近年、改装してより快適に過ごせるように進化した山小屋が増えているのをご存知ですか?意図は山小屋によって様々で、ただ古いことや劣化だけが理由ではないのです。ある意味“次世代”とも言える山小屋にお邪魔して、改装にまつわるお話を聞く新連載がスタートします。

第一弾は、南アルプス・甲斐駒ケ岳、仙丈ケ岳の玄関口、北沢峠にある『こもれび山荘』。小屋内はぬくもりのある木材に囲まれ、薪ストーブがぱちぱちと音を鳴らす心地よい空間。こもれび山荘は、いつ、どんな経緯で改装したのでしょうか? 直撃訪問してきました!

【山小屋DATA】
山小屋の名前:北沢峠・こもれび山荘(旧・長衛荘)
山域:南アルプス
収容人員:110名

【改装DATA】
改装した年:2015年
改装したところ:1階の客室すべて、トイレ、カウンター、ホール

山小屋は我慢しなくていい。だから少しでも快適にしたかった

――どこか安堵感が漂っていて、まったりしたくなる雰囲気ですね。改装したところはどこですか?

改装したのは、おもに1階部分の客室スペース、トイレ、カウンター周り、ホールです。2階にも客室があるので、いずれは2階にも手を付けたいと思っていますが、やりたいと思ってもなかなかクリアできない課題があるんです。この小屋は伊那市の持ち物なので、まずどうして改装したいのかを理解してもらう必要がある。それに、、予算の確保はもちろん、消防法の兼ね合いもあるんです。

――思い立ってすぐにできるわけではないんですね。どうして改装しようと思ったんですか?

もともと客室は、仕切りのない雑魚寝スペースでした。でも、雑魚寝ってキツくないですか? 少なくともソロテントくらいのスペースがあれば、少しは快適になるだろうなと思ったんです。

加えて、うちには更衣室がひとつしかないので、とくに女の人は着替えたり、体を拭いたりするのが大変ですよね。でも、仕切りのカーテンがあれば、それを解消できる。それに、運営サイドとしても一個一個区切りになっていた方が案内も楽なんです。

山小屋は我慢しなくていい。だから少しでも快適にしたかった|「「我慢しなくていい山小屋を作りたい」南アルプス・こもれび山荘」の6枚目の画像

それに、慣れない環境でなかなか眠れない中、体育座りで座っているのは辛いじゃないですか。仕切りがないと周りに気を遣って本も読めないし。眠れないのは一番体力を消耗すると思うので、少しでも小屋の中を快適にしたいと思ったんです。それがキッカケですね。

――なるほど。利用する側、運営側、双方にメリットがあると。確かに、周りの目を気にしないで着替えられるのはとてもありがたいです。

それぞれのスペースにはライトも付けました。これなら気兼ねなく本を読めるし、作業もしやすいですよね。

――すごくユーザー目線ですよね。実際、竹元さんもユーザー側だったのでしょうか?

いや、実は山小屋には一度も行ったことなかったんです。昔はとくに快適な山小屋なんて少なかったですから、泊まろうという考えにはなりませんでした。なので、これまでの経験というよりは、縁あって自分が管理人になってみて、ここの現状に満足できなかったからかもしれません。頑張れば快適にできるのに、そうなっていなかった。改装の根本的な理由を言ってしまえば、自分が嫌だったことにあるかもしれません。

――これまで山小屋に行ったことがなかったというのはびっくりです!

自分の入っていた山岳会がテント泊メインで、自力でなんとかする風習だったので、山小屋は使わない習慣になっていました。それに、過去に山小屋の人に怒られたことがあって、怖いイメージが根付いてしまってたんです。その経験もあったので、山小屋は怖くない、ユーザーフレンドリーな場所にしたいと思いました。

――ところで、こもれび山荘は伊那市の持ち物とおっしゃっていましたが、竹元さんが管理人とはいえ、市が絡んでいると改装したいと思ってもなかなか説得するのが大変だったのでは?

そうですね、提案してから工事に至るまで、実際1年半以上かかりました。まずは提案が通ったところだけを改装した感じですね。トイレの数も増やしたくて、今プレゼンしているところです。100人規模の小屋にしては少ないんですよ。お客さんのインターフェースになるところだけでも、まずは変えていきたいと思っています。山小屋だからって、すべてにおいて我慢する必要はないんです。

もちろん、なかには我慢しなくちゃいけないところもありますけど、そうじゃないところだってある。とくに、寝床は我慢しなくていい。これはこもれび山荘のケースですが、小屋の立地などによって条件が変わることもあります。

山小屋メシに絶大なる自信アリ!

――改装にはどのくらいの期間を要しましたか?

客室は1ヵ月くらい。ここは大工さんにやってもらってます。広くしたカウンター周りは、10日間くらいかけてスタッフで作りましたね。ホールも自分たちで手を加えました。

山小屋メシに絶大なる自信アリ!|「「我慢しなくていい山小屋を作りたい」南アルプス・こもれび山荘」の3枚目の画像

――改装後、お客さんの反応はどうでしたか?

