーボードと最近始めた雪板、少しだけ雪山登山も。

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