「建て直したの?」って聞かれるくらい、驚く方がいらっしゃいましたね。昔は小屋の照明が煌々とした蛍光灯で、会議室みたいだったんです。そこから暖色のLED電球に変えたので、そういった背景も踏まえると前とはずいぶん雰囲気が違っています。

――提供している食事にもこだわりがあるとお聞きしました。

うちが美味しい料理を作って出すっていうのは、稜線にある小屋と違って、景色がいいわけでもないし、小屋の設備的にもほかの大きな山小屋と比べるとそれほどよくないので、ご飯だけでも美味しいものを食べてもらいたい。そういった思いがあります。

――メニューも変えたんですか?

はい、一新しました。僕はほとんど料理ができないので(笑)、料理長任せです。僕は希望を言うだけで、基本的には料理長が考えてくれています。ランチメニュー(*1)のイチオシは、スープカレーですね。最近はこもれびラーメンも人気がありますよ。

*1 ランチ営業時間内であれば、宿泊者でなくても食べられるメニューのこと

――お! 地ビールもありますね。

南信州のアンバーエールです。山小屋で地ビールの“生”を出しているところってなかなか珍しいと思いますよ。もしかしたらうちの小屋だけかも(?)しれないですね。

山小屋メシに絶大なる自信アリ!|「「我慢しなくていい山小屋を作りたい」南アルプス・こもれび山荘」の18枚目の画像
山小屋メシに絶大なる自信アリ!|「「我慢しなくていい山小屋を作りたい」南アルプス・こもれび山荘」の20枚目の画像

小屋のアイデンティティーは、「新しいことをやり続けること」

――もともと、こもれび山荘は「長衛荘」という屋号で営業されていましたよね。改名に至った経緯についても教えてください。

もともとは、山荘を運営している伊那市が名前を変えたいということで、公募して決めることになりました。それが2013年のことです。たくさんの応募をいただき、そのなかから「こもれび山荘」という名前になりました。

小屋のアイデンティティーは、「新しいことをやり続けること」|「「我慢しなくていい山小屋を作りたい」南アルプス・こもれび山荘」の3枚目の画像

――今後の展望はありますか?

改装は引き続きしていきたいですが、面白いイベントをここで開催していこうかなと思っています。暇な時期は待っていてもお客さん来ないし、だったら自分の楽しいことやろうって思って。そうすると、普段山に来ない人も、うちだったら歩かなくてもいいし、アクセスしやすい。

うちの小屋のアイデンティティーは、新しいことをやり続けること。僕は小屋の管理人としてもまだまだ新しいし、「こもれび山荘」という名前も新しい。多分、日本でいま一番新しい名前の山小屋って言ってもいいくらいじゃないかな? やるんだったら、本気で遊んだほうが楽しいですからね。

小屋のアイデンティティーは、「新しいことをやり続けること」|「「我慢しなくていい山小屋を作りたい」南アルプス・こもれび山荘」の6枚目の画像

取材のあとがき

竹元さんの饒舌なトーク、そしてホールに流れるゴキゲンなサウンドも相まって、終始楽しいひと時となった今回の訪問取材。お堅い役所を自ら説得し、とことんユーザー目線での改装にこだわる姿勢。それは、こもれび山荘を訪れる人たちになるべく我慢をしてほしくないから。そんな想いが伝わってきました。

小屋のアイデンティティーは、「新しいことをやり続けること」|「「我慢しなくていい山小屋を作りたい」南アルプス・こもれび山荘」の10枚目の画像

来年5月下旬頃には、音楽とお酒を楽しむアイリッシュミュージックのイベントを開催予定など、こもれび山荘らしい“新しい取り組み”を絶賛計画中とのこと。年末年始の営業も行うそうなので、「夏まで待てないよ!」という方はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?きっと、快適で温かい時間を過ごせるはずですよ。

小屋のアイデンティティーは、「新しいことをやり続けること」|「「我慢しなくていい山小屋を作りたい」南アルプス・こもれび山荘」の12枚目の画像
北沢峠 こもれび山荘(旧長衛荘)

営業期間:
冬季営業 2017年12月23日~2018年1月7日まで
通常営業 2018年4月25日~11月上旬(予定)

予約電話:
0265-94-6001(伊那市観光株式会社)

ウェブサイト:
https://www.facebook.com/komorebisansou.southernalps


(写真:茂田 羽生

山畑 理絵

春夏秋冬、日本の美しい山を求めて歩きまわっています。

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この記事を書いた人

山畑 理絵

音楽プロダクションの制作、アウトドアショップの販売員を経てライターになる。のんびり日帰りハイクからガッツリテント泊縦走、トレイルランニング、ボルダリング、スキーと四季を通してフィールド三昧。アウトドア媒体をメインにライター活動をする傍ら、アロマテラピーインストラクターとして「山とアロマ」をテーマに、神出鬼没なワークショップを展開中。

